106(2014年1月)
2014年6月5日発売「星ナビ」2014年7月号に掲載
超新星 2014F in NGC 6667の発見
2014年1月12日はよく晴れた寒い朝でした。先月号で出だしを書いたとおり、2014年1月12日07時16分に山形の板垣公一氏より携帯に電話があります。氏は「まだ栃木にいます。そのおかげで1つ超新星を見つけました。今、報告を送りました」と話します。その氏のメイルは07時17分に届いていました。そこには「高根沢の50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを使用して、1月12日早朝05時53分にりゅう座にある系外銀河NGC 6667を撮影した捜索画像上に16.8等の超新星状天体(PSN)を発見しました。画像の極限等級は18.5等級です。20分の追跡で移動は認められません。最近の画像はありませんが、2007年に撮影した捜索画像上にはその姿は見られません。超新星は、銀河核から西に44"、北に15"離れた位置に出現しています」という発見報告が記載されていました。08時04分に氏の発見をダンに送付しました。板垣氏には08時13分に『報告を送りました。あれ……未確認天体確認ページ(TOCP)に画像のアドレスが入っているものと思い、報告に入れませんでした。TOCPに入れておいてください。ところで「豆の板垣」製のボールペンが届きました。手早く送っていただき、ありがとうございます。これ、ものすごく書きやすくって愛用しています。ありがとうございます』という連絡を送りました。板垣氏からは11時24分に「今、起きました。風邪で頭が痛いです。3通のメイルを拝見しました。ありがとうございます。栃木の星小屋から……」というメイルが届きます。先月号で紹介した超新星2013huの新天体発見情報No.208を発行したのは、この直後のことです。
その日(1月12日)の夕方になって、赤緯が+68゚近くにあるこの銀河を夕方の空に観測した香取の野口敏秀氏から「板垣さん発見のNGC 6667のPSNの観測報告です。北西の低空でしたが、明朝まで待たずに確認できました。1月12日17時46分に23cm望遠鏡で確認しました。光度は17.1等でした。ところで板垣さん、風邪の具合は如何ですか……」という確認観測が届きます。早々と行われた氏の観測は19時06分にダンに送りました。するとそれを見た板垣氏から19時14分に「こんばんは。すごいですね。私も先ほど挑戦しましたが測定できる画像は撮れませんでした。風邪は空が晴れてるので忘れていました。微熱があるかも……。頭とのどが痛いです。捜索には、風邪よりも風が困ります(笑)。ありがとうございます」というお礼が野口氏に返されていました。同じ夜、20時31分には、大崎の遊佐徹氏からも「板垣さんのPSNを、14時40分頃にスペインにある望遠鏡で確認しました。16.7等でしっかりと写っています。スペインの32cm望遠鏡は低いところに筒が向かないために、スペインで薄明前に高度が最大になるぎりぎりの時刻を待っての撮影でした。仙台市天文台の勉強会に参加するため、今回も予約機能を使った自動撮影に挑戦しました。心配だったガイド・エラーもなく順調でした。板垣さん。風邪をこじらせないように気をつけてくださいね」という報告があります。その氏の観測では、超新星は14時49分に16.7等とのことでした。この報告を見た板垣氏は21時31分に「遠隔操作に予約撮影ですか。びっくりですね。晴天は何よりの風邪薬のようです。もしかしたら万病の薬かも……。ありがとうございます」というお礼を送っています。いつものことながら、捜索の合間に「お礼を送る」という板垣氏の『豆』な姿には敬服の至りです。
超新星 2014G in NGC 3448の発見
NGC 6667の超新星の発見が公表されない1月14/15日の深夜01時43分に、板垣氏から携帯に電話があります。『またまた何か見つけたな……』と思って電話に出ると案の定「超新星を発見しました。ちょっと前にメイルを送りました」とのことです。氏の報告は01時40分に届いていました。そこには「高根沢の50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、2014年1月14日22時46分におおぐま座にある系外銀河NGC 3448を撮影した捜索画像上に15.6等の超新星状天体を発見しました。この星は、1月7日の捜索時にはまだ出現していませんでした。しかし、発見前夜1月13日23時39分に撮影した捜索画像上には約17.5等級で写っていました。超新星は銀河核から西に44"、南に20"離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。この発見は、02時16分にダンに送付しました。夜が明けた1月15日07時11分になって、板垣氏より「おはようございます。昨夜深夜に中野さんに電話を終えたあと、すぐ寝ました。風邪がイマイチです。のどが痛いです。報告ありがとうございました」というメイルが届きます。
