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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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133(2016年3月〜)

2016年9月5日発売「星ナビ」2016年10月号に掲載

超新星2016bam in NGC 2444

寒の戻りのために再び寒くなってきていた2016年3月12日の朝は、全国的に晴れていたようです。この朝には、先月号でその発見を紹介した岡崎の山本稔氏の新星発見が05時52分に報告されました。そのあと08時41分には、広島の坪井正紀氏から「やまねこ座にあるNGC 2444に超新星状天体(PSN)を見つけました」という連絡が携帯にあります。メイルを見ると、氏の報告は3月12日08時38分に届いていました。

そこには「大変ご無沙汰しております。最後の超新星発見(本誌2014年3月号)から継続して超新星掃索を行っていたのですが、なかなかめぐり合わせが悪く成果は出ませんでした。でも、久々に報告致します。このPSNは星雲に埋もれて、しかも急激に暗くなり確認に手間取りました。広島大学に確認をお願いしましたところ、PSNの存在は確認できました。発見をTNS(後述)に初めて報告してみました。私にちゃんと報告できているか不安でしたが、これもチャレンジですね。中野さんにも報告を……と思いメイルいたしました」という連絡とともに「2016年3月7日19時25分に35cm f/4.5反射望遠鏡+CCDを使用して、20秒露光でNGC 2444を撮影した2枚の捜索画像上に16.1等のPSNを発見しました。3月3日に撮影した極限等級が17.7等の捜索画像上には、このPSNの出現がありません。発見2日後の3月9日20時26分に撮影した6枚の確認画像上に、このPSNを確認しました。このときは16.9等でした。なお、銀河中心から西に4″、南に34″離れた位置に出現しています。小惑星と変光星カタログに同定できる天体はありません。発見済みの超新星はTNSで確認済です」という発見報告がありました。

さて、本連載のウェッブ版にはすでに紹介したとおり、また坪井氏のメイルにもあるとおり、新年(2016年)1月からは超新星の発見処理の管轄が移りました。このことは、本誌6月号の「今月の視天」で山岡均氏、本誌7月号の「Observer's NAVI」でも吉本勝己氏が紹介していますが、超新星の発見は、発見者自身が当該サイト(TNS https://wis-tns.weizmann.ac.il/)にその情報を書き込むことになりました。その際、報告された天体には、その報告順に発見年で始まるAT 2016xxxという仮符号が与えられます。そして天体がスペクトル確認され、その発見が認められると、ATが超新星符号SNに変わります。従って、従来のように超新星の符号が連続して付けられるわけではありません。このため超新星符号は歯抜けとなります。なお、8月21日現在、仮符号はAT 2016fdz、超新星符号はSN 2016exvまで進んでいます。もし、ともに掲げられているID No.が今年初に10000からスタートした連続した報告数ならば、その発見報告は今年になって4205個となります。

ただ残念なのは、これまでのように詳しい発見事情や確認観測をつけた超新星の発見報告として、IAUCやCBETなどの回報に公表され、観測者や研究者などの購読者に送付されるということがなくなってしまったことです。これは捜索者にとって、超新星を発見する張り合いや自分の発見を世界に公表してくれるという喜びがなくなったことにもなります。本稿で超新星の発見を紹介するのも、私たちの天の川銀河に超新星出現でもない限りこれが最後となるでしょう。

なお、坪井氏は3月11日夕方にもこの超新星を確認し、その光度を17.3等と観測しています。同日にはスペクトル観測も行われ、II型の超新星出現であったことが報告されています。

252P/LINEAR周期彗星の増光

この周期彗星は、リンカン研究所の地球接近小惑星サーベイ(LINEAR)で、2000年4月7日にへび座を撮影した捜索画像上に動きの速い17等級の小惑星状天体として発見されたものです。しかしその画像を見直したとき、天体は拡散状で写っており、彗星として再度報告されました。さらに4月8日に行われた追跡観測でも、天体は拡散していることが認められました。周期が5.3年ほどの短周期彗星でしたが、その標準等級はH10=17.0等と暗く、微小の彗星でした。それでも発見できたのは、発見時、地球に0.21auまで接近していたからです。発見直後に行われた国内の観測でも、芸西の関勉氏が4月10日に16.9等(H10=19.7等)、ダイニック天文台の杉江淳氏が4月11日に16.1等(同18.8等)、久万の中村彰正氏が4月12日に15.0等(同17.6等)、上尾の門田健一氏が4月16日に15.9等(18.3等)と観測しています。いずれの観測からも()内にあるとおり、標準等級が18等級と周期彗星として、小さなものでした。

