107(2014年1月)
2014年7月5日発売「星ナビ」2014年8月号に掲載
M82に出現した明るい超新星 2014J
【先月号からの続き】中央局のウェブサイト未確認天体確認ページ(TOCP)に掲載されたM82に出現した11等級の明るい超新星は、1月23日15時21分に到着のCBET 3792でSN 2014Jとして公表されました。そこには、その発見前の超新星の姿が山形の板垣公一氏の撮影していた捜索画像上に見つかっていたことが報告されていました。氏によると「この超新星は1月14日の画像上には、まだ17等以下でその姿が見られないが、翌1月15日には14.4等で写っていた」ことが伝えられていました。さらにその後の捜索画像上では、1月16日に13.9等、17日に13.3等、19日に12.2等、20日に11.9等と次第に増光している様子がとらえられていました。しかし、残念ながら板垣氏は、その姿を見落としてしまいました。超新星を見落としたという報告は、加古川の菅野松男氏からも1月23日17時43分に届きます。氏の報告では「M82を1月2日、13日、15日と撮影していましたが、1月15日の画像上に見落としてしまいました。昨夜は雲が出てきたために01時半ごろに捜索を中止しました」と書かれてありました。
それから数日が過ぎた1月29日03時53分に山口の吉本勝己氏から「西村栄男氏が1月25日にヘルクレス座に発見した新星状天体(後述)の私の観測をTOCPへ転載していただいたこと、お世話になりました。矮新星では……と思っているのですが、分光観測が待たれますね。M82のSN 2014Jは1月27日03時05分にV光度で10.88等と少し明るくなっています」というメイルがあります。念のため、その日(1月29日)の午前11時21分に吉本氏に『いつも情報をありがとうございます。これはグリーンには報告しましたか。まだの場合、機材、撮影データをお知らせいただけませんか』というお願いを送りました。12時35分に吉本氏から「いえ、グリーンにはまだ報告しておりません。16cm f/6.3反射望遠鏡での測光値です。V光度以外の各波長の光度は、B光度が12.11等、Rc光度が10.24等、Ic光度が9.85等でした」という報告がありました。そこで、12時54分に氏の観測をダン(グリーン)に送付しておきました。なお吉本氏のこの観測は、2月18日06時50分到着のCBET 3807で公表されました。そこには、超新星の眼視光度観測が1月25日に11.1等(レーキ;チェコ)、28日に10.9等(シュメアー;独)であったことが公表されていました。
ヘルクレス座の新星状天体
2014年1月25日は、前日からの晴天がまだ続いていました。その日の朝、10時06分に掛川の西村栄男氏より「彗星捜索中に下記の天体を発見しましたのでよろしくお願いします。矮新星の可能性が高いと思います」というメイルとともに「1月25日04時46分にヘルクレス座を200mm f/3.2レンズの2連のカメラで30秒露光で撮影した4枚の捜索画像上に、13.1等の新星状天体(PN)を発見しました。この星は、1月19日と23日に、同星域を撮影した極限等級15等級の捜索画像上には写っていません。なお、AAVSOのサイト、2MASSカタログにはこの星の記載がありません。デジタル・スカイ・サーベイ(DSS)の画像上と星表に約21等級ほどの星があるようです」という発見報告が届きます。西村氏から送られてきた画像から位置を測定し、氏の報告位置と合っていることを確認しました。そして、この報告は12時39分にダンに送付しました。すると、山形の板垣公一氏から13時44分に「最近の画像は山形にはありませんでした。参考までに去年の11月1日の画像を見てください。出現位置には15等級より明るい天体はないようです。ところで、M82の大物天体を何日も見逃してしまい落ち込んでます……」。この後、先月号で掲載した反省の言葉が続きます。この氏の「11月1日には星はない」という報告を14時01分にダンに伝えておきました。また、西村氏からは15時33分に「さっそく対応いただきありがとうございました。今朝はうす雲がかかり、晴れ間を探しての捜索でした。小さなレンズですが、月光の中でも12等級のPanSTARRS彗星が検出できるので、彗星捜索を気を良くしてやっています。いつもお願いをするばかりで申し訳ありません。今回も本当にありがとうございました」と報告を確認したというメイルがあります。
