100(2013年7〜8月)
2013年12月5日発売「星ナビ」2014年1月号に掲載
289P/ブランペイン周期彗星(1819 W1=2003 WY25)
2013年7月6日17時35分に東京の佐藤英貴氏から、小惑星センターの新天体確認ページ(NEOCP)に掲載されている一天体(P107vs5)をサイディング・スプリングにある51cm望遠鏡で7月5日に捉えたことが報告されます。氏の報告には「この天体には強く集光した17"のコマがあって、光度は19.5等。天体は、彗星であるものと思われる」という注釈がつけられていました。この新天体は、Pan-STARRSサーベイで2013年7月4日にいて座を撮影した捜索画像上に発見された彗星状天体でした。天体は新彗星として報告され、NEOCPに掲載されたものです。発見光度は20等級。発見時、彗星には南東に広がった10"のコマがありました。同サーベイがマウナケアに確認を依頼したところ、7月5日に3.6m望遠鏡で観測され、似たような形状で南東に広がった8"の尾が見られました。佐藤氏から報告があった約5時間後の22時15分には「この彗星は小惑星2003 WY25と同定された」というMPEC 2013-N20が届きます。編集者はギャレット(ウィリアムズ)でした。しかし、そこには何のコメントもありませんでした。
というのは、同定が指摘された小惑星2003 WY25は、今から約10年前の2003年11月22日にカテリナ・スカイサ−ベイの68cm f/1.8のシュミット・カメラで、くじら座を撮影した捜索画像上にミチェリーが発見したアポロ型特異小惑星でした。しかし2005年になって「この小惑星は、200年近く前の1819年に出現して、その後見失われているブランペイン彗星(T=1819年11月20日)と同定できる」ことがすでに公表されていたからです。そのため『あれ、あいつ(ギャレット)、この同定を忘れているのかな』と思いながら、その回報を見ました。『なぜそう思ったのか』というと、ちょうど2年前の2011年、MPC誌上への掲載用にギャレットが尋ねてきた「2014年に回帰する彗星」の予報を送ったときに、その中の彗星の1つについて、8月9日に彼から「D/1819 W1の予報軌道をMPC誌上に公表するのは、同定相手の小惑星2003 WY25が検出されてからにしよう。今は、回帰リストからこの予報をはずしておくのがベストだ」という返信を送ってきていたからです。
ところでブランペイン彗星は、1819年の発見時、地球に0.34auまで接近し、約6等級で観測されていました。また、1957年にはリドレイが「この彗星は、1956年12月5日に出現したほうおう座流星群の母天体である」という可能性を指摘していました。一方、小惑星2003 WY25も、2003年12月に地球に0.025auまで接近し、14等級まで明るくなりました。しかし、発見時の観測では、その形状は完全な恒星状と報告されています。また、その標準等級はH=21.3等と、その直径が約200mの小型の小惑星でした。この小惑星については、当時多くの観測が報告され、日本でも、秦野の浅見敦夫氏、雄踏の和久田俊一氏、宇都宮の鈴木雅之氏、美星スペースガードセンターから36個の追跡観測が報告されていました。
小惑星2003 WY25の発見は、2003年11月23日に発行のMPEC 2003-W41に公表されました。その改良軌道の1つが12月27日発行のMPEC 2003-Y78に公表されます。2004年になって、イタリーのフォリアから「ミチェリーが同回報にあるこの小惑星の軌道を過去に積分した結果、この彗星(1819 W1)と同定できることを指摘している」ことが報告され、それから約1年遅れで、その同定がIAUC 8485(2005年2月13日発行)に公表されました。そのとき、1819年と2003年を結んだ連結軌道がマースデンや私(NK 1168)によって計算されました。連結軌道からは、この200年間に彗星は木星に何回かの接近を繰り返し、その近日点距離が当初のq=0.89auから、2003年にはさらに地球に接近可能なq=1.00auに変わっていました。そして、地球には1866年11月に0.080au、1919年12月に0.049au、2003年12月に0.025auまで接近したことが確かめられていました。しかし、このとき彗星は、すでにその遠日点近くにいて観測できず、この同定は確かめられませんでした。
次回の近日点通過は2009年4月30日でした。しかし小惑星2003 WY25は小さく、さらにその周期が約5.41年とほぼ半年の端数があるために、地球と小惑星の接近位置と反対側を通過する(地球に接近しない)ため、2003年出現時から予報される光度は25等級でした。しかし、天体の重要性を考慮して、ダン(グリーン)と相談して、その予報をHICQ 2009/2010に掲載しました。ただ、観測条件も悪く観測されませんでした。その次の近日点通過は2014年8月でした。通常ならば、今年発行されたHICQ 2013に掲載されてもおかしくありません。しかし、2003年出現時から計算される予報光度は2013年夏にはやはり25等級以下で、その掲載は次年号(HICQ 2014)まで見送られました。
