129(2015年12月)
2016年5月2日発売「星ナビ」2016年6月号に掲載
- 超新星2015bd in NGC 3662(PSN J11234588-0106212)、超新星 in NGC 6004(PSN J15502534+1856075)、超新星 in 無名銀河(PSN J12265018+1615496)
- 超新星2015bf in NGC 7653
- NEOWISE新周期彗星(2015 X8)
超新星2015bd in NGC 3662(PSN J11234588-0106212)、超新星 in NGC 6004(PSN J15502534+1856075)、超新星 in 無名銀河(PSN J12265018+1615496)
2015年11月29日に板垣公一氏がIC 1029に超新星2015baを発見したあと、12月上旬は曇りか雨の日が続きます。しかし空は澄んでおり、ときどき雲の合間に顔を出す星空は目を見張るほど綺麗でした。12月8日は久しぶりに快晴になった朝でした。05時57分に群馬県嬬恋の小嶋正氏から「2015年12月8日05時すぎに撮影したカテリナ彗星(2013 US10)の観測です。添付画像のとおり135mmレンズでも尾が写ります。光度は4.5等くらいです。なお、星ナビ1月号で7月の移動天体を紹介いただきありがとうございました」というメイルとともに、彗星の画像が届きます。関東も晴れていたようです。彗星のすぐそばには三日月が大きく写っていました。『そうか。今朝は月のすぐそばに……』と思い出し、氏には06時23分に『今、月を見ました。ずいぶん観測条件がよくなりました。星ナビの記事は、もう少し続いていたのですが、入りきらず少しカットしました』という返信をしました。
山形にも、明け方には快晴が訪れていたようです。同じ日の朝07時29分に板垣公一氏から「口径60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2015年12月8日早朝、05時14分にしし座にある系外銀河NGC 3662を撮影した捜索画像上に15.9等の超新星状天体(PSN)を発見しました。発見後に撮影した4枚の画像上に、このPSNの出現を確認しました。最近の画像はありません。しかし、過去の捜索画像上にはその姿がありません。なお、この天体は銀河核から西に8″、南に3″離れた位置に出現しています」という発見報告が届きます。そのメイルの最後に「あと2つ報告します。少し時間をください。よろしくお願い致します」と注釈がありました。『…ということは、一夜というか、一朝に3個の超新星を見つけたのか……』と思いながら、しばらく待つことにしました。その発見画像を見ると、母銀河内に出現した小さな超新星でした。
それからちょうど30分後の07時59分に2個目の報告が届きます。そこには「同じ望遠鏡で、へび座にあるNGC 6004を12月8日05時45分に撮影した捜索画像上に17.3等の超新星状天体を見つけました。発見後の4枚の画像上にこのPSNの出現を確認しました。最近の画像はありませんが、過去の捜索画像上にはその姿がありません。なお、このPSNは銀河核から東に37″、南に14″離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。発見画像では、渦巻き銀河の外縁部に出現した小さな超新星でした。
そして、最後の1個の報告が08時32分に「同じ望遠鏡で、かみのけ座にある無名銀河を12月8日05時19分に撮影した捜索画像上に18.7等の超新星状天体を見つけました。発見後、4枚の画像上にこのPSNの出現を確認しました。先の2個と同様に最近の画像はありませんが、過去の捜索画像上にはその姿がありません。なお、このPSNは銀河核から西に0″、南に29″離れた位置に出現しています」が届きます。発見画像を見ると系外銀河IC 792のそばにある小さな母銀河から離れた位置に出現した暗い小さな超新星でした。板垣氏のこれらの発見は、順次、09時02分、09時16分、09時29分に天文電報中央局のダン(グリーン)に送付していきました。10時55分には板垣氏より「あらためて、おはようございます。夜明け寸前の山形の空で、3つも見つかったのにはビックリしました。明け方近くまでまったくの曇天だったのに、急に晴れました。3個も発見できて、とんでもない幸運でした。今日は税務署の調査が入っていたので、徹夜はしないと思っていましたが貫徹してしまいました(笑)。今、税理士に任せて、ちょっと抜け出してメイルを書いてます。取り急ぎ……」という送付確認のメイルが届きます。
その夜(12月8日)は、まだ晴天が続いていました。日付が変わった次の日の朝(12月9日)になって、香取の野口敏秀氏から03時47分に「短時間に3個の発見にはビックリです。23cm f/6.3望遠鏡で、とりあえず2個だけ観測しましたので報告しておきます」というメイルとともに「NGC 3662に出現のPSNは、12月9日02時20分に15.3等、続いて行った無名銀河に出現したPSNは、02時56分に18.8等と観測しました」という報告が届きます。氏のこれらの観測は、04時32分と04時34分にそれぞれダンに送付しました。