しかし一方、彗星の近日点距離はq=1.003au(発見当時;NK 811)と地球軌道のきわめて近くにあり、将来に地球との大きな接近がある可能性を秘めていました。なおこのときにも、彗星は発見前の3月5日に地球に0.097auまで接近し、その頃に12等級まで明るくなっていたはずです。

ところで、彗星の周期の端数が0.5年に近いために、次回の2005年の回帰では彗星と地球の位置が太陽をはさんで反対側となるために観測条件が悪く、見逃されてしまいました。その回帰が観測されたのは、その次の2010年の回帰でした。検出は、月惑星研究所のスカッチが1.8mスペースウォッチII望遠鏡を使用して2011年6月9日に検出し、翌10日にこれを確認しました。検出時、彗星は周辺の星よりわずかに拡散状でした。しかしこのとき、その近日点(2010年11月13日)を過ぎており、すでに22.7等まで減光していました。そのため、この回帰では、スカッチの検出観測のみしか報告されていません。検出時の光度から彗星の標準等級はH10=17.3等となります。つまり、予報光度を計算するために推定されたH10=17.0等はよく合っていたことになります。

いずれにしろ、2000年と2010年の回帰の観測からその連結軌道(NK 2104)が計算されました。その軌道から今回の回帰(近日点通過:2016年3月15日)では、彗星は2016年3月21.5日UTに地球に0.036auまで接近し、その頃、微小の彗星ながら9等級まで明るくなること。その際、北天から南天、さらに北天へと大きく動き、最接近時には南天で見られること。北半球から観測できるようになるのは3月24日頃からとなり、この頃は10等級、1日当たり8°ほどの高速で北上を続けることが予報されていました。

今回の回帰では、彗星は2015年9月10日にマウナケアで再観測されます。光度は23.6等で、これは標準等級にしてH10=18.2等となります。2015年9月以後に行われた再観測位置は、予報軌道(NK 2104(=HICQ 2015))から赤経方向に-37″、赤緯方向に+2″のずれがあり、これは、近日点通過時の補正値にしてΔT=+0.02日のずれでした。これらの再観測を使用して、2000年から2015年に行われた154個の観測から連結軌道(NK 3023)が計算されました。このとき、彗星の運動には非重力効果による影響が認められました。しかし、その後の観測位置は、この軌道からも次第にずれ始め、2016年2月中旬の観測は、赤経方向に-12″、赤緯方向に-30″の大きなずれを示しました。もちろん、新しい連結軌道を計算しましたが、2000年以後のすべての観測を満足する軌道が求まらなくなりました。そのため、2000年出現時の観測の一部と2011年から2016年までに行われた274個の観測から新しい連結軌道(NK 3064)が計算されました。

地球への接近前の彗星のCCD全光度を、八束の安部裕史氏は2月5日に16.5等、山口の吉本勝己氏は2月10日に16.2等、守山の井狩康一氏は2月11日に16.9等と観測しました。これらの観測から推定される標準等級はH10=18.5等で、以前よりの予報光度を1等級ほど暗くしました。そのため、地球最接近時の光度は11等級となるものと推測されました。

ところが3月7日01時56分にスペインのゴンザレスから「彗星は予想より明るく、3月5日に眼視光度で10.5等(コマ視直径5′)であった」というメイルが届きます。また、メイヤー氏主催のCOMET-MLには、オーストラリアのマチアゾが3月8日に9.5等、カミレリが9.8等と観測したことが報告されます。これらの観測から、彗星の現在の標準等級は、上で推定した値より3等級ほど明るく、H10=15.5等と推定されます。この結果、接近日頃には8等級まで明るくなることが期待されました。このことは、3月10日18時37分にOAA/CSのEMESで観測者に連絡しました。また、この予報はゴンザレスとダン(グリーン)にも送付しておきました。

地球への接近日が近づくと、彗星はさらに増光を続け、3月11日にブラジルのゴイアトが8.6等、マチアゾが8.0等、ドイツのレーマンが3月13日に5.8等(視直径50′)、ゴイアトが3月14日に6.6等(同30′)、マチアゾが3月15日に6.1等(同40′)、ゴイアトが3月16日に6.1等(同35′)、マチアゾが3月18日に4.8等(同50′)と、南半球の観測者によって、最接近直前には肉眼等級まで明るくなったことが観測されました。マチアゾの3月18日の観測では、彗星の標準等級はH10=11.5等まで増光したことになります。なお、実際には、3月15日以後の眼視観測にフィットさせた標準等級はH30=12.0等くらいとなります。いずれにしろ、彗星の標準等級は、当初の推定値より6等級以上増光したことになります。

