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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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135(2016年6〜7月)

2016年11月5日発売「星ナビ」2016年12月号に掲載

さそり座新星2016(V1655 SCORPII=PNV J17381927-3725077)

掛川の西村栄男氏は、2016年6月11日00時05分に200mm f/3.2望遠レンズでさそり座を撮影した捜索画像上に12.4等の新星状天体を発見しました。その日の朝、07時29分と14時00分に届いた嬬恋の小嶋正氏からの報告によると、この新星は、氏が6月9日23時09分に撮影していた捜索画像上にすでに11.8等で写っていました。[以下、先月号からの続き]

その夜(6月11日)になって、21時45分に23cm望遠鏡でこの天体を観測した香取の野口敏秀氏から「6月11日21時18分には11.3等でした」という観測が届きます。さらに21時49分に栃木県にある50cm望遠鏡で観測した山形の板垣公一氏からも「6月11日21時08分に10.4等」という報告もありました。小嶋氏の発見前の観測、板垣氏と野口氏の確認観測は、一括して22時51分にダン(グリーン)に報告しました。

この頃は、5月に亡くなられた長谷川一郎先生から1964年以後に届いた手紙やファックスを整理していました。段ボール箱で4箱を超えます。『何て筆まめな先生だったことか……』と思いながら1977年に届いていた手紙を見ていると、9月27日付の先生の手紙の中に「……。群馬県ノ小嶋正トイウ人(若イヨウデス)ガ彗星1977m(=C/1977 R1(Kohler))ノ位置ニツイテ聞イテ来マシタガ、Orbitノ結果ヲ電話デ知ラセテキマシタ。関君ノ本デ、計算法ヲ勉強シタトノコトデス。コノ人ハ知ッテイマスカ。住所ハ調ベテイマセンガ、モシワカレバ、古川君ノ会ヘ誘ッテアゲテクダサイ。……(原文のまま)」という記述を見つけました。よく考えると、そういえばそのとき住所を探しましたが、見つからなかったと淡く記憶しています。しかしもしそうだとすると、今から40年も前の出来事です。私は、小嶋氏は最近活躍され始めたような気がして、もっと若い人だと思っていました。

そこで23時20分に小嶋氏に『新星の報告ありがとうございます。ところで、山のごとく積み上げてあった長谷川先生からの手紙を整理していたら、1977年9月27日付の先生からの手紙の中に小嶋さんの名前を見つけました。ただ、…ということは私と同じくらいの世代、あるいは10歳ほど若い世代の方なのでしょうか……』というメイルを送りました。

小嶋氏からは、その夜の6月12日01時31分に「長谷川先生の手紙に、私に関してのそのような記述があることを知り、驚くとともになつかしく想います。1977年に確かに当時(20歳直前)、軌道計算に興味を持ち結果を、1度だけだと思いますが電話をかけました。手紙も出したような記憶があります。確か、その年に宇都宮で開催された彗星会議の会場でお会いし、少しですが会話を交わしました。穏やかで、やさしいお人柄の印象でありました。また宇都宮での彗星会議では講演会があり、私の座った後ろの席に中野さんと浦田さんが偶然に座りまして、緊張したことを覚えております。そうですか、住所は調べたとしてもわかりませんよね。40年近くが経ちましたが、このようなお手紙の存在をお知らせくださり、ありがとうございました。遅くなりましたが、長谷川先生のご冥福を心からお祈り申し上げます」という返信が届きました。…ということは、当時の私の調べが雑で、住所が見つからなかったものと思います。なぜ彗星会議の名簿を調べてみなかったのか、その記憶にありませんが、もしもっと早い段階で住所がわかっておれば、空白の40年間の間に何らかの親交があったかもしれないのが残念です。

さて、西村氏の発見したこの新星は6月13日06時12分到着のCBET 4285で公表されます。そこには、この新星は発見直後に国内外で10等級で観測されていることが紹介されていました。さらにスペクトル観測が6月12日00時半頃に美星の1.01m反射望遠鏡で綾仁一哉氏によって行われ、出現直後の新星であることが確認されたことが紹介されていました。なお、西村氏の新星発見はこれで19個目となります。

その夜、21時38分になって、新天体発見情報No. 232を発行して、この新星の発見を報道各社に伝えました。また、ここ最近、美星の綾仁氏は国内発見の新星状天体のスペクトル確認をたくさん行ってくれています。そこでこの発見情報に『ご苦労様でした。久しぶりの新天体発見情報No. 232を報道各社に送りました。綾仁さん。お忙しい中、ありがとうございました。今後ともよろしく』というお礼をつけ加え、同氏にもお送りしました。それを見た小嶋氏からは23時07分に「新天体発見情報受け取りました。ありがとうございました。ところで先日、未確認天体確認ページ(TOCP)に掲載いただきました、おとめ座のフレア星(先月号参照)を他にも捉えている方がいました。アストロアーツの画像投稿ギャラリーに投稿されています。TOCPの掲載がなければこの増光の確認もできなかったことと思い、お礼申し上げます」という連絡があります。

