134(2016年4〜6月)
2016年10月5日発売「星ナビ」2016年11月号に掲載
PANSTARRS彗星(2015 WZ)
2016年春は、ここサントピア・マリーナの遅れていた桜も4月5日頃にやっと満開となり、気候もようやく春らしくなってきました。ところで、本誌4月号でモンステラの株分けをお話ししました。その後、分けられた3つの株は順調に成長し、自分を支えられないほど、また大きくなってしまいました。しかし今、問題なのは、5年前に購入したドラセナの一種が大きく成長し、一見、林というより森のようになってリビングの片隅を占領し、その内の3本の枝が天井まで到達してしまったことです。インターネットで挿し木ができる観葉植物なのかを調べると、どうも大丈夫なようです。そこで4月下旬になって、天井に到達している3本の枝を1mくらい切り取って、さらにそれらを半分に切って6本の苗木を作り、挿し木することにしました。4月25日、京都からの帰りに南あわじのホームセンターに出向き、6個の化粧鉢と腐葉土を購入して、6本の先端に腐敗防止剤と、下端となる挿し木の茎に発毛促進剤(毛髪用ではない)をつけて、植木鉢に挿し込んでいきました。ただ、根は切り取った茎の下から出てくるものではありませんが……。大丈夫なのかなぁ……とどきどきしていましたが、それから2か月ほどが経過した6月下旬には、6本の挿し木からは小さな芽が出てきました。無事うまく挿し木が成功したようです。しかし今は、一度に6鉢も増えたドラセナを廊下に置いてありますが、すでに何個かの観葉植物があるリビングのどこに置いていこうか……と悩んでいます。
さて、約1年ほど前の2015年11月17日にPan-STARRS1サーベイでオリオン座、エリダヌス座、そしておうし座の境界を撮影した捜索画像上に21等級の小惑星状天体が発見されます。この天体は、同サーベイで2015年10月25日、11月7日、8日、15日に撮影していた捜索画像上にも見つかり、天体には小惑星の仮符号2015 WZが与えられます。発見直後にキットピーク、マクドナルド、マグダレナなどの天文台で20等級でとらえられました。軌道計算の結果、近日点距離がq=1.377au、e=0.993とほぼ放物線軌道上を動く天体(周期が約2700年ほど)でした。11月29日には、東京の佐藤英貴氏もサイディング・スプリングにある51cm望遠鏡でこの天体をとらえ、形状は恒星状、そのCCD全光度を20.3等と観測しています。さらに小惑星は、1月2日には紫金山で18.9等で観測されました。
この小惑星は2016年4月15日に近日点を通過し、同じ日にクリミアで17.9等で観測されました。近日点通過後の4月17日になって、この小惑星をクリミア近郊にある50cm望遠鏡でボリゾフが撮影した画像上では、拡散した約1.9′のコマと西に1.4′の尾が見られ、光度が13.0等に増光していることが報告されます。4月20日に米国メイフィールド近郊にある51cm望遠鏡で観測したロシアのディニセンコからも、天体には少なくとも30″のコマがあり、光度が14.0等、4月22日には14.2等の集光した25″のコマが見られることが報告され、この小惑星は彗星であったことが判明しました。新彗星は4月24日07時45分到着のCBET 4273でその発見が公表されます。
翌4月25日は、京都のマンションから家具を運ぶために07時20分に自宅を出発し、11時27分に二条城の駐車場に着きました。搬出の作業を終えてサンマルクで昼食をとり、淡路縦貫道をそのまま走り抜け南あわじに戻ってきたのは15時40分のことです。ここで前述の挿し木用の植木鉢6個を購入して、再び途中で夕食をとり、オフィスに18時00分に出向いてきました。
すると、CBET 4273到着から1日半ほどが過ぎた18時47分に東京の佐藤英貴氏から「4月24日20時過ぎにメイヒル近郊にある51cm望遠鏡でこの天体を観測しました。天体には強く集光した1.3′のコマがあり、そのCCD全光度は13.3等まで増光しています」という観測が報告されていました。『微光の小惑星がずいぶん増光したものだ』と、一旦そのまま見過ごしました。しかし4月28日なって『やっぱり、ゴンザレスに眼視でとらえられるか挑戦してもらおう』と19時26分に氏と中央局のダン(グリーン)に『この彗星が13等級に増光しているので、眼視で観測してほしい』ことを伝えました。また、日本国内の観測者にも彗星の増光を連絡しておきました。19時23分のことです。
4月30日04時18分には、上尾の門田健一氏からも「4月30日02時半過ぎに25cm反射望遠鏡でそのCCD全光度を13.4等と観測した」ことが報告されます。なお、この頃の小惑星としての予報光度は20.5等級でした。そのため、彗星は8等級ほど増光したことになります。