しかし観測を送ってきた佐藤氏は、この同定を覚えていたようです。MPEC 2013-N20が発行されたわずか12分後に「先ほど、新彗星として報告したNEOCPにあるPANSTARRSサーベイ発見の天体P107vs5は、小惑星2003 WY25であるとのMPECが発行されました。ブランペイン彗星(1819 W1)との同定の可能性はどうなったのでしょうか。私の観測では、おそらくバーストから2〜3日経ったような姿です。この彗星は南に低いので、しばらく豪州で追跡してみようと思っています。興味深い天体なので取り急ぎ、画像を送らせていただきます。ご高閲願えましたら光栄です」というメイルとその画像が届きます。さらに氏からは23時08分に7月6日の観測が送られてきます。このとき、彗星は17.5等に増光していました。
この夜(7月6/7日)は自宅を離れられませんでした。そこで自宅で予報軌道(NK 1168)からの2013年の再観測の残差を見ると、予報位置から赤経方向にわずかに+16"のずれしかありません。今年の観測は、予報軌道によくフィットしており、近日点通過時の補正値にしてΔT=-0.038日でした。さっそく、1819年から2013年の3回の出現を結んだ連結軌道を計算すると、2003/2004年と2013年の観測は問題なく連結でき、1819年時の観測の残差も約3゚以内に収まります。非重力効果を考慮すると過去の観測の残差はもっと小さくなるのでしょう。つまり、この同定は正しいことになります。この結果を7月7日02時12分にダンに知らせました。
その日(7月7日)の朝は、09時30分にオフィスに出向きました。よく晴れた暑い日でした。すぐ連結軌道の再計算をしました。これまでに報告された観測から1819年との連結軌道を計算すると、非重力効果を加算して1819/1820年、2003年、2013年の観測を結ぶ軌道(NK 2535)が計算でき、小惑星2003 WY25は、ブランペイン彗星の回帰であることが確認されました。このときの非重力効果のパラメータは、A1=+0.10、A2=-0.0054でした。この連結軌道は10時20分にダンとギャレットに送付し、ギャレットは、この軌道を元にした連結軌道を13時50分到着のMPEC 2013-N21に公表しました。ダンは、14時16分到着のCBET 3574でこの同定(1819 W1=2003 WY25=2013年の観測)を公表しました。
その後の追跡観測がCCD全光度とともに7月7日に17.3等(佐藤)、17.8等(安部裕史;八束)、18.8等(美星スペースガードセンター)、8日に17.9等(門田健一;上尾)、18.5等(関勉;芸西)、9日に7.6等(安部)と報告されました。これらの観測群から1819/1820年、2003年、2013年に行われた309個の観測を結んだ新しい連結軌道(NK 2539)を計算しました。この軌道の非重力効果のパラメータは、A1=+0.12、A2=-0.0052でした。彗星の標準等級は、1819年の出現時にはH10=8.5等、今回の出現時のそれはH10=9.5等で、発見以来、約200年が経過している彗星にしては、大きく衰弱していませんでした。なお7月7日の佐藤氏の観測では、彗星には集光した30"のコマ、7月9日の安部氏の観測では20"のコマがあって拡散しているとのことです。今後、この増光が続いていくならば、2014年の近日点通過時(8月28日)には10等級まで明るくなります。実際にはどうでしょうか……。
いるか座新星 Nova in Delphinus 2013
2013年夏は東も西も大雨なのに、日本列島の中間にあるここ(兵庫県淡路島)は雨一滴も降りません。さらに7月から8月にかけて、35℃を越える猛暑が毎日続いていました。しかもその猛暑の中、入院中の母親の容態をみに行くために毎日30kmの道程を昼間に走っていました。こちらの方がもう「くたばり」そうでした(実際にしばらく、くたばりました)。しかし、天気予報を見ると7月9日頃から7月18日頃にかけて、山形付近はまだ梅雨前線が居座り、ず〜っと雨の予報でした。そこで、7月19日19時59分に板垣公一氏に『山形は、この1か月ず〜っと雨ですね。こちらは耐えられないほどの猛暑が続いています。「山形は涼しくっていいなぁ……」と思っていたら、今日は、余りあるほどの雨が降ったようですね。また、また、冷却効果抜群で、まことにうらやましい限りですが、被害はなかったですか』というメイルを送っておきました。