その日(1月15日)の昼12時55分に、主に彗星観測を精力的に行っている東京の佐藤英貴氏より最近の彗星の観測状況について「あけましておめでとうございます。2014年も新発見されたすべての彗星を観測するつもりで観測を行いたいと思います。ただ、NEOWISEサーベイが復活してしまったため、ひじょうに暗い彗星の発見が多くなると思われ、すべての観測は困難かもしれません。先日報告した2013 LD16は、外見は小惑星ですが、近日点通過前からは2等程度増光しており、今後彗星に化けると思われます」という連絡が届きます。その佐藤氏のメイルの最後に「ところで昨日に板垣さんが発見された超新星(NGC 3448)は、ウィギンスが発見同日、板垣氏より6時間ほど早い16時36分に17等級の一天体として発見し、小惑星観測者のメイリング・リストに“移動速度の遅い天体ではないか”と報告していた天体です。私も昨日に確認観測を行いました。1月14日20時54分に15.6等と明るい超新星で、板垣さんの1月13日の観測(17.5等)と併せると爆発直後の天体でしょう。今後、もう少し明るくなるでしょうか」という「この超新星が天体として発見されていた」という連絡と氏の観測が届きます。この件は13時08分にダンに連絡しました。すると、何のことかわからなかったのか、板垣氏より13時54分に問い合わせの電話があります。そこで14時43分に氏に佐藤氏のメイルと説明を送りました。15時33分には板垣氏より「拝見しました。理解できました。ありがとうございます。最初は何のことか全くわかりませんでした。ところで、佐藤さんの彗星観測はすごいですね。私も今年は彗星探しに力を入れてみます」という返信がありました。
その日(1月15日)の夜になって、香取の野口氏から23時22分に「板垣さん発見のPSNの観測報告を致します。千葉県東部はなかなか雲が取れず、遅くなりましたが、やっと姿をとらえることができました。明るいです。板垣さん。風邪は万病の元、どうか御自愛ください。ところで、銀河中心の位置が板垣さんの測定値と少し誤差(わずかに2".4ほどです。著者計算)が出てしまいました。原因を調べてみます」というメイルとともに「23cm望遠鏡で1月15日22時50分に15.1等でした」という報告があります。そのメイルを見た板垣氏から23時52分に「あっ、すみません。私のミスです。風邪よりも、酷使の為か眼がボケボケです。完治しない変な病にかかってしまいました。星が点像に見えなくなりました。もう少し悪化したら“ダメもと”で手術とのことです。皆さん。健康には気をつけましょう。観測をありがとうございます」という返事が野口氏に送られていました。野口氏の観測は、このあと1月16日00時01分にダンに送りました。さらに上尾の門田健一氏からは、02時24分に「NGC 3448のPSNを観測しました。明瞭な恒星像が確認できます。25cm望遠鏡で同夜1月16日00時58分に15.2等と確認しました。板垣さん、どうぞお大事になさってください」という報告も届きます。
この夜は、疲れていたので門田氏の観測の処理をしないまま眠ってしまいました。すると、10時04分と10時19分にダンから「ウェッブサイトが改ざんされたかもしれないので、申し訳ないがお前が送ってきた最後の2通のメイルを再送してくれ」というメイルが届きます。そこで要請のあった2通のメイルを11時34分に、そして門田氏の観測を11時34分に送付しました。『ウェッブサイトが動いてないのか』という問い合わせには「違う。アンチSPAMソフトを注入したときに動きがおかしくなったので、過去24時間にメイルのあった送信者すべてに同じことを要請した」という返事が返ってきました。
板垣氏が1月16日朝に門田氏宛に「観測をありがとうございます。先ほどUCAC4カタログで測定したら、超新星は1月16日05時25分に14.6等でした。3時間ほど前の門田さんの測光値(15.2等)とはだいぶ差が出ましたが、お調べいただけますか」という依頼を送ったようです。門田氏は1月17日02時15分に「送っていただいたフレームを測光してみました。PSNは15.0等でした。標準星は、Tycho-2カタログにあるの12.27等(B-V=0.525)の星です。1個の標準星では誤差が大きくなるのですが、他のTycho-2星は飽和していて使えませんでした。3個程度の標準星のカウント値を平均することが望ましいです。こちらの測定では、PSNのすぐ外側4方向をスカイとして平均し、PSNのカウント値から引いています。PSNは銀河に重なっていますので、腕のやや明るい部分を除外していることになります。銀河の腕ではない部分をスカイとすると、明るめに測光されると思います。また、測定に使った標準星の色や光度の違いで結果に差は生じますので、測定のシーケンス(手順)が異なることよる光度差は気にしなくてよいのではないでしょうか。ちなみにこちらの測定はすべて手作業ですので、PSNと標準星、それぞれのスカイで合計10か所のカウント値を測りました。時間が掛かって面倒なのですが、彗星を測るにはコマの広がりを考慮する必要があるために手作業で測定しています。銀河の腕に重なっていない恒星を測定してみてください。目視の明るさ順と合っていれば、測定した光度には矛盾がないことになります。試しにPSNよりやや明るい星とやや暗い星、2つの星を測ってみました。結果は、それぞれ14.8等と15.4等でした」という氏の調査が板垣氏に送られていました。
