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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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143(2017年2月)

2017年7月5日発売「星ナビ」2017年8月号に掲載

アポロ型特異小惑星2017 BN92

先月号で紹介した2017年1月18日早朝に発見されたアポロ型小惑星JAX504(=2017 BK)の発見に続き、2月1日02時41分にJAXAの柳沢俊史氏から発見報告が届きます。報告にあるこの天体は、入笠にある35cm f/3.6望遠鏡を使用して、黒崎裕久氏との共同作業でぎょしゃ座を撮影した捜索画像上に発見された17等級の地球接近天体(NEO)でした。発見当時天体は、東に日々運動904′(約15°)で超高速移動していました。2月1日の朝は当地では晴天でしたが、入笠山は標高1814mの積雪地帯にあります。『本格的な冬に、いったいどうやって観測しているのだろう。まして、遠隔操作だとするとドームを開けるのだって大変だ……』と思ってしまいます。

もちろん、まず人工天体ではないかと、地球軌道と日心軌道の決定を行いました。すると、この天体については地球軌道ではなく、日心軌道が計算できました。それも簡単に…です。従って、今回発見された天体は、自然の小惑星となります。04時11分に柳沢氏に『今度は単純に軌道が出ました。もちろん、q、aとeは確かでありませんが……』というメイルとその概略軌道(q=0.99au、e=0.43、a=1.75au)を送りました。このメイルは、同時に美星スペースガードセンターにも転送しました。すると、04時30分に浦川聖太郎氏から「美星では、1.0m望遠鏡が使用できません。50cmで追跡観測を実施しましたが、検出できませんでした」という報告が届きます。多分、移動速度が速いために50cm望遠鏡では写らなかったのでしょう。

しかし、その日(2月1日)の昼間、12時59分に東京の佐藤英貴氏から「……。ところで、JAXA(入笠)でまた明るいNEOが発見されました。16〜17等台の明るい天体なので、2017 BKよりも多くの観測が集まりそうです」というメイルとともに3個の観測が届きます。氏の観測は、メイヒル近郊にある25cm望遠鏡で2月1日12時前後にこの天体を捉えたものです。その観測光度は16.6等でした。

夕方になって、これまで報告された観測からその軌道を決定し、EMESでこの発見を伝えました。19時24分のことです。そこには、以上の発見状況と『最近、世界各地のNEOサーベイで発見されるNEOは、その発見光度が20等級前後(以下)と暗いものが多くなり、地球近傍で20等級より明るくなるNEOは、ほぼ発見し尽くされてしまったという感があります。そのため、これらの天体の捜索は中型以下の望遠鏡のサーベイの捜索範囲外となり、NEOの捜索は大型の望遠鏡での発見が主流となりました。

入笠での発見は、1月17日発見のアポロ型小惑星JAX504に続くものですが、いずれの小惑星も最近発見されるNEOとしては、発見光度(見かけ上の光度)が明るいものでした。このことは、世界各地で行われているサーベイで、まだ、急速に地球に接近する軌道を動くNEOの中には見逃されているものが多くあること。つまり、秘かに地球に接近して明るくなったNEOが、発見されずに遠ざかっているものが、まだかなりの数あることを暗示しているように思われます。

なお、この天体は2月上旬に地球に0.013auまで接近します。そのとき、1時間あたり40′ほどの高速で移動しています。東京の佐藤英貴氏は、2月1日にこの小惑星を観測し、その光度は17.0等、その1時間ほど後の光度は16.6等と少し増光しているようです』というコメントをつけておきました。そのEMESを送った12分後には、宇都宮の鈴木雅之氏が2月1日18時頃にメイヒル近郊にある同じ望遠鏡で行った3個の観測が届きます。氏の観測光度は佐藤氏と同じ16.6等でした。『あちゃ、もう少し待つんだった……』と思いながら氏の観測を見ました。

この発見は、2月2日05時19分に到着のMPEC C15(2017)で公表されます。これで新しい捜索システムを導入してから、入笠での特異小惑星の発見は2個目となりました。同日朝09時03分には、柳沢氏から「軌道の計算ありがとうございます。また、EMESでのコメントもありがとうございます。おっしゃるように、地球のごく近傍を高速で動く、明るい状態のNEOを捉えるのが我々の狙いで、これに特化して観測スケジュールや機材、解析方法を設定しております。既存の大型望遠鏡を利用したサーベイに負けないよう今後ともがんばりたいと思います」というメイルが届きます。『がんばってください。小惑星捜索者がいなくなった我が国では、その命名ばかりに熱中し、天狗になっている人がたくさんいます。どうぞ、工夫して頑張ればまだまだ発見できるんだということを彼らにお示しください』という思いで氏のメイルを読みました。

その夜のことです。19時04分に八尾の奥田正孝氏から「JAX505の近日点通過日を教えていただけませんか」というメイルが届きます。そこで19時32分に近日点時刻が入った軌道要素を送りました。すると22時56分に氏から「ありがとうございました。30分追跡しました。視野には入っているのでしょうが、顕著な移動天体の特定には至りませんでした。17.4等の星雲は写っています。これか…、あれか……というのはあるのですが、特定できませんでした」というメイルが届きます。そのあと、これまでに報告されている追跡観測からこの小惑星の最新の軌道(q=0.9932au、e=0.4845、a=1.9265au、P=2.67年)を計算し、23時10分に日本スペースガード協会のウェッブサイト用のJSGA Web News No.167を発行して、会員にこの発見を伝えました。そして、奥田氏には23時14分に『ご苦労さまです。17等級の高速天体を写すには、極限等級が19等級くらいまでいかないと難しいと思います』というメイルを返しておきました。