すると、その夜23時29分に氏から「今晩は……。ご心配をいただきましてありがとうございます。山形市は何の被害もありませんでした。今、栃木の星小屋にいます。今日来ました。機材のメンテナンスです。疲れました。でも楽しいです。山形は梅雨の最盛期です。毎日雨です。まったく晴れません。そちらは「灼熱」ですか。でも晴れていいなぁ……。曇天の栃木の小屋から」という返信が届きます。さらにそれを見た大崎の遊佐徹氏からも7月20日11時19分に「暑中お見舞い申し上げます。子どもたちは夏休みに入りましたが、宮城は涼しい毎日が続いております。この大雨で市内の河川に氾濫危険情報が出ていましたが、昨日すべて解除されました。大崎生涯学習センターでは、大雨の被害はなかったものの、雨漏りが新たに見つかり頭をかかえております。さて、先日に板垣さんから、SN 2006jc(本誌2007年6月号参照)の発見前の観測画像をいただきました。板垣さんの発見は2006年10月9日で、新たな画像は10月3日です。発見6日前の画像ということになります。板垣さんの発見画像と今回の画像をもとに、視野内の複数のTychoカタログの比較星で光度測定しました。すると、この星は発見後、急速に減光していきましたが、10月3日は発見時より0.9等明るい状態であることがわかりました。大変話題になった超新星ですので、とても貴重な観測だと思います。中央局にも報告した方がよいでしょうか。とりあえず一般向けに、当センターのホームページに掲載しました」というメイルも届きます。
さて、その猛暑は8月に入っても毎日続いていました。8月14日昼に所用があったので、その夜(8月15日)は01時10分に睡眠につきました。すると02時56分に携帯が鳴ります。板垣さんです。氏の電話は「明るい新星を見つけました。中央局の天体確認ページ(TOCP)に入れましたが、ダンさんに報告してくれませんか」という話でした。氏からの報告をしばらく待ちましたが、午前03時になっても届きません。そこで『まだ来ないよ〜』と電話を入れると「昨夜の画像を見ていて、よくわからなくなってきた。もうちょっと待ってください」とのことでした。そして、03時37分に氏から「今、送りました」と連絡があります。メイルを見ると同じ時刻に板垣氏の発見報告が届いていました。そこには「2013年8月14日23時01分に180mmレンズ+CCDカメラで夏の天の川にあるいるか座を撮影した捜索画像上に6.8等の明るい新星を発見しました。発見4時間後の8月15日02時59分に60cm f/5.7反射望遠鏡でこの新星が6.3等まで増光していることを確認しました。この新星は、1日前の8月13日22時33分に撮影した捜索画像上には、まだ出現していません」と報告されていました。電話では光度は聞いていませんでした。久しぶりの明るい新星です。急いで氏の発見をダンに報告しました。『明るい新星発見』というサブジェクトをつけてです。03時54分のことでした。
すると、氏からは04時56分に「あらためておはようございます。山形はこの2か月ほどまったく晴れませんでした。しかしこの数日、しばらくぶりに晴れました。でも透明度はかなり悪いです。先ほどは報告をありがとうござました。頭が空っぽで時間がかかってしまい、ごめんなさい。過去画像を調べるのに時間がかかりすぎました。反省とともに今後の課題とします」という連絡がありました。その日の朝、07時02分になって板垣氏には『明るい新星なので、けっこうTOCPに反応がありますね。5等台に上がってくれればと思いますが、ここらが極大なのでしょうか』というメイルを送りました。08時05分に氏から返信があります。そこには「今、目が覚めました。30分ほど寝ました。もう大丈夫です。すっきりしました。TOCPの反応はすごいですね。びっくりしました。明るさが機材や星表によってかなり違いますが、今後の光度変化が楽しみです。昔の「いるか座新星」を思い出しました。何かとありがとうございます」という返信が届きます。そこで09時36分に『そうですねぇ。あれは1967年でしたっけ。あのとき、発見前の画像があって、神田先生が中央局に報告してくれました。それがIAUCに私の名前が載った最初のことでした。うれしかったです。そのIAUCを先日偶然見かけ、当時のことを思い出しました』というメイルを返しました。
お昼を過ぎて13時53分に遊佐氏から「板垣さん。このたびは、いるか座新星の発見、おめでとうございます。明るいですね。さらに増光して、さきほど5等級の観測情報も入ってきました。肉眼新星になりましたね。今朝、朝ごはんの前にスペインにある43cm望遠鏡を使用して、8月15日08時頃にこの新星を観測しました。先ほど昼休み中に測定して、CBATに報告しました。V光度で6.7等でした。今、発見を公表したCBET 3628が到着しました」という報告が届きます。私には、この回報はその11分後の14時04分に届きます。久しぶりの明るい新星の出現ですが、板垣氏の単独発見でした。これは近年では珍しいことです。明るい新星であったためか、世界各国の多くの観測者によって捉えられました。それによると、この新星はまだ増光中で、6等級前半まで明るくなっているようでした。【次号に続く】