野口氏からは、残っていたNGC 6004に出現した超新星の観測が05時09分に届きます。そこには「残っていたPSNの観測報告です。低空のため像が肥大してしまいましたが撮れました。04時43分に17.0等でした」という報告があります。これらの観測を見た板垣氏からは09時24分に「おはようございます。観測をありがとうございます」というお礼状が送られていました。最後の野口氏のNGC 6004のPSNの観測は、少し休息を取ったあとの10時11分にダンに送付しました。
12月9日夜は、空はだんだん曇り空へと変わり、その夜02時頃にはちょっこと小雨が降り始めました。NGC 3662に出現した超新星は、12月10日15時03分に到着したCBET 4217で超新星2015bdとして公表されます。この超新星は、発見1日後までに国内の観測者によって15等級で観測されていました。また、12月9日に美星天文台の1.01m望遠鏡、および東広島天文台の1.5m望遠鏡でスペクトル観測が行われ、極大光度から数週間が過ぎたIa型の超新星らしいと確認されたことが報告されていました。ところで、当地では12月11日早朝04時以降から夜明け頃には、道路が冠水し、車が動くのが困難なほどの季節はずれの大雨となりました。そのため12月11日はオフィスに出向くことを断念しました。やっとのことでオフィスに出向いたのは12月12日02時20分のことでした。そのため、板垣氏の発見を新天体発見情報No.229で報道各社に送ったのは12月12日03時40分になりました。同じ日の夜、20時50分には板垣氏から「拝見しました。ありがとうございます。さて、今、NGC 7653に発見したPSNを中央局の未確認天体確認ページ(TOCP)に記載しました。山形は快晴なので、もう少し捜索してから報告します」というメイルが届きます。『えぇ…また見つけたのか。ここは朝は晴れていたけど、今は曇り空からちょっこし雨が降っているのに……』と思いながら報告を待つことにしました。
ところで、NGC 6004に出現した超新星(PSN J15502534+1856075)は、発見後、約2か月が過ぎた2月7日になって、リック天文台の3m望遠鏡でスペクトル観測が行われ、爆発後約2か月が経過したII型の超新星らしいことが、2016年2月11日に到着したATEL #8670に報告されました。つまり板垣氏の発見は、超新星爆発直後だったことになります。
一方、無名の銀河に出現した超新星(PSN J12265018+1615496)は、12月9日に同じくリック天文台の3m望遠鏡でスペクトル観測が行われ、爆発後、数週間が経過したIa型の超新星らしいことが、12月11日に届いたATEL #8393に報告されました。
超新星2015bf in NGC 7653
12月12日20時50分に板垣氏から連絡があったこのPSNは、氏からの発見報告が届く前の12月12日21時40分に野口氏から「新天体発見情報No.229を受領いたしました。風邪気味とのこと、ご自愛ください」というメイルとともにその確認観測が届きます。そこには「超新星を12月12日21時14分に23cm f/6.3望遠鏡で観測しました。光度は17.1等で、出現位置と銀河中心の位置は次のとおりです」とありました。このように最近では、TOCPにまず発見第一報を記載するために、発見報告より早い確認観測が届くことが多くなりました。
板垣氏から発見報告が届いたのは、野口氏から確認観測が届いた約40分後の22時19分のことでした。そこには「2015年12月12日夜、20時13分に60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、ペガスス座にある系外銀河NGC 7653を撮影した捜索画像上に17.3等の超新星状天体を発見しました。発見後、極限等級が19.5等の4枚の画像上にこの出現を確認しました。過去の捜索画像上には、その姿が見られません。また最近、12月9日夜に行っていた極限等級が19.0等の2枚の捜索画像上にも、まだ出現していません。なおPSNは、銀河核から西に4″、北に20″離れた位置に出現しています」と書かれてありました。氏の報告は22時48分に野口氏の確認観測とともにダンに送付しました。それを見た板垣氏から22時55分に「拝見しました。ありがとうございます。山形は快晴です。超新星と彗星をノンストップで捜索しながら報告をしました」という送付を確認したという連絡が届きます。
12月14日未明、02時20分には、神戸の豆田勝彦氏から「今、ふたご座流星群を観測中です。裏六甲の八多にいます。最微星5.4等、雲量1から2で少し条件が悪いですが、14日00時から01時に26個、01時から02時に34個とZHRが80個くらいの出現です。明るいのはマイナス2等級がありましたが、ほとんどは2等級です。今、少し雲が多く休憩です」というふたご座流星群の観測報告があります。氏からは、さらに12月15日01時44分に「12月14日20時30分から21時30分の1時間に17個でした。その後は曇り空が続きます。しかしときたま、少しの雲の切れ間が訪れたり、なくなったりで、まるで生殺しです。ただ、けっこう活発でZHRは120個くらいはありそうです。今は火球見物に切り替えてます」という報告も届きます。
