137(2016年8月〜)
2017年1月5日発売「星ナビ」2017年2月号に掲載
LINEAR周期彗星(2015 TP200)
2016年8月14日22時35分、つまり、先月号で紹介したマイク(メイヤー)から「2003 SQ215=2016 P3の同定」を指摘したメイルが届いた約5時間後のことです。東京の佐藤英貴氏から小惑星センターに送付した「2015 TP200の第2夜目の観測」というタイトルを持ったメイルが転送されて届きます。そこには「この小惑星は彗星で、8月6日の観測では強い集光のある10″のコマがあり、西に10″の尾があるように見える」という報告がありました。さらに8月3日の観測もつけられていました。実は、氏はその8月3日の観測を8月4日05時36分に「この小惑星は彗星で、8″のコマが見られ、光度は18.4等」という注釈をつけて中央局と小惑星センターに報告していました。いずれも、米国オーベリーにある61cm f/6.5望遠鏡による観測で、8月6日の小惑星の光度は17.6等と少し増光していました。
さらに佐藤氏は、8月15日00時18分にこのことをメイヤー氏が主催するCOMET-MLに「周期が約20年のこの小惑星(近日点距離q=3.39au、離心率e=0.54、軌道長半径a=7.30au)には、コマが見られ、彗星だ。この天体(WUBDF6E)は、約1年前の2015年8月に彗星確認ページ(PCCP)に掲載されたが、形状の確認がされなかった。しかし現在、明け方の空に見えるようになり、予報より3等級ほど明るい」と投稿していました。
『待てよ…。ず〜と前にも佐藤氏から同じような報告があったな…』と思い出して、氏からのメイルを調べると、2016年1月3日13時15分に「2015 TP200は彗星」というタイトルを持ったメイルが届いていました。そこには「天体には、西に伸びた8″のコマが見られ、同じ方向に20″の尾があるようだ。光度は19.1等」と報告されていました。『あれ…この観測がどうして取り上げられなかったのかなぁ……』と思いながら他の観測を調べると、その後1月14日と2月16日にカテリナで観測が行われています。しかし佐藤氏の1月3日の観測以後、小惑星は太陽に近づき、観測条件が悪くなったため、佐藤氏の8月3日の観測までどこからも観測が報告されていなかったようです。つまり、佐藤氏が合計3回「小惑星は彗星である」と報告していたのに取り上げられませんでした。
しかし、この氏の報告で小惑星が彗星であったことが認められ、8月16日02時13分に到着のCBET 4303で、そのことが公表されます。そこには「LINEARサーベイでアトム山頂にある3.5m f/1望遠鏡で2015年10月10日と11日にうお座を撮影した捜索画像上に、19等級の小惑星状天体が発見され、小惑星の仮符号2015 TP200が与えられた。この天体は、その後に彗星であることが確認された」という紹介と、佐藤氏の観測以外にも「英国のバートホイッスルが8月15日に40cm望遠鏡で行った観測では、天体には10″のコマと西に20″以上の尾が見られる」という確認観測がつけられていました。また、彗星には、2015年9月12日にPan-STARRSサーベイの1.8m望遠鏡で撮影された捜索画像上に、発見前の観測(21等級)が見つかったことが報告されていました。
なお、その後のCCD全光度を佐藤氏が2016年9月30日に18.2等、栗原の高橋俊幸氏が10月13日に18.0等、上尾の門田健一氏が10月24日に17.8等、11月25日に17.4等と観測しています。佐藤氏の観測では、彗星には強い集光のある8″のコマが見られています。彗星は2016年10月28日にすでに近日点を通過しており、これ以上は明るくなりません。
345P/LINEAR彗星(2008 SH164=2016 Q3)の検出
8月26日頃には連続していた猛暑日も途切れ、8月28日頃からはちょっと秋の雰囲気を感じる空に変わってきていました。しかし、台風10号が八丈島から東北に向かい、8月30日には東北地方に上陸し、各地で大きな被害が出ました。その影響を受けて、関西地方には線状降水帯が現れ、8月29日から雨が続き、翌30日もまだ雨が降っていました。