西村氏の発見が報告された日から全国的に天候が崩れ、ここでは1月26日朝は小雨、午後は本格的な雨になりました。しかし夕方には雨が上がってきました。その夜の21時06分に大崎の遊佐徹氏から「米国メイヒル近郊にある25cm望遠鏡で1月26日19時18分に確認し、分光観測を行いました。V光度で14.1等でした。DSSには1987年6月28日の画像上、ほぼ同じ位置に18.9等星があります」という報告があります。その夜の明け方(1月27日)04時50分に香取の野口敏秀氏から「1月27日03時43分に23cm望遠鏡で観測しました。14.2等でした」という報告があります。報告では、野口氏も遊佐氏と同じ星が発見位置にあることを指摘していました。氏の報告は、夜が明けた10時14分にダンに送付しました。さらに10時21分に山口の吉本勝己氏から「分光観測を16cm望遠鏡で1月26日03時半に行いました。すでに遊佐さんがTOCPに確認報告されていますが、何か参考になればと思い撮影データを報告いたします。この星は、かなり青い星です。V光度は14.02等でした」という報告があります。氏の観測は、10時42分にダンに送付しました。
それから約1週間が過ぎた2月2日15時49分になって、西村氏から1通のメイルが届きます。そこには「1週間前の“ヘルクレス座の天体”ですが、処理いただき本当にありがとうございました。さっそく遊佐さんや野口さんに確認していただきましたが、どこかでスペクトルが撮られたという情報が入らないまま、急激に減光してしまいました。板垣さんにも心配していただき電話をいただきました。中野さんにお手数をおかけしましたが、とても残念に思っています。この星はたぶん“矮新星”だったでしょうが、何か役立ててほしいものですね。中野さんには、今回も大変お世話になりました。心よりお礼申し上げます。彗星と新星を求めて捜索を続けますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。気温の変化の激しい季節になりますのでお体にご注意ください」というメイルがありました。そこで西村氏には2月3日10時05分に『そうですね。残念ですね。新星関係のスペクトル確認は、なかなか行ってくれません。しかし1990年代よりは、状況はず〜っと良くなっていると思います。あの頃は、新星発見には見向きもしてくれず、没になった新星発見が何件かありましたから……。また頑張ってください』という返信を送っておきました。
そして、それからさらに3日が過ぎた2月6日になって、西村氏から「掛川の金子静夫さんがこの星のその後を調べてくれました。氏の調査によると、この星はSU UMa型の矮新星(変光幅0.25等、0.06日周期での変光)らしいとのことです。これから、しばらく観測されるのではないでしょうか。添付はAAVSOの光度グラフです。現在は15等くらいです」と知らせてくれました。『西村さん。何のお役にも立てず、すみませんでした』。
PanSTARRS彗星(2014 A5)
野口氏から西村氏の新星状天体の確認観測があった同じ夜、1月27日22時58分に東京の佐藤英貴氏より小惑星センター(MPC)に送られた1通のメイルが転送されて届きます。そこには「メイヒル近郊にある51cm望遠鏡を使用して、NEO確認ページ(NEOCP)に出ていた未確認天体P109CWRを、1月6日と7日に撮影した画像上を動く20等級の彗星状天体(hsa01y)を発見しました。天体には、集光した8"のコマが見られました」と、1月上旬に撮影していた画像上に1月27日になって彗星状天体を見つけたことが報告されていました。そこで1月28日00時06分に仲間に『佐藤氏が1月6日にP109CWRを撮影した画像上に19等級の新彗星らしき天体を発見したという報告がありました。佐藤氏がMPCに送った報告では、天体は1月7日にも確認され、集光した8"のコマが見られたとのことです。発見から20日ほど経っているために予報位置にはかなり誤差があるかもしれません。軌道が正しければ、地球に接近した微小の天体で、発見時より明るくなっているでしょう』というこの天体の確認依頼を送りました。といっても、19等級の拡散状天体を観測できる仲間は、今は国内にはいないのが現状です。さらにそのあと、00時20分に佐藤氏の2夜の観測からバイサラ軌道を決定し、その予報を再度、仲間に送付しておきました。