5月1日16時12分、スペインのゴンザレスから「5月1日12時前に眼視でこの彗星をとらえることに成功し、その光度を10.9等(コマ視直径が3′)と観測した。少しの月明かりがあったために、眼視でとらえられる最微光星は13.6等であった」という報告が届きます。『10等級か……。思いのほか明るかったなぁ……』と思って氏の報告を見ました。なお氏は、さらに5月15日にもこの彗星をとらえ、その眼視全光度を10.4等(同5′)と観測しています。つまり発見時頃の小惑星(彗星)としての標準等級はH10=16.0等でしたが、ゴンザレスの観測時には、H10=8.0等まで増光していたことになります。
その後、彗星は6月下旬に地球に1.11auまで接近し、5月中旬以後から7月にかけて北天を大きく動きました。その間、ゴンザレスは5月31日に10.1等(コマ視直径5′)と観測しています。また、彗星の位置観測は7月末まで報告されています。国内では、門田氏は7月9日にそのCCD全光度を15.8等、守山の井狩康一氏も7月18日に18.3等と観測しています。その後の観測は報告されていませんが、増光が続いているならば来年2017年春頃に17等級でとらえられるでしょう。
おとめ座の閃光星=PNV J12595596-1648594
6月3日は、前日夕方からの快晴の空が続いていました。その日の昼間12時05分に、群馬県嬬恋村の小嶋正氏から「昨夜6月2日21時過ぎにおとめ座を約40秒の間に写した6枚の捜索画像上に明瞭に写っている12等級の“何か”を発見しました。撮影データは下記のとおりです。最初の3画像と後の3画像はアングルを変えてありますので、ノイズ等ではありません。しかし、27分前に写してあった捜索画像と70分後に確認のために撮った画像では、この天体が見当たらず不思議に思っています。この位置には、USNOカタログにB等級で17.4等、R等級で14.7等の恒星がありますが、この星は暗いためか、過去画像には写っていません。可能でしたら確認の観測をしていただけたら幸いです。撮影機材は、デジタルカメラ(Canon EOS 6D)に135mm f2.8レンズを装着して、4秒露光で撮影してあります。極限等級は14等級です。最初の画像を添付します」という報告が届きます。
小嶋氏からの確認依頼を見た香取の野口敏秀氏からは、12時47分に「了解しました。今夜確認してみます。今のところ晴れの予報です」というメイルが小嶋氏に送られていました。『なに……、40秒間に撮影した画像のみに写っていて、その27分前と70分後の画像では、それを確認できない。これは何なんだ……』と不思議な気もしますが、とりあえずダンに報告することにしました。そして『天の川から離れたおとめ座に新星出現はめずらしい』と思いながら、13時07分に小嶋氏の発見をダンに送りました。それを見た小嶋氏から19時34分に「TOCP(未確認天体確認ページ)への掲載、ありがとうございました」という報告確認のメイルが届きます。その10分後の19時44分に山形の板垣公一氏から「栃木にある50cm f/6.9反射望遠鏡で出現位置を6月3日19時半に撮影しました。その画像では、報告の位置にある天体は15.0等でした」という観測が届きます。このとき、小嶋氏の画像からその出現位置の測定が終了していました。位置は小嶋氏が報告してきたものとほぼ同じでしたが、板垣氏の観測と私の測定位置をダンに報告しました。19時58分のことです。
同じ夜、20時42分には、野口氏より「23cm f/6.3望遠鏡で6月3日19時56分に撮影した画像上では14.8等でした」と板垣さんとほぼ同じ測光値が報告されました。それを見た小嶋氏からは21時59分に「皆さん。報告から確認観測などを行っていただき、ありがとうございました。位置が赤味の強い恒星に一致していますので、一時的な現象(フレアー)だったのでしょうか。今夜晴れているようですが、貴重な時間を費やしていただき、感謝申し上げます」というお礼状が送られていました。なお野口氏の観測は、22時35分にダンに報告しておきました。
さらに観測は、思わぬところからも届くものです。23時47分に山口の吉本勝己氏から「TOCPに掲載されていた小嶋さん発見の天体を先ほどデジカメで撮影してみました。掲載されていた位置にノイズレベルの星像があるようですが、正確な光度が出る星像ではありません。野口さんの画像を拝見しましたが、私の画像ではさらに暗くなっており、15等以下です。おそらく14.8等ならもう少しはっきり写ると思われます。ご参考までに画像をRGB分解し、Gチャンネルで測定した数値をお伝えします」というメイルとともに「デジタルカメラ(Nikon D5100)に180mm f/2.8レンズを装着して6月3日22時10分に撮影した画像上では、正確ではありませんが15.4等でした。30秒露光4枚のフレームからで、最微光星は15.5等〜16等です」という観測がありました。