8月30日18時30分に東京の佐藤英貴氏が中央局と小惑星センターに送ったメイルが転送されて届きます。そこには「PCCPにある天体(XQA8CA3)をオーベリーにある61cm望遠鏡で観測した。天体には10″ほどのコマが見られ、光度は18.7等。なお、この天体は2008年に発見されたヒルダ族に属する小惑星2008 SH164の回帰だ」という指摘がありました。その夜の23時59分にギャレット(ウィリアムズ)から「Yes。もちろん、この天体が小惑星2008 SH164の回帰であることは、最初に発見(観測)が報告された時点で気づいている」という佐藤氏に送られたメイルが届きます。『またあいつ、愛想のない奴だ。せめてThanks!くらい入れろや…』と思いながらそれを見ました。
さて、小惑星2008 SH164は、2008年9月28日にLINEARサーベイでうお座を撮影した捜索画像上に発見された19等級の小惑星でした。小惑星の観測は2008年12月4日に終了しました。しかし、スペースウォッチサーベイが9月2日に行った捜索画像上、そして、レモン山サーベイが9月23日に行っていた捜索画像上に発見前の観測が見つかり、観測期間93日から計算された軌道は、佐藤氏が言うように、彗星型の軌道を動くヒルダ族に属する周期が8.1年の小惑星(近日点距離q=3.16au、離心率e=0.22、軌道長半径a=4.05au)でした。その周期から、2016年7月頃に回帰することになります。しかし驚くことは、佐藤氏はこのことを知っていてこの小惑星を狙っていたことです。『いったい、彼は何個くらいの天体をリストアップしているのだろう』と思いながら、当時のこの小惑星2008 SH164の記録を見ました。
一方、今回発見されPCCPに掲載された彗星状天体XQA8CA3は、レモン山サーベイの1.5m望遠鏡で、2016年8月29日に2008 SH164の発見場所と同じ、うお座とくじら座の境界を撮影した捜索画像上にコワルスキが発見した18等級の新彗星でした。発見時、彗星には、東西に伸びた約10″のコマが見られ、コマが伸びた同じ西の方向に約60″の尾が伸びていました。また8月30日に、アタカマ高原にある40cm望遠鏡でこの彗星を観測したモーリらは、彗星には14″のコマと西南西に13″の尾が見られることを報告していました。
新彗星の位置を調べると、MPO 149062にある小惑星2008 SH164の軌道から赤経方向に-234″、赤緯方向に-89″のずれがあり、近日点通過時刻へ補正値ΔT=+0.26日を加えると、新彗星の運動を満足し、新彗星が小惑星2008 SH164の回帰であることが判明しました。つまり、この小惑星は、彗星であったことになります。このことは、8月31日12時19分到着のCBET 4312で、新彗星(2016 Q3)の発見とともに公表されました。なお、この日の早朝には、関西地方に長らく居座っていた線状降水帯がほぼ消滅し、ようやく雨がやんで曇り空となりました。
彗星(2016 A8、43P、237P)の増光
2016年9月には、多くの彗星の増光が観測されます。その1つがLINEAR彗星(2016 A8)です。この彗星は、おなじみのLINEARサーベイで発見されたものですが、前述の2015 TP200にもあるとおり、同サーベイが以前に行っていたニューメキシコの観測地ではなく、そこから約30kmほど東、アトム山頂近くにある3.5m f/1.0望遠鏡で2016年1月14日にアンドロメダ座を撮影した捜索画像上に20等級の小惑星状天体として発見されました。発見直後の1月18日に東京の佐藤英貴氏が米国メイヒル近郊にある43cm望遠鏡で行った観測では、天体には6″ほどのコマがあり、光度は19.0等でした。また、1月21日に40cm望遠鏡でこの天体を観測したベルギーのブライシンクは天体には、恒星状の8″のコマがあり、北に11″ほどの非常に淡い尾があるように見えることを観測するなど多くの追跡観測が報告されました。これらの確認観測から、この小惑星状天体には彗星符号2016 A8が与えられ、得られた観測から、彗星は周期が約208年ほどの長周期彗星で、2016年8月30日にその近日点(q=1.88au)を通過し、同年8月21日に地球に1.04auまで接近することが判明しました。つまり、地球に接近するころには、ほぼ衝位置を動くこととなるために比較的良い条件で観測できることがわかります。しかし、HICQ 2016にある予報どおり、その頃の光度は14等級と思われていました。