また、綾仁氏からは6月14日14時01分になって「新天体発見情報をお送りいただき、ありがとうございました。低空がほとんど晴れない中、なんとか雲の隙間からスペクトルを1枚だけ撮ることができました。それでも十分なほど明瞭な水素の輝線が出ていました。西村さんの新星発見数19個には、本当に頭が下がります」という返信も届きます。そしてその夜、18時29分に西村氏から「新天体発見情報とCBET 4285をありがとうございました。低空の上、梅雨の曇り空で確認観測やスペクトルが撮れるのか心配していましたが、中野さんの迅速なご処理により新星として登録することができました。1994年の彗星発見からお世話になっております。本当にありがとうございます。新星19個の発見をすべて中野さんにお願いしました。これからもお体を大切にしていただき、私を含め、新天体の捜索者にお力をよろしくお願いします」というお礼状が届いていました。

339P/ギブズ周期彗星の検出(2009 K1=2016 M2)

6月中旬からは、たまに晴れ間が訪れるものの雨の多い天候になってきました。特に6月20日前後には、九州や四国で大雨が降ったこともあって、ここ(洲本市)もかなりの雨が降りました。そのため、約1か月ほど前の5月31日に実家に出向いて収穫し漬け込んでおいた梅を天日干しにできるような、数日間にわたる晴れ間はなかなか訪れてくれません。どうも、天日干しは梅雨明けまで待たなければいけないようです。

そんなとき、6月29日夜21時28分に東京の佐藤英貴氏から、天文電報中央局(CBAT)と小惑星センター(MPC)に送ったメイルが転送されて届きます。そこには、サイディング・スプリングにある51cm f/4.5望遠鏡を使用して、今年7月24日に回帰する予定のP/2009 K1を6月29日17時25分に検出したことが報告されていました。検出時の光度は17.8等、強い集光のある10″のコマと東に10″の尾があるように見えたとのことです。

この彗星は、ギブズがレモン山の1.5m反射で2009年5月16日にかに座を撮影したCCD画像上に発見した、周期が7.09年の新周期彗星(q=1.34au、e=0.64、a=3.69au)でした。発見光度は18等級。発見時、彗星には5″のコマがあってよく集光し、東に7″の淡い尾が見られています。さらに、5月18日に撮られた画像では、明るい中心部のまわりに5″の拡散したコマと東に先細い尾が見られました。イタリーのフォリアからは、米国のホームズが61cm反射で5月18日に撮影した画像では彗星は拡散し、10″のコマがあったことが報告されていました。さらにMPCのスパールは、4月24日に同じレモン山で撮影されていた画像上に写っていた天体がこの彗星であることを見つけています。彗星は、前回の出現では、15等〜18等級で観測されました。その近日点通過は2009年6月25日で、このときの観測は2009年4月24日から9月18日の約5か月間行われ、我々の視界から消え去りました。

さっそく予報軌道(NK 1985(=HICQ 2016))からの残差を見ると、彗星の検出位置は赤経方向に+299″、赤緯方向に-63″のずれがあり、近日点通過日にその補正値ΔT=-0.19日を加えると残差が0″となります。『やったな。これで何個目だっけ……』と思って、それを見ました。

7月2日早朝、古川麒一郎先生のお通夜と葬儀のために08時05分に自宅を離れ、東京に向かいました。都合よく、この日の午後に目白で大学時代の同窓会がありました。それにしばらく参加した後、三鷹のホテルに16時20分にチェックインしました。すると川崎の品川征志氏が「俺も、一緒に泊まるぞ」とロビーで待っていました。『あれ……、どうしてこのホテルがわかったのかな。不思議だ……』と思いながら、ともに先生のお通夜に出向きました。ホテルに戻って、久しぶりに夜中まで会話しました。翌日(7月3日)の葬儀にも一緒に出向き、武蔵境で氏とは別れ新宿で所用を済ませることにしました。しかしこの時期の東京は何と暑かったことか。『東京は、もうこんなに暑いのか。これはたまらん……』と思いながら、オフィスに戻ってきたのは22時40分になっていました。

