136(2016年8月)
2016年12月5日発売「星ナビ」2017年1月号に掲載
いて座新星 Nova Sgr 2016
2016年夏の西日本は、8月26日まで連続23日の間、猛暑日が続いていました。そんなとき、8月9日22時48分と22時58分に岡崎の山本稔氏から「本日8月9日夕方、20時27分にいて座をCanonデジタルカメラと135mm f/3.5レンズを使用して撮影した2枚の捜索画像上に、札幌の金田宏氏作成の新天体検出ソフトを使用して、11.2等の新星状天体(PN)を発見しました。この星は、過去の捜索画像上には見られません。既知の変光星、彗星、小惑星ではないことは手元の資料で確認しました。ただ、発見報告前に確認したときには未確認天体確認ページ(TOCP)には新規報告はありませんでした。しかし今、この報告前に確認すると同天体が出ていましたので、もう遅いかもしれません。なお、昨夜8月8日20時19分に行った同じく2枚の捜索画像上にも、すでに12.2等で出現していました」という報告が届きます。
TOCPの記載を見ると、この新星状天体は九州の西山浩一氏と椛島冨士夫氏によって発見されたものでした。発見時刻は8月8日21時46分で、135mm f/4レンズで撮影された極限等級が13等級の捜索画像上に発見されたものです。山本氏の話が正しい場合、氏の報告直前の8月9日22時半前後にはTOCPに投稿されたことになります。しかし発見日は、山本氏より1日早い8月8日です(TOCPの投稿ラインでは、発見は山本氏と同じ8月9日になっている。しかし彼らの発見状況の記述からは、発見日は8月8日になっている)。『あれ、どういうこっちゃ……。撮影後、即座に発見する彼らにしては、撮影1日後の遅れての発見とはめずらしい』と思いながらそれを見ました。ただし発見状況の説明では、彼らは「この新星を発見後、即座に発見と同時刻に50cm反射望遠鏡を使用してその存在を確認した」と報告されていますので、この「撮影後1日遅れて報告」という推察は正しくないようです。
ただ、この発見は天文台の山岡均氏にも送られていますので『こちらで対処する必要はない』と、そのままにしました。山本氏からは日付が変わった8月10日00時34分に「お騒がせしてすみません。この天体はASASSN-16igでした。VS-NETでも発見が報じられていましたが、それをチェックしませんでした。申し訳ありません。以後、ASASSN(All Sky Automated Survey for SuperNovae)も確認して報告いたします」という連絡があります。調べてみるとこの天体は、8月7日08時頃にすでに同サーベイで発見されていたようです。
その日の明け方になって、参考のためにダン(グリーン)に山本氏の発見を“発見”という言葉は使わず、TOCPに掲載された天体の観測として『Yamamotoも、8月8日と9日に12.2等と11.2等でこの星を見つけている』と連絡しておきました。04時46分のことです。なお、いつもなら、発見報告に記述ミスがないかという内容確認のためと、天文電報中央局(CBAT)へ報告したことを発見者らに知らせるために、カーボンコピー(cc)で発見者と確認者等に送るメイルですが、今回は誰にも送付しませんでした。また、ASASサーベイで8月7日に発見されていたため、TOCPにも掲載しませんでした。
それから2日後の8月12日09時40分に到着のCBET 4295で、この新星は、西山・椛島両氏の発見としてその出現が公表されます。そこには、新星は、発見後、国内の観測者によって11等級で観測されていることが報告されていました。また、この新星のスペクトル観測が8月8日22時過ぎに岡山の藤井貢氏によって40cm望遠鏡で行われ、この星が新星の出現であることが確認されていました。
この日の夜になって、CBET 4295では、独立発見とはなっていませんが、報道機関に山本氏の発見を伝える新天体発見情報No.233を編集しました。その最中の20時51分に山本氏から「CBET 4295を見ました。CBATへの報告をありがとうございました。今回は一時的に「井の中の蛙」状態で、ASASSNの発見を知りませんでした。仕事を終え撮影に出かけ、帰宅してチェックの連続で、関連メイルをしっかり見ていませんでした。恥ずかしい限りです。お手数をおかけして申し訳ありませんでした。結果的に遅れての報告になりますが、この星に気づいたときにはTOCPに報告はなく、前日の画像や変光星、小惑星を念のため再チェック後、報告しようと思って再度TOCPを見ると、九州のお二人の発見が掲載されていました。迷いましたが、とりあえず報告することにした次第です。これに懲りずに今後もよろしくお願いします」というメイルが届きます。そこで編集の終った同情報を氏にも送っておきました。同日21時26分のことです。すると、その夜8月13日02時06分に嬬恋の小嶋正氏から「新天体発見情報No.233をありがとうございました。この新星は、ASASSNの発見を伝えるVS-NETのメイルが8日朝07時59分に送られていました。当然そのホームページでも公表されています。そのため、ASASSNの単独発見という認識でした」という氏の見解も届きました。なお、8月14日14時58分到着のCBET 4299で、アジアゴの1.22m望遠鏡でもこの新星のスペクトル観測が行われたことが報じられています。