2016年夏になって、地球に近づいてきた彗星は、発見時より1.5等級ほど増光しました。スペインのゴンザレスはその眼視観測に成功し、眼視全光度を7月28日に14.5等、8月11日に13.2等と観測しました。さらに氏の観測によると、8月29日には11.6等まで増光しました。その後も氏は、9月6日に11.8等、9月28日に12.5等、10月2日に12.7等と観測しました。彗星は、近日点通過頃にHICQ 2016にある予報より3等級ほど明るくなったことになります。
7月以後のCCD全光度では、7月5日に15.5等(佐藤;集光した30″のコマ)、11日に15.1等(大島雄二;長野)、18日に15.2等(井狩康一;守山)、28日に14.8等(門田健一;上尾)、31日に14.6等(安部裕史;八束)、8月7日に14.3等(大島)、14.4等(吉本勝己;山口)、8日に14.0等(井狩)、13.7等(安部)、11日に14.9等(大島)、12日に13.7等(高橋)、22日に13.0等(門田)、28日に13.0等(大島)、31日に13.1等(安部)、13.3等(井狩)、13.0等(大島)、9月1日に13.0等(門田)、23日に14.0等(安部)、27日に14.9等(大島)、10月2日に13.8等(門田)、6日に14.3等(大島)、24日に15.5等(大島)、15.0等(安部)、11月3日に16.0等(門田)と観測されました。眼視観測と同様に彗星は近日点通過頃にCCD全光度でも13等級まで明るくなり、以後、次第に暗くなっていきました。
次に増光が観測されたのは、43P/ウォルフ・ハリントン周期彗星です。この周期彗星は2015年7月、9月と10月に19等級で再観測されました。それ以後しばらくの間、観測が途絶えました。しかし過去の光度変化から、その近日点を通過(2016年8月19日)の1か月前の7月には、眼視光度で11等級まで明るくなっているものと推測されていました。彗星の観測は2016年7月3日に上尾の門田健一氏によって行われ、再び開始されました。このとき門田氏は、CCD全光度は13.4等と彗星が明るくなっていることを観測しました。
さらに門田氏は7月6日に13.1等、山口の吉本勝己氏と船橋の張替憲氏は7月9日に14.0等、吉本氏は7月14日に12.9等と、その後もほぼ予報光度のとおり彗星が明るくなっていることが観測されました。観測条件の良くなってきたその後のCCD全光度を門田氏が7月28日に12.2等、平塚の杉山行浩氏が7月29日に12.9等、張替氏が同日に12.6等、門田氏が7月30日に12.2等、栗原の高橋俊幸氏が8月4日に12.5等、9日に12.3等、張替氏が8月5日に12.6等、佐藤氏が8月6日と7日に12.4等、芸西の関勉氏が8月7日に12.1等、吉本氏が8月7日に12.5等、八束の安部裕史氏が8月8日に12.5等、八尾の奥田正孝氏が8月11日に12.4等と観測し、彗星はCCD全光度で12等級まで明るくなっていることが報告されました。佐藤氏の観測では、強く集光した45″のコマと西に180″の尾が見られたとのことでした。
8月12日01時42分にゴンザレスから「8月11日に東の空、低空にこの彗星を捉え、その眼視全光度を10.9等(コマ視直径3′)と観測した」という報告が届きます。氏の観測は、明るい黄道光の中、地平高度14°の低空で行われたものでした。氏の光度は、HICQ 2016にある予報光度より2等級ほど明るいものでした。さらに氏は、8月30日に9.8等(5′)、9月6日に9.6等(5′)、9日に9.5等(6′)、29日と10月3日に9.5等(6′)と観測しています。このとき、彗星には西に約20′の尾が見えていたとのことです。10月後半には入っても彗星は明るく、その後の眼視全光度をゴンザレスは10月27日に10.1等(5′)、11月25日に10.0等(5′)、30日に10.3等(4′)、12月5日に10.5等(3′)と観測しています。このように、彗星は近日点通過頃に9等級まで明るくなりました。これはHICQ 2016にある予報光度より3等級ほど明るいものでした。