幸いなことに彗星が北半球で見え始める3月25日以後の明け方の空は、全国的に快晴の空が続いていました。日本での初報告が3月26日05時44分に安部氏からその画像とともに届きます。氏の観測は、同早朝、04時30分前後に行われたもので、そのCCD全光度は8.2等でした。氏のメイルには「添付した画像は10秒露出×5枚。画像の写野は22.7′で、コマ視直径は12′くらいです」とありました。その日の午後13時31分には、関氏が3月25日朝にこの彗星を捉えていたことが報告されます。さらに3月27日22時26分には、栗原の高橋俊幸氏から観測と画像が「北上してきた252Pです。CCD全光度は8等級です。目立った尾は見られませんが、中心部の核は東西方向に伸び、淡いコマが大きく広がっています」というメイルともに届きます。3月29日17時40分と20時50分には、長野の大島雄二氏から3月26日と27日の観測も届きます。氏のCCD全光度は両日とも8.9等でした。3月31日20時17分には、新星捜索を行っている掛川の西村栄男氏からも、この日の朝に撮影した捜索画像上に彗星が入ってきたことが報告されます。

ところで、北半球で観測条件の良くなる4月上旬には、彗星が地球から遠ざかっていくため、その光度は7等級以下に減光するものと思われていました。しかし、ゴンザレスから4月1日20時42分に「252P Naked eye」というタイトルをもったメイルが届きます。氏の観測によれば、彗星は4月1日に5.0等(肉眼、視直径70′)、5cm単眼鏡で5.4等(同457′)でした。氏によると「月の出前の観測で、眼視で良く見えた」とのことでした。彗星が眼視で捉えられたことは、4月2日00時51分発行のEMESで観測者に伝えました。さらにゴンザレスは、4月7日にも5.2等(肉眼、視直径50′)、5cm単眼鏡で5.6等(同35′)と観測しています。その後の眼視光度が4月1日に5.6等(小林寿郎;熊本)、5.5等(吉本、大下信雄;飛騨)、5日に5.7等(ゴイアト)、6.5等(大下)、5.8等(相川礼仁;坂戸)、7日に5.7等(相川)、10日に5.9等(ソーザ;ブラジル)、11日に6.4等(永井佳美;新潟)、7.3等(鷲真正;八尾)、7.1等(大下、橋本秋恵;秩父)、6.5等(相川)、17日に6.9等(橋本)、6.3等(相川)、29日に6.8等、20′、30日に7.1等、18′(吉本)と観測されています。なお、COMET-MLによると、海外では、彗星は4月10日過ぎまで眼視で見られたことが報告されていました。

光度変化のグラフ 彗星は5月に入ってもまだ明るく、ゴンザレスは5月1日に6.8等(視直径20′)、5月15日に8.2等(同12′)と観測しています。国内での眼視全光度も、5月2日に7.5等(大下)、11日に8.5等(相川)、12日に9.3等、11′(吉本)、9.5等(大下)、8.9等(永島和郎;生駒)と観測されています。さらにゴンザレスは、この彗星の眼視全光度を6月1日に10.0等(コマ視直径6′)と観測しています。これらの眼視観測から、4月以降の標準等級はおよそH10=10.0等でした。つまり彗星は、接近時の増光を保っていたことになります。しかし彗星が拡散したためか、この頃の彗星のCCD全光度は、5月14日に10.9等(門田)、22日に11.7等(門田)、6月1日に12.8等(吉本)、2日に12.6等(門田)、13.1等(張替憲;船橋)、12.3等(大島)、14.2等(井狩)、5日に15.8等(杉山行浩;平塚)、7日に13.6等(安部)、10日に14.8等(張替)と暗くなっていったことが観測されています。このようにゴンザレスの眼視観測に比べて、CCD全光度の減光が急激でした。

その後の観測は、東京の佐藤英貴氏が6月29日に17.1等、門田氏が7月9日に18.2等、井狩氏が7月18日に17.5等と観測しました。佐藤氏によると、彗星には集光した2.3′のコマがまだ見られたとのことです。なお、この頃の彗星のCCD標準等級はH10=15.5等ほどに減光していたことになります。これらの彗星の光度変化を図に示します。この光度変化図から、2016年初には15等級ほどであった彗星が、地球への接近が近づくにつれ急速に4等級まで明るくなり、接近後にはゆっくりと減光し、6月頃には15等級まで暗くなったことがわかるでしょう。

なお、同じ頃、地球に接近したPANSTARRS周期彗星(2016 BA14)の紹介が本誌8月号にあります。252P/LINEAR彗星は、2032年3月16日に地球に0.057auまで接近します。このとき、小さな彗星が同じような増光を見せるのか、あるいは小さな彗星で終わってしまうのか、16年後を楽しみに待ちたいと思います。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。