ペルセウス座流星群
ところで、それより2日前、ちょうど山本氏の観測を報告した直後の8月10日05時05分に届いたCBET 4293で、今年のペルセウス座流星群の複数のダスト・トレイルからの予報が紹介されます。それらによると、8月11日から12日にかけて例年の出現より多くの流星が見られるだろうとのことです。その日の夜(8月10/11日)には彗星の軌道改良を行い、8月11日01時27分に観測者に向けて『今月の彗星の軌道』を送付しました。その日の明け方、帰宅後、この夏初めてコオロギがガーデンテラス(中庭)にやってきました。『あれ〜、こんな暑いのにもう…、今年は早いなぁ……』と思いそれを聞きました。そういえば去年の夏は、お盆には大気が冷たくすでに肌寒かったことを思い出しました。
さて、毎月送っている彗星の軌道リストを見てくれている人がいました。山口の吉本勝己氏です。その日の昼間14時06分に「彗星の軌道要素をありがとうございます。144P/串田彗星を8月8日04時頃に観測していました。彗星状天体がMPC 84321の予報位置より赤経方向に-2.8′、赤緯方向に+0.5′ほど離れた位置にあったため、その確認のために2016年の観測を含めた軌道要素が欲しいところでした」というメイルが届きます。『あれを利用してくれている人がいるとは、ありがたいことだ』と思い、氏のメイルを読みました。なお、氏のメイルは「このとき、144Pは15.4等でした。他にもいくつか撮影していますが、光度測定が追いつきません」と続いていました。144Pの予報軌道が大きくずれていたことは、8月13日15時50分に「最近の彗星」の画像を送ってくれた東京の佐藤英貴氏も、そのメイルの中で「……。ところで、最近検出された144Pは予報よりも暗く、しかも予報位置から3′も離れた位置にいたことに驚いています。もっとも2013年の102Pは4′、2012年の168Pは30′も離れていたので、活動性が大きく変動する彗星にはよくあることなのかもしれません。一方、前回出現時(2008年)に大きなバーストを起こした33Pはほぼ変わらない位置に写っています。……」と書いてこられました。『不思議ですね。彗星は……』という以外ありませんが、重力の影響のみで計算される小惑星の軌道は、観測期間が延びると驚くほど良く決まることを考えると、彗星には、ガスの噴出などによる非重力効果も含めて重力以外の力が働き、それらが微妙に軌道を変えているのでしょうね。そういう意味では、彗星は生きた天体といえるのかもしれません。
うんざりすることですが、この時期の暑い日はその後もまだまだ続きます。しかし8月12日朝には朝焼けの綺麗な快晴の空が広がり、少し秋空を感じさせる空となりました。
8月12日10時42分には、神戸の豆田勝彦氏から「トレイル接近の予報で、8月12日午前09時から日焼け止めクリーム塗って空を眺めてます。しかし40分で暑さで退散……。ときおり窓越しに見てますが異常なし。電波では08時頃に推定ZHR120程度の突発ピークが捉えられているようです」という報告が届きます。『どういうこっちゃ…、昼間に日焼け止めを塗って……。昼間に見えるほど、そんな明るい火球が出るのだろうか』と思い、氏の報告を読みました。
豆田氏からはさらに8月13日早朝、04時34分と44分に「和歌山県龍神スカイラインにて観測しました。8月13日01時以降、多くの流星が出現しました。特に03時15分から04時までの45分間に55個のペルセウス座流星群の流星の出現がありました。火球はマイナス5等を筆頭に8個。例年よりやや活発であったようです」という観測が届きます。その2時間半ほどあとの07時11分に届いたCBET 4296によると、8月12日から13日にかけて、ZHRにして140個〜190個の出現が見られたようです。豆田氏の観測は、そのあと8月13日22時09分になってダンに知らせておきました。ダンは、8月14日15時02分に到着のCBET 4300で、豆田氏の観測を単独で取り上げてくれました。
343P/NEAT-LONEOS周期彗星の検出(2003 SQ215=2016 P3)
その日(8月14日)の夕方、17時25分にドイツのメイヤーから「小惑星センター(MPC)の移動天体確認ページ(NEOCP)にある天体(P10wCPu)は、2003年に発見されたこの彗星(2003 SQ215)の回帰だ」というメイルが氏の計算した連結軌道とともに届きます。さっそく予報軌道(NK 1166(=HICQ 2015))からの残差を見ると、予報位置から赤経方向に+2.07°、赤緯方向に+0.89°も離れた位置を動いています。『ずいぶん離れた位置だなぁ…』と思いながら、近日点通過日に-5.7日の補正を加えると、その運動を満足し、この彗星の回帰に間違いありません。『マイクにまたやられた…』と思いながら結果を眺めました。なお、前回の回帰時には約5か月の間観測され、今回の回帰までの間に惑星への接近もありませんでした。充分な観測期間があったにしては、近日点通過日の予報が大きくずれた周期彗星でした。