これらの光度観測から、この星は発見直後に撮影された6月2日22時過ぎの小嶋氏の極限等級が14等の画像には、すでに写っていません。そして6月3日の20時前後の画像では板垣氏が15.0等、野口氏が14.8等、22時の吉本氏の画像上では15.4等と、どうもまだこの星は減光を続けているようでした。氏の観測は6月4日01時16分にダンに送っておきました。そして、01時24分に吉本氏へ『観測をありがとうございます。ちょうど、グリーンへの連絡(HICQ 2016の編集が半分終わったという連絡と発行の打ち合わせ)があったので、光度は不確かであるという注意書きをつけて観測を知らせておきました。ところで、HICQは毎年グリーンから送られてきていますか。届いていないという外国人が何人かいて、私の方に苦情が届きます……』というメイルを送っておきました。なお、同一のIPアドレスを省いた小嶋氏の発見画像へのアクセス数は、掲載半日間で25回、6月14日までに65回でした。
なお、6月6日23時45分になって、ダンに『HICQ 2016の編集は明日終わり、すぐ発送するつもりだ。2日後には受け取れるだろう。送付先をハーバードにするか自宅にするか、すぐ連絡してくれ』というメイルを送っておきました。
さそり座新星2016(V1655 SCORPII=PNV J17381927-3725077)
6月11日04時08分に静岡県掛川市の西村栄男氏から携帯に「今、発見報告を送りましたが、ちょっと訂正と追加があるので取り替えます」という連絡があります。その氏からの最初のメイルは6月11日03時55分に届いていました。そして04時17分に「新星状天体(PN)を発見しました。よろしくお願いします。暗い天体ですみません」から始まる訂正のメイルが届きます。そこには「デジタルカメラ(Canon EOS 5D)と200mm f/3.2望遠レンズを使用して、6月11日00時05分にさそり座を10秒露光で撮影した3枚の捜索画像上に12.4等のPNを発見しました。発見後、再度撮影した画像上にも確認できます。輝星の近くで画素割れが心配ですが、それはないようです。発見光度は12.4等、画像の極限等級は14等級です。変光星と小惑星は調べました。近くにLINEAR彗星(2010 S1)がいます」という発見報告がありました。『なに……、彗星……』と思い位置を調べましたが、それではありません。それを見て、04時29分に西村氏に『過去の画像の調査があったほうがいいでしょう。調べてもらえますか』と頼みました。その結果が04時46分に届きます。そこには「この星は、5月15日と18日、そして発見5日前に撮影した6月5日の画像には写っていません。極限等級が12等〜13等級です」という発見前の画像の調査が届きます。これで資料がそろいましたので、報告を作成できます。西村氏の発見は05時05分にダンに送付しました。05時15分と18分には発見画像が届きます。らさに05時21分には、西村氏より「画像を送りました」と連絡が携帯にあります。すでにそれらを見ていましたので『はい。受け取っていますよ』と答えておきました。ところがこの発見画像をウェッブ・サイトに入れることを忘れてしまい、発見画像へのアクセス数がわかりません。『西村さん。新星の発見だから、きっと500回くらいはあったでしょう。すみません』。
その夜が明けた07時29分には、嬬恋の小嶋正氏から「西村さんのPNですが、昨日6月9日23時18分に撮影した捜索画像上に写っているようです。しかし、画像の端のため確信が持てません。西村さんの画像との照合をお願いします。添付画像の左端です。このとき光度は12.0等でした。なお、画像の極限等級は約14等級です。機材は、スカイメモに同架したデジタルカメラ(Canon EOS 6D)+200mm f/2.8レンズです」というメイルが届きます。『小嶋さんは発見前の観測が多いなぁ……。きっと熱心に捜索されているんだろう』と思いながら、西村氏と小嶋氏の画像を比較しました。その結果、小嶋氏の画像に写っている星は、西村氏の天体に間違いないようです。さらにその日の昼間14時00分に、小嶋氏から追加の情報が届きます。そこには「200mmレンズの画像の位置を測定しました。西村さんのPNと同じ天体のようです。なお、135mm f/2.8レンズの方にも写っていました。その存在は間違いありません。135mmでのデータは、6月5日に撮影した捜索画像上にはその姿がありません。6月9日23時09分に撮影した捜索画像上では、新星の光度は11.8等星でした」と報告されていました。[以下、次号に続きます]
※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。