超新星 2014Fと2014Gの公表
板垣氏が1月12日早朝NGC 6667に発見した超新星は、1月17日15時38分に到着のCBET 3785で公表されます。そこには、国内外で行われた上記以外の光度観測もありました。超新星は1月13日に東広島天文台の1.5m望遠鏡でスペクトル確認が行われ、極大光度に近いII型の超新星であることが掲載されていました。翌1月18日11時33分に新天体発見情報No.209を発行し、報道各社にこの発見を伝えました。
さらにNGC 3448に発見された超新星も、1月18日16時38分到着のCBET 3787で公表されます。そこには、国内外で行われた上記以外の光度観測もありました。なお、発見後に国内外の天文台でスペクトル確認が行われ、その結果、この超新星は爆発すぐあとのIIn型の超新星とのことが紹介されていました。翌1月19日22時23分に新天体発見情報No.210を発行し、この発見を伝えました。なお、1月19日夜に行われた野口氏の観測ではこの超新星は14.6等であったことが報告されました。
M82に出現した明るい超新星 2014J
2014年1月22日21時09分に香取の野口氏より「M82(=NGC 3034)に明るいPSNが出現したようで、さっそく撮ってみました。TOCPにはすでに数多くの報告が掲載されていますが、久しぶりの明るいPSNでしたので報告致します。めったに雪の降らない千葉県東部も昨夜は雪化粧しました」というメイルとともにこの超新星の観測が届きます。そこには「23cm望遠鏡による観測では1月22日20時46分に11.4等でした」という観測がありました。実は、超新星や新星にまったく興味のない私は、ふだんTOCPを見ることはありません。そのため、野口氏のメイルで初めて、この明るい超新星がTOCPに掲載されていることを知ったのでした。もちろん、氏の観測は22時13分にダンに報告しました。
1月23日15時21分に到着したCBET 3792によると、この超新星は、ロンドン大学天文台の35cmシュミット・カセグレン望遠鏡で2014年1月22日04時過ぎに発見されたものです。おおぐま座にあるメシエ天体M82は光度が8.4等、視直径が9'×4'の大きな銀河で、超新星はこの銀河核から西に55"、南に21"離れた位置に出現していました。すぐ隣にある6.9等の銀河M81(=NGC 3031)とともによく知られています。私たちからの距離は、両銀河ともおよそ1200万光年のいわゆる近接銀河です。ただ、M81は綺麗な渦巻銀河ですが、M82は銀河の中心からの約1万光年に及ぶ噴出物が見られることでよく知られています。真実かどうかその後の経過は知りませんが、1960年代に新聞紙面に「銀河の大爆発」という表題でパロマー122cmシュミットで写したこの銀河の写真が掲載されていたのを覚えています。
そのCBET 3792には、発見前の超新星の姿が山形の板垣氏の撮影していた捜索画像上に見つかっていたことが報告されていました。氏によると「この超新星は、1月14日の画像上にはまだ17等以下でその姿が見られないが、翌1月15日には14.4等で写っていた。さらにその後の捜索画像上では、1月16日に13.9等、17日に13.3等、19日に12.2等、20日に11.9等」と次第に増光している様子がとらえられていました。また、発見後1日間に国内外で10等〜11等級で観測されていました。あとになって板垣氏は1月25日のメールで「……ところで、M82の大物天体を何日も見逃してしまい落ち込んでます。ほんのもう少しコントラストを下げていれば……と猛省してます(涙)」と書いています。そこで氏には『大きな銀河に出現した超新星は、その光芒にうずもれ難しいということでしょうか。さらに「大きな銀河には出現していない」という意識もあるでしょうし、多くの捜索画像を見て「あっ、ない」「あっ、ない」で次へ進みますので、そういうこともあるのでしょうね。次回に期待します』という返信を送っておきました。発見直後に行われた世界各地でのスペクトル観測では、この超新星は極大数日から約1週間、あるいは約2週間前のIa型の超新星らしいとのことでした。なお最近では、2011年8月にM101(=NGC 5457)に出現した超新星2011feが約9等級まで明るくなっています。【次号に続く】