すると、小惑星センターのギャレット(ウィリアムズ)から00時33分に「この天体は、彼がとらえようとしていたP109CWR本体だ」というメイルが届きます。そのことを知った佐藤氏からも00時48分にメイルが届きます。そこには「先ほどウィリアムズ氏から連絡があり、hsa01y=P109CWRとのことでした。P109CWRは、1月2日にレモン山で行われていた画像中に見つかった発見前の観測との連結が否定され、彗星確認ページ(PCCP)に移されました。この天体は、1月6日と7日に捜索した際には見つからず、存在しないものとあきらめたのですが、今日になって、再度画像を見直したとき、その像を見つけました。つまり、天体は確かに存在していたことになります。またもぬか喜びに終わりましたが、撮影したときに注意して見つけておれば良かったです。それでP109CWRも見失われずにすんだでしょうし……。このたびは、予報位置と暫定軌道の計算など、どうもありがとうございました。次こそは新彗星発見であって欲しいものですが、既存の天体を追う現在の観測スタイルではなかなか難しいです。PanSTARRS彗星(2011 L4)発見時の轍(著者注;佐藤氏による発見前の観測がある)は踏みたくないため、新天体がないかこれからも画像をよく見ていきます」という事情が説明されていました。そのため、00時57分に確認を依頼した方々に『ウィリアムズと佐藤氏から次の連絡がありました。残念でした。またがんばりましょう』というメイルを送り、確認依頼をキャンセルしました。
以上の経緯を総括すると、この天体は、Pan-STARRSサーベイで2014年1月4日にくじら座を撮影した捜索画像上に発見された20等級の新彗星でした。天体は、その発見時から拡散状で北西に約2"の淡い短い尾が見られることが報告されていました。さらに1月26日と27日にマウナケアにある3.6m望遠鏡で確認観測が行われ、彗星は20等級で拡散状、西北に約5"の尾が見られています。ほぼ同じ時期に佐藤氏は、メイヒル近郊にある51cm望遠鏡でNEOCPにある未確認天体P109CWRの予報位置近くを1月6日と7日に撮影した画像上を見直したときに、20等級の集光した8"のコマのある拡散状の天体が移動しているのを見つけたことになります。そしてこの天体は、小惑星センターのウィリアムズによって先にこの彗星と同定されていた1月2日の発見前の観測が別天体で、佐藤氏の観測がこの彗星そのものであることが同定されました。なお、この彗星は周期が約3000年ほどの長円軌道を動く長周期彗星でした。この発見は、1月28日02時53分到着のCBET 3793に公表されました。そこには、佐藤氏のこれらの観測も紹介されています。
1月28日早朝には、茨城県利根町の古山茂氏より電話があり「いて座に新星を発見しました」とのことでした。その氏からのメイルは07時16分に届きます。そこには「昨日1月27日05時33分に200mm望遠レンズを装着したCCDでいて座を撮影した画像上に、新星らしき天体を発見しました。今朝は私の所は曇りで確認できませんでしたが、友人の野口敏秀さんに確認していただきましたので、報告させていただきます。…略…」という発見報告がありました。
その日の午後のことです。15時10分になって佐藤氏から「昨日の幻に終わったhsa01y(C/2014 A5)の画像です。50cmの16分露出でもこの程度の写りなので暗い彗星です。レモン山の観測を外して、暫定軌道を計算していれば容易に連結できたので、ご迷惑をおかけしなかったと思います。すみませんでした。ところで、昨日に中野さんが計算してくださった暫定軌道は、一見して25D/ニェウイミン彗星のそれとよく似ているように見えました。今月からPan-STARRSサーベイがこの空域を絨毯爆撃しているので、まもなく再発見の報があるかもしれません。NEOCPにそれらしい天体がないか、私も目を光らせています。今年は25D、72D/デニング・藤川彗星、75D/コホウテク彗星、スキッフ・香西彗星(1977 C1)と見失われた“名うて”の難物たちが続々回帰しますが、どれか1つでも見つかってほしいものです。観測条件は厳しいですが、72Dにはぜひ挑戦しようと思います(著者注;佐藤氏は、6月17日UTに72Dを検出し、翌18日UTにこれを確認しています。氏によると、検出時、彗星は思いの外明るく16.8等、確認時に16.3等で、彗星には集光した25"のコマが見られたとのことです。予報軌道からのずれは14'ほどと小さく、近日点通過時の補正値は+0.23日でした)。なお、1月7日はカタリナ彗星(2012 J1)が馬頭星雲の近くを通過した日で、このイベントをとらえようと数日前から企んでいました。そのため、望遠鏡の予約時間を確保しており、P109CWRにも十分な露出をかけることができました」というメイルとともに彗星の画像が届きます。そこで15時22分に『小さいですね。これでは国内の観測者がとらえるのは無理ですね。実際、板垣さんが撮影していますが、わからないとのことでした。ただ、軌道が大きく違うのに二夜の観測から20日後の予報位置はまずまず予報できていたと思っています。25Dは、天文ガイド誌に予報を紹介しておきました。条件が良いですから、ぜひ見つかってほしいです。C/2012 J1はもう少し大きければ良かったと思います。でも、よく予報を検討していることに驚いています』という返信を送っておきました。