101(2013年8〜9月)
2014年1月4日発売「星ナビ」2014年2月号に掲載
いるか座新星 Nova in Delphinus 2013
【先月号からの続き】2013年8月14日深夜、山形の板垣公一氏は、いるか座を撮影した捜索画像上に6.8等の明るい新星を発見しました。発見4時間後に行われた氏の確認観測では、新星は6.3等まで増光していました。この新星の発見は8月15日14時04分に到着のCBET 3628に公表されました。最近では、新星発見の多くは、複数の発見者からの報告が重なります。しかしこのときは、久しぶりの明るい新星の出現でしたが、板垣氏の単独発見でした。これは近年では珍しいことです。明るい新星であったためか、この新星は、世界各国の多くの観測者によってとらえられました。CBET 3628によると、この新星はまだ増光中で、6等台前半まで明るくなっていました。その日の午後には、大崎の遊佐徹氏より「新星はさらに増光して、さきほど5等級と観測されました」という情報も入ってきました。
ところで、先月号の板垣氏の8月15日のメイルにある「昔の“いるか座新星”を思い出しました」について、私は09時36分に『そうですねぇ。あれは、1967年でしたっけ。あのとき、発見前の画像があって、神田茂先生が中央局に報告してくれました。それがIAUCに私の名前が載った初めてのことでした。うれしかったです。そのIAUCを先日、偶然見かけ、当時のことを思い出しました』という返信をしたと先月号に書きました。すると、遊佐氏から17時50分に「1967年のいるか座新星について調べてみましたら、次のウェッブ・ページが見つかりました。1967年7月の発見時が8.9等で、12月に3.5等まで明るくなったのですね」というメイルが届きます。さらに19時31分には、上尾の門田健一氏からも「板垣さん。発見おめでとうございます。明るい天体で驚きました。先ほどアストロアーツのウェブニュースに掲載されました。1967年の新星は、ゆっくりと増光した新星の1つだったらしく、だいぶ経過してから最大光度でした。板垣さんの新星は、遊佐さんの観測では青かったことが印象的でした。増光中のようで、もっと明るくなるといいですね。こちらでも過去のいるか座新星が話題になり、調べてみると発見を報じるIAUCと写真が見つかりました。なお、最近でも12等級で観測されているようです」というメイルが届きます。『えぇ……、そんなに明るくなかった。そういえば、いるか座第1、第2新星があったっけ……』と昔のことを思い出しました。このことは、あとになってみんなに『あっ……、それと門田さん。最初に私の名前が出たIAUCは、いるか座第2新星だと思います』とちょっとばつが悪く、とぼけて知らせておきました。8月29日夕方のことです。
その夜(8月15/16日)、20時16分になって板垣氏の新星発見を報道各社に伝えました。その日の明け方、04時48分に板垣氏から「このたびは本当にありがとうございました。あらためてお礼を申し上げます。また、新天体発見情報No.197を拝見しました。ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。今日も朝まで晴れでした。先ほどまで捜索していました。新星は8月16日03時半頃には5.2等まで明るくなっていました。遊佐さん。門田さん。何かとお世話になりました。ありがとうございます。三日徹夜したので少し疲れました。おやすみなさい」というメイルが届きました。
それから1日が経過した8月17日03時19分に、群馬の小嶋正氏から「板垣さんの発見したいるか座の新星を、今夜(8月17日)01時42分に観測できました。透明度がよくありませんが、肉眼で4.3等、添付の画像では、もう少し明るく写っているようです。久々の肉眼新星となりました」と新星が当夜、4等級まで明るくなっていることが報告されます。この氏の観測は、11時19分にダン(グリーン)に連絡しました。同じ日12時17分に遊佐氏から「昨夜、3色測光のついでにカラー画像をつくりました。8月16日20時00分のV光度で4.4等、B−V=+0.1で、眼視でも青く輝いていました。測光用のフレームの露光時間は、Rフィルターで0.2秒、Vフィルターで0.5秒、Bフィルターで1秒です。それより長いとサチってしまうほど明るいです」という光度観測も報告されます。
このように8月15/16日夜には、新星は4等級まで明るくなりました。星の広場HAL-Newsにも、坂戸の相川礼仁氏が8月16日23時55分に4.5等、横浜の菱倉勉氏が8月17日02時09分に4.8等と報告しています。そして新星は、8月20日頃に減光を始めたようです。
実は、この時期は明け方の空にISON彗星(2012 S1)が観測可能となった頃です。8月17日19時44分に栗原の高橋俊幸氏から「8月13日朝に撮影した10フレーム(60秒露光)の中から2フレームを選び、この彗星の全光度を13.9等と測光しました。精測位置は、次のとおりですが、残差が大きいと思われ、小惑星センターには報告していません。その後は天気がすっきりせず、この彗星の撮影はできていません」というメイルが届きます。そこで翌日朝になって『残差は、赤経で−2"、赤緯で+4"ほどずれていますが、これが軌道の精度によるずれなのか、他にまだ観測がないためにわかりません。光度は、他でもこんなものですね。眼視光度で12等級後半であればうれしいのですが……。ここ1週間ほどの間に、いい画像が撮影できればお送りください』というメイルを返しておきました。なお、氏の観測は、彗星が観測可能になってからの初観測(世界)でしたが、氏のメイルのとおり公表されていません。