この彗星は、2003年にNEATサ−ベイ(パロマー)で9月24日、LONEOSサーベイで9月27日にみずがめ座を撮影した捜索画像上に発見された18等級の小惑星状天体でした。その発見前の観測が、9月18日に行われていたNEATサ−ベイの1夜の観測群中に見つかり、小惑星2003 SQ215として登録されました。その後、2003年11月と12月に追跡観測されました。しかし翌年2004年1月19日になって、フィッツシモンズらがESOの3.6m反射で観測を行ったところ、非対称の1.7″の小さなコマが東南に広がっていることが認められ、彗星であることが判明しました。周期が13年ほどの新周期彗星でした。
この彗星の検出は、8月15日10時28分に到着したCBET 4302(3時間ほど前に届いたCBET 4301の改定版)で紹介されます。そこには「ハワイ州ハレアカラで1.8m望遠鏡を使用して行われているPan-STARRSサーベイで、2016年8月12日にうお座を撮影した捜索画像上に19等級の新彗星が発見された。発見時、南南西に広がった約6″ほどの淡い尾が見られた。この新彗星は、ドイツのメイヤーとMPCのウィリアムズによって、2003年に発見されたこの周期彗星の回帰であることが指摘された。さらに検出前の観測が、同サーベイで1か月前の7月7日に撮影された画像上と、チャーニーバで8月9日にマティシクが撮影した画像上に写っていた天体が同じ彗星の観測であることが見つかった。8月14日、フランスのソリアーの30cm反射望遠鏡による観測では、彗星には15″のコマと南に伸びた13″の尾が見られた。同じ日、モーリらがアテカマ高原にある40cm望遠鏡で行った観測では、15″のコマと南南西に21″の尾が見られ、光度は19.1等であった」と紹介されていました。その後、9月8日に芸西の関勉氏がCCD全光度を18.9等、10月2日に栗原の高橋俊幸氏が17.2等、10月27日に上尾の門田健一氏が17.9等、11月5日に平塚の杉山行浩氏が17.1等と観測しています。なお、彗星の近日点通過は2017年1月27日ですが、10月から11月のこの頃がもっとも明るい時期でした。
さて、アメリカ大陸での皆既日食が約1年後に迫ってきました。そこで、8月23日深夜00時53分にダンとギャレット(ウィリアムズ)に『来年(2017年)夏にボストンに行きたい。このとき、きみたちがこの日食の観測を計画しているなら同行させてくれないか』というメイルを送りました。ダンとは、スミソニアン時代(1986〜1990年)の足掛け5年の間、同僚でした(ただしオフィス(個室)はそれぞれ別)。私が帰国する約1年前にやってきたギャレットには、ブライアン(マースデン)とともにその1年間の間、小惑星の軌道計算や同定法、プログラムの使用法などを指導しました。さらに帰国後も、しばらくの間彼を指導した間柄です。私には『きっと彼らは日食を見に行く。まさか断ることはないだろう』という思いがありました。ところが彼らにメイルを送付したわずか10分後の同夜01時03分に、ギャレットから早々と返信が届きます。それは「俺は日食など見に行かない」という返事でした。『なんて愛想のない奴だ……』と思いながらそれを読みました。
しかし04時49分にはダンから「Yes。もちろん俺は日食を見に行く。観測地はセントルイス付近になるだろう。そこで、2009年に上海で開催したIWCA(International Workshop on Cometary Astronomy)も開催したい。旅行に同行は大歓迎だが、費用を払ってくれ。まず最初にセントルイスに入るのがいいのではないか。ボストンに来ることも大歓迎だが、俺はセントルイスまで車で行くつもりだ。従って、日食をはさんだ2〜3週間の間不在となるよ」という返信が届きます。
そこで、その夜の23時23分に『Okay。私は、まずボストンに入り、そこで1か月ほど過ごしたい。多分、これが最後の米国訪問となるだろうから、その際、日食を見るだけでなくアリゾナに出向きたい。そこでツーソンでパト(エリザベス・ローマ)、フラッグスタッフでテッド夫妻(エドワード・ボーエル)、それにキャロリン(シューメーカ;マースデンはカロリンと呼んでいた)にも会っておきたい。ただ、月惑星研究所のパトのアドレスにメイルは届いているが、彼女もキャロリンもアリゾナにいるかどうか私には確信がない』という返信を送っておきました。これで何とか日食は見ることができそうです。ただし夏場に1か月以上部屋を空けるとなると、大きな問題があります。それは、今の部屋のリビングには5鉢、2か所ある玄関と廊下には9鉢の大事に育てている観葉植物があります。また、2つある中庭にも10鉢の植物を置いています。中庭には雨が降りますが、室内の観葉植物は、夏場には2日に1回は水を与えなければしおれてしまいます。これらの観葉植物を枯らしてまで、長期間不在してボストンに出向くかどうか、決断しなければなりません。
※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。