そして、237P/LINEAR彗星の増光と続きます。今回の出現で第3回目の回帰を記録したこの彗星は、2015年1月に回帰が再観測された後、1年間以上の間観測が途絶え、2016年3月から再度観測が行われています。このときのCCD全光度は約19等級でした。日本での初観測は、佐藤氏がサイディング・スプリングにある70cm望遠鏡で3月30日に行ったもので、CCD全光度は18.9等でした。そのときから約2か月が経過した6月5日に門田氏が観測を行ったときには、彗星は14.5等まで増光していました。この増光は、佐藤氏も6月8日に捉え、13.8等まで明るくなったことが報告されました。さらに佐藤氏の6月29日の観測では、彗星には強い集光のある80″のコマから東南東に直線状に伸びた300″の尾が見られ、光度は13.2等でした。同じ時期、ゴンザレスは眼視全光度を7月2日に13.1等(0.6′)と観測しました。氏の光度は、HICQ 2016にある予報光度より2等級以上明るいものでした。
さて、この彗星のこのあとの大きな増光については、8月31日02時35分にゴンザレスから「この周期彗星がさらに増光している。20cm望遠鏡による8月29日の観測では10.7等(コマ視直径2.5′)であった。地平高度11°での観測」という報告が届いていました。このとき、HICQ 2016にある予報光度は15.8等でした。従って、彗星は5等級ほど増光したことになります。しかし、この氏からの報告をすっかり忘れていました。
それから3日後の9月3日になって、17時02分に安部氏から「この彗星のCCD全光度が8月31日に12.7等でした」と報告があります。『あれ、ずいぶん明るく12等級になっている』と思いながら、6月下旬以後に報告された観測を調べました。すると長野の大島雄二氏が6月23日に14.2等、安部氏が6月26日に14.0等、高橋氏が同日14.1等、門田氏が7月3日に13.6等、安部氏が7月31日に13.2等、守山の井狩康一氏が8月21日に12.7等と明るく観測しています。これらのCCD全光度では、彗星は予報光度より7月上旬には2等級、8月には3等級ほど明るくなっており、さらに増光しているように思えました。
そのため『これはゴンザレスに眼視観測してもらわなければ…』と思い、同夜19時10分に主な光度を列記して、氏に送付しました。すると19時58分に「おい。Syuichi。この彗星がさらに増光しているという観測を3日前に送ったぞ。見てないのか…」という返信が届きます。それで『あっ、あの明るい彗星が237Pだ』ということに気づき、氏には21時32分に『申し訳ない。確かに受け取っている。忘れてしまった』とお詫びを書くハメになりました。
ゴンザレスはその後もこの彗星を追跡観測し、9月5日に10.0等(2.5′)、9月28日に9.7等(5′;東に12′の淡い尾)、10月2日に9.6等(同6′;東北東に30′の淡い尾)、10月26日に9.5等(6′)、11月16日に9.8等(同3′)と観測しています。最終的に、HICQ 2016にある予報光度より6.5等級も明るく増光した状態が長く続いたことになります。彗星の近日点通過は2016年10月11日でしたので、ゴンザレスの観測光度では、その頃、最も明るくなりました。
なお、年末には彗星が夕方の地平線に近づいたためか、門田氏が10月15日に13.2等、11月13日に13.7等と観測したあとのCCD全光度の報告はありません。
先月号にあるパト(エリザベス・ローマ博士)の件ですが、今、テッド夫妻(ボーエル博士)にメイルを書いている最中に彼女は2016年4月8日、つまり、長谷川一郎先生が亡くなられる1か月ほど前に亡くなられていたことに気づきました。博士は毎年、軌道計算者に「今年のあなたの活動についての評価表」を個別に送ってくださいました。ご冥福をお祈りします。
※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。