その間、この彗星の検出の状況には進展がなかったようです。しかしオフィスに戻ってくると、同日18時04分に佐藤氏から同所で行われた第2夜目の確認となる17時20分に行われた2個、さらに21時41分には17時39分に行われた2個の観測が届いていました。『これで公表される』と思いながら氏のメイルを見ました。そこには、彗星の光度は17.8等〜18.0等、10″のコマと東に15″の尾が見られたことが書かれてありました。この佐藤氏の検出は、7月4日10時55分到着のCBET 4287で公表されました。佐藤氏の検出は、翌7月5日04時00分に発行したEMESで仲間にも連絡しました。しかし、彗星のその後の追跡観測は、佐藤氏がCCD全光度を7月14日に16.9等、7月27日に16.8等、8月26日に16.9等と観測した以外報告がありません。来年春頃にもう一度観測されるかもしれませんが、ひょっとすると今期の観測は、佐藤氏の観測だけとなる可能性もあります。なお、佐藤氏の最後の観測(7月27日と8月26日)では、彗星のコマは20″〜25″と大きくなり、その尾も東南東に2.0′まで伸びていたとのことです。2009年から2016年までに行われた128個の観測から計算した連結軌道がNK 3172にあります。次回の近日点通過は2023年8月30日の予定です。

341P/ギブズ周期彗星の検出(2007 R3=2016 N3)

7月15日の明け方は、雲がたくさんあるものの朝焼けの東の空に澄み渡る青空が見えていました。その日の昼間には、ようやく夏らしい空が広がりました。このあと、いつもの夏なら関東が猛暑となるはずが、今年の夏はこの頃から関東が涼しく、関西(西日本)は8月末まで猛暑の毎日が続くことになります。

7月18日朝、05時10分に東京の佐藤英貴氏から彗星確認ページ(PCCP)にある天体XN1C171の観測がCBATとMPCに送られていました。観測はスペイン南東部にある43cm f/6.8望遠鏡で行われたもので、天体の光度は18.1等でした。氏の報告には「この天体は、2007年に出現したP/2007 R3だ」というコメントがありました。氏の観測を調べると、予報軌道(NK 2492(=HICQ 2016))から赤経方向に+542″、赤緯方向に+274″のずれがあり、近日点通過日にその補正値ΔT=-0.59日を加えると、彗星の運動を満足させることができます。つまり、この彗星の検出に間違いありません。

『これもねらっていたのかな。そうでなくっても、すべての彗星がどこにあって観測できるかどうかを把握しているんだ。何とすごいことか……』と思っていると、06時06分にMPCのギャレット(ウィリアムズ)から「もちろん、これに気づいている。今、MPECを用意しているところだ」という返信が佐藤氏に送られています。『まぁ、そうだろうな』と思いながらそのメイルを見て、帰宅することにしました。この日は早朝から夏の空が広がり、暑い日となりました。

この彗星は、同じくギブスがレモン山サーベイで2007年9月14日にくじら座とうお座の境界近くを撮影した捜索フレーム上に発見した、周期が8.92年の新周期彗星(q=2.52au、e=0.41、a=4.30au)で、今回が初めての回帰でした。発見光度は18等級、初回の近日点通過は2007年7月6日、今期の回帰は2016年5月26日でした。その発見時、彗星には、よく集光した8″のコマと西南西に30″の淡くて細い20″〜30″の炎状の尾が見られました。また、翌15日の観測では、集光した10″ほどのコマと、西南西に細い40″の尾が見られています。9月15日に複数の観測者によって追跡され、同程度のコマと尾が観測されました。日本でも、彗星のCCD全光度を秦野の浅見敦夫氏が9月17日に18.3等、上尾の門田健一氏も、9月20日に18.1等と観測しています。この回帰では、発見前に見つかった2007年9月10日の観測から11月10日までの観測が報告され、観測は終了しました。

彗星の検出は、ギャレットの返信からわずか10分後の7月18日06時06時16分到着のMPEC O265(2016)、そして、13時26分到着のCBET 4290で公表されます。それらによると、カテリナスカイサーベイの68cmシュミット望遠鏡で7月15日にうお座を撮影した捜索画像上に、フルズによって17等級の新彗星として発見されたものでした。発見時、彗星には10″のコマがあり、西に12″の尾が見られました。発見翌日、ロシアのノビチョノクがクリミアにある50cm望遠鏡で行った観測では、15″の集光したコマと西に20″ほどに伸びた尾があるように見えました。7月17日には、イタリーのブッジが60cm反射望遠鏡で観測し、西に伸びた7″の小さなコマを観測しています。その後の観測を佐藤氏は8月6日にCCD全光度を19.1等、集光した10″のコマ、芸西の関勉氏も8月7日に核光度を19.1等と観測しています。なお、佐藤氏の観測では彗星には10″の集光のあるコマが見られています。2007年から2016年までに行われた138個の観測から計算した連結軌道がNK 3217にあります。次回の近日点通過は2025年4月22日となります。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。