超新星 2013fa in NGC 6956
8月23日夜からは久しぶりに小雨が降り始め、翌8月24日は一日中、曇ったり小雨が降ったりの天気でした。その天候は8月25日の夜まで続いていました。小雨が上がり始めた夜のことです。8月26日00時18分に山形の板垣公一氏から携帯に電話があります。氏は「超新星を発見しました。今、送りましたので報告をお願いできますか」という連絡でした。メイル・フォルダーを見ると「最近、歳のせいか勘違いが目立ちます。目を通していただいて、中央局に報告をお願いできますか。なお、これは山形から栃木の機材を遠隔操作して見つけたものです」から始まる氏のメイルが8月26日00時16分に届いていました。そこには「栃木県高根沢町にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、2013年8月25日22時07分に、新星発見と同じいるか座にある系外銀河NGC 6956を撮影した捜索画像上に16.2等の超新星を発見しました。発見後1時間の間に山形の60cm f/5.7反射望遠鏡で撮られた画像上にこの超新星の出現を確認しました。もっとも最近にこの銀河を捜索したのは2013年8月17日ですが、この日は超新星はまだ出現していませんでした。なお、超新星は銀河核から西に2"、北に8"離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。この氏の発見は、01時10分にダンに報告しました。そして、氏には01時16分に『今、お送りしたように報告しました。新天体の確認ページ(TOCP)にすでに観測が1つ入っていますので、注釈と画像のアドレスは入れません。もし、画像を示したいときは、TOCPにお入れください。なお、見事な二腕(何というか知りません)の銀河ですね』という連絡を送っておきました。
この超新星は、その夜のうちに確認されます。04時03分に香取の野口敏秀氏から「西の空の雲が中々動かず、時間がかかってしまいましたが、ギリギリとらえることができました。23cm f/6.3シュミット・カセグレンでの観測では、8月26日03時16分に15.8等でした」という報告が届きます。その直後の04時04分に板垣氏から「からすが新星と超新星を生みました」というサブジェクトがついた「先ほどはありがとうござました。今、捜索を終えました。あら、NGC 6956はからす座でした。これはびっくり……。お休みなさい」というメイルが届きます。私は『これは、何のこっちゃ……』と訳がわかりませんでした。しかしその10分後に「また勘違い。新星と超新星を産んだのはイルカでした」というメイルがあります。『あぁ……なるほど、そういうことが言いたかったのか』と納得しました。その日の朝、09時37分になって野口氏の観測をダンに報告し、仕事を終えました。09時45分には、板垣氏より野口氏宛に「いつも観測をありがとうございます。今年は山形も栃木も特に晴れません。たまに晴れても透明度が最悪です。澄んだ綺麗な空で捜索がしたいものです」というお礼が送られていました。さらにこの日の朝には、大崎の遊佐徹氏もこの超新星をとらえ、10時38分に報告が届きます。氏によると「先ほど、スペインにある望遠鏡で確認しました。8月26日07時09分に16.0等」とのことでした。
超新星 2013fb in IC 221
8月27日は、天候が回復し、久しぶりに快晴となりました。その快晴の空は夜まで続いていました。さらに気温も下がり、涼しい夜となりました。この快晴は次の夜(8月28日)も続き、冷たいくらいの夜になりました。その夕方のことです。部屋の中にコオロギが入ってきていることに気づきます。コオロギや鈴虫がやってきたのは、2年前の夏の終わりが初めてのことでした。でも今回は雌です。『お前。こんな所にやってきても雄は気づかないよ』ときゅうりで誘って、外に出そうとしましたが、中々外に出て行きません。『どうしようか』と困ってしまいました。ところが……です。夜になって、ベランダで雄のコオロギが鳴き出す声が聞こえます。『えぇ……、何てことだ。どうしてここに雌がいることがわかるんだ。山向きのベランダは全部で117戸もあるというのに……』とびっくりしてしまいました。
そんな自然の驚異を目にした8月28日の夜、22時39分に広島の坪井正紀氏から携帯に電話があります。『また、何か見つけたな……』と思い、電話に出ました。氏は「超新星を発見しました。今、報告を送ったところです」と話します。『見てみましょう』と答えてメイルを見ました。氏の報告は22時36分に届いていました。そこには「30cm f/5.3反射望遠鏡+CCDを使用して、2013年8月28日深夜01時23分に20秒露光でさんかく座にある系外銀河IC 221を撮影した2枚の捜索画像上に16.0等の超新星を発見し、今夜8月28日22時22時09分に撮られた5枚の画像上にこの超新星の出現を確認しました。このとき、超新星は15.6等でした。この超新星は、2013年8月19日に行った捜索時に撮影された極限等級18.2等の捜索画像上には、まだ出現していません。また、DSS(Digital Sky Survey)にも、その姿は見られません」と報告されていました。そして報告には「銀河中心からの離角は、東に15".59、北に35".9」と書かれてありました。