板垣氏が発見した超新星は、12月15日11時43分に到着のCBET 4219で公表されます。そこには国内外の光度観測とともに、12月13日に中国にある2.4m望遠鏡でスペクトル観測が行われ、爆発から数日が経過したIIn型の超新星出現らしいことが確認されたと報告されていました。その夜の22時49分に新天体発見情報No.230を発行し、報道各社にこの発見を伝えました。板垣氏からは「拝見しました。ありがとうございます」というメイルがその後に届いていました。
NEOWISE新周期彗星(2015 X8)
12月19日14時06分に嬬恋の小嶋氏から「今朝、01時41分におうし座に光度10.8等で移動する天体を捉えました。約1時間の観測が見つかりました。以下に位置を報告いたします」というメイルともに7個の精測位置が報告されます。その夜、オフィスに出向き軌道を決定すると、また人工衛星のようです。そこで12月20日02時37分に『以下の軌道を動く人工天体(軌道傾斜角25°、周期が20時間ほど)でしょう。よく見つけますね。なお、地表面すれすれの軌道となりますが、実際には地表面から200〜300kmほどの人工天体でしょう』というメイルを送っておきました。その日の朝、09時25分に小嶋氏から「おはようございます。人工天体への対応ありがとうございました。1時間余りのアークから軌道が求められ驚いております。なおカテリナ彗星は、今朝肉眼でも見えていました。光度は4等級後半の明るさのようです」という返信がありました。本誌1月号にも書きましたが、毎年、このような高速天体の報告が何件かあります。空を高速移動する天体は、発見直後に報告がないとその確認、追跡がきわめて困難となります。まず、撮影された捜索画像上に移動天体はないか、ぼやけた天体はないか、撮影直後にざ〜と見渡すことをお勧めします。発見直後に報告がないと、天体が仮に自然の天体である場合、撮影1日以上が過ぎた後の報告では、すでに追跡もできません。今後、もし高速移動天体を撮影と同時に発見した場合には、即座に発見者自身で追跡するとともに同好者にも連絡して、追跡を行ってください。なお、日々運動が大きい天体の場合、観測場所による視差を生じます。すぐ近くの仲間に撮影してもらうのが無難となります。
ところで、WISE衛星サーベイで2015年12月14日と15日にりょうけん座とかみのけ座の境界近くを撮影した捜索画像上に、16等級の拡散状天体が発見されます。クラウドクラフトのヘールは12月18日に41cm反射望遠鏡で、彗星の眼視全光度を12.8等と明るく観測しました。その確認段階で、東京の佐藤英貴氏によって12月18日にスペインにある43cm望遠鏡でとらえられ、強く集光した25″のコマがあり、その光度は15.9等であることが報告されます。同日、宇都宮の鈴木雅之氏も、米国オーバリーにある61cm望遠鏡でこの天体をとらえました。同日、ブラジルのジャックらは、同じ61cm望遠鏡で観測し、強く集光した51″のコマの周囲を131″ほどの拡散した大きなコマが取り巻いていることを観測しました。
彗星に大きなコマが観測されていること、また、眼視光度で12等級と明るく観測されているため、12月20日03時16分にOAA/CSのEMESを発行し、観測者とダンとスペインのゴンザレスにもこのことを伝えました。すると、その直後の03時33分に上尾の門田健一氏から「25cm望遠鏡で12月20日01時49分に観測しました。彗星のCCD全光度は14.0等でした」という報告が届きます。『あれ、もう少し待てば良かった……』と思いながら、03時40分にダンとゴンザレスには、門田氏の観測光度を伝えておきました。そして03時42分に門田氏に『ありがとうございます。もう少し待てば良かったです。ゴンザレスには、この情報を送っておきました。今夜は快晴です』というお礼を返しておきました。ゴンザレスからは、07時27分に「いつも情報をありがとう。残念ながら天候が悪い。数日後には観測できるだろう」というメイルが届きます。
翌日12月21日にゴンザレスは20cm望遠鏡でこの彗星を11.2等(コマ視直径4′)と観測しました。氏によると「予想以上に明るかった」とのことでした。彗星は、周期が80年ほどの新周期彗星でした。その後のCCD全光度が12月19日に15.4等(大島雄二;長野)、22日に15.1等(高橋俊幸;栗原)、28日に14.1等(門田)、29日に16.0等(井狩康一;守山)、31日に15.1等(高橋)、15.8等(吉本勝己;山口)、1月3日に15.2等(安部裕史;八束)、8日に14.7等(門田)、12日と14日に17.0等(関勉;芸西)、16日に17.2等(井狩)と観測されました。2015年10月22日の近日点通過後に増光した彗星でしたが、1月末には19等級まで減光したようです。
※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。