『あれ、赤経の小数点以下が2桁ある』と22時53分に氏に電話を入れて『これは、赤経の秒ですか』とたずねました。というのは、氏からの報告には、銀河中心位置がありませんので、この離角が超新星が銀河のどこに出現したかの重要なファクターになります。このときついでに『DSSの極限等級。発見枚数。どこかに画像を置けないか』とたずねました。23時20分と23時32分に氏から「角度の秒です。DSSの極限等級は21等級。発見フレームは2枚。Iフィルター使用です」と回答があります。画像のウェッブ・アドレスは23時31分にメイルで届きました。これで中央局に報告できます。そこで、氏のこの発見は23時39分にダンに伝えました。
この超新星は、その夜のうちに上尾の門田健一氏によって確認されます。8月29日03時49分に氏から「25cm望遠鏡で8月29日02時06分に16.0等と観測しました」という報告が届きます。朝になって、それを見た坪井氏から07時23分に「中野さん。中央局への報告ありがとうございました。5月の誤報で皆さまにご迷惑をかけたことで、今回の発見はけっこうプレッシャーになっていました。特に確認作業に時間をかけました。おかげさまで、門田さんからも確認の報告をいただき、とりあえずほっとしております。皆さん、ありがとうございました」というメイルが門田氏に送られていました。この夜は、とめられない仕事があったため、門田氏の観測をダンに送ったのは09時28分になってしまいました。
この日の午後には、15時16分に到着のCBET 3641で、板垣氏がNGC 6956に発見した超新星がSN 2013faとして公表されます。なお、発見直後に各地で行われたスペクトル確認では、この超新星は、極大数日後にあるIa型の超新星とのことでした。それを見た板垣氏から17時48分に「お陰さまでSN 2013faとして公表されました。ほんとうにありがとうございました」というメイルが届きます。そこで、氏には19時25分に『明朝、発見情報を出すことにします。インターネットで報じられるので、意味がなくなってきましたが……。遅れまして申し訳ありません』を送りました。つまり、とめられない仕事がまだ続いていたのです。実は、先に書いた『いるか座第2新星の件』を知らせたのはこのメイルとなりました。その夜(8月29日)になって、香取の野口敏秀氏から23時00分に「坪井氏の発見した超新星を観測しました。23cm望遠鏡で8月29日22時07分に16.4等でした」という報告があります。氏の報告をダンに送ったのも、8月30日朝07時55分になってしまいました。そして、板垣氏の発見した超新星を知らせる新天体発見情報No.198を発行したのは10時31分になりました。
その夜(8月30日)には、大崎の遊佐徹氏から20時53分に「坪井さんの超新星を先ほど、米国メイヒル近郊にある43cm望遠鏡で観測しました。8月30日19時02分に16.0等で輝いています」という報告があります。この超新星の発見は、それから1日半が経過した9日1日14時22分到着のCBET 3643で公表されます。そこには「スペクトル確認が国内の美星天文台、東広島天文台で行われ、極大光度少し前のIa型の超新星である」ことが報告されていました。この発見を伝える新天体発見情報No.199を発行したのは、その1日後、9月2日10時57分になっていました。坪井氏からは12時30分に「今回も皆さまのお陰で、早々にSN 2013fbの番号をいただくことができました。ありがとうございました。私にとっては、独立発見を含め10個目の記念になる発見になりました。今後もマイペースで楽しめたらと望んでいます」というお礼がみんなに送られていました。
その夜、22時38分には、遊佐氏から「本日、メイヒルのリモート望遠鏡でいるか座新星の多色測光を行いました。9月2日13時45分にV光度で7.1等。色指数B−V=+0.1ですが、V−Rは発見当初の0.4から今日は1.1と上がっていました。画像でも赤く写るようになってきたのがわかります。聞くところによると、赤く見えるのは、Rバンドに含まれるHα輝線が、発見当初に比べるとかなり強くなっているからだそうです。一方、B−VもU−Bを見ると、これから減光していって、青い方へ移っていくのだそうです。極大を過ぎて暗くなってくると、光学的に密度が薄い状態へと進化し、内側の高温部(白色矮星)が見えてくるので青くなるらしいです」という連絡がありました。また、9月3日21時07分には野口氏から「新天体発見情報No.198、No.199を受領いたしました。いつも報告にご尽力いただき、ありがとうございます。中野さんからの新天体発見情報も、坪井氏の発見数と同じ、ちょうど10回目となりました。少しでもお役に立てるよう観測を続けていこうと思います。今後ともよろしくお願いいたします」というメイルも届いていました。