なお柳沢氏からは、3月4日06時15分にしし座を日々運動が42°という超高速で移動する16等級の高速移動天体の発見が報告されます。『これは、すごい』と思いながらも、報告された観測は、天体があまりに速いためか、2個しかありません。残念ながら、少なくとも3個以上の観測がないと、人工天体か自然の小惑星かも確認できません。そこで成り行きを見ていましたが、結局、あまりにも高速のためか、どこでも捉えられなかったようです。『残念です……』。

さそり座新星V1657 SCORPII=Nova Sco 2017

2月中旬にさしかかった2月8日からの数日間は、山陰や北陸など日本海側の地域は大雪が降っていました。この時期、太平洋側では寒くて晴れた日が続いていました。しかし2月9日明け方には、ここでも小雪混じりの小雨が降りました。その夜(2月9日)、21時17分に掛川の西村栄男氏から携帯に連絡が入ります。氏の用件は「今、メイルを送りましたが、ちょっと調べて欲しい星があります」とのことでした。そのメイルは21時06分に届いていました。そこには「また、無理なお願いで申し訳ありません。下記の天体を2月2日早朝に見つけました。しかし発見位置の数秒近くには赤い星があるため、金子静夫氏や変光星観測者と調査しました。その結果、過去に増光の記録は見つかりません。また、ミラ型変光星ではない光度変化をしているようです。どこかでスペクトルを撮っていただけたらと思いますので、お手数ですが、未確認天体確認ページ(TOCP)に掲載をお願いします」という連絡とともに「この星は、一週間前の2月2日明け方、05時41分にCanon EOS 5Dデジタル・カメラと200mm f/3.2望遠レンズを使用して、さそり座を10秒露光で撮影した3枚の捜索画像上に発見したものです。発見光度は11.7等でした。1月26日以前に撮影した捜索画像上には写っていません。さらに2015年や2016年に行われた多数の捜索画像を調べましたが、写っていません。しかし、1月31日の画像上には、すでに12.5等で出現していました。その後に行われた捜索画像上にも、2月3日に12.1等、6日に12.7等で写っていました」という発見報告がありました。さらに金子氏がサイディング・スプリングにある望遠鏡で2月7日に行った光度測光も付けられていました。西村氏からは続けて、その画像が21時08分から21時15分にかけて送られてきていました。

西村氏の発見は、氏の希望のとおりTOCPに掲載して、その発見報告を21時50分に中央局のダン(グリーン)に送付しました。その1日後の21時27分には、西村氏から「さっそく処理していただきありがとうございました。中野さんには、いつも親切にしていただき本当にありがとうございます。どこかでスペクトルが撮られることを楽しみに待ちたいと思います。こちらは冷え込んでいますが、星が輝いています。関西地方は大雪と聞いています。寒い季節ですのでお体にご注意くださいますように……」というメイルが届きます。なお、氏のメイルは、その発信から約5時間後の2月11日02時03分になって届きます。そこで遅ればせながら氏には、04時56分に『わざわざ、ご連絡をありがとうございます。こちらも、雲があるものの快晴の空です。いったい、雪はどこで降っているのだろうと思います。空には月がまばゆく輝いています。こんなに明るく強烈な月光では、接近中の45P/本田・ムルコス・パジュサコバ彗星は観測できませんね……』という返信を送っておきました。

その日の朝、06時35分には、香取の野口敏秀氏から「23cmカセグレインで2月11日05時01分に観測しました。光度は12.6等でした。なお、1995年に撮影されたDSS(デジタル・スカイ・サーベイ)には、同じ位置に15.9等の恒星があります」という観測が報告されます。その夜の21時48分になってから、ダンに野口氏の観測を報告しておきました。

その2日後の2月13日20時29分に西村氏から「大変お世話になりましたが、新星と確認されたようです。SOAR望遠鏡で2月13日にスペクトル確認されたことがAtel 10071に掲載されました。これも中野さんのお陰と感謝申し上げます。報告を悩みましたが、TOCPへの掲載を快く引き受けていただき本当にうれしかったです。また、20個目の新星に出会えたことは、中野さんのお力だと本当に感謝をしております。ありがとうございました」という吉報が届きます。氏には、21時11分に『そうですか。新星でしたか。暗い星も無視してはダメですね。CBETに取り上げてくれればいいのですが……』という返信を送っておきました。

この時期、他にも新星状天体の発見が何件か届きます。その一つが水戸の櫻井幸夫氏から2月16日08時28分に届いたへびつかい座に発見された11等級の天体でした。氏のメイルには「変光星と小惑星はチェックしました」とありましたが、何となく気になって、既知の小惑星が近くに来ていないかを調べると、番号登録小惑星(40)が発見位置にいました。光度も11.9等で発見等級に一致します。そこで、08時46分に『たぶん、これでしょう。小惑星のチェックはどうやりましたか』というメイルを送りました。しかし櫻井氏からは、その後も報告が届きます。どうも、私のメイルが届いていないようです。そして、氏からは2月17日06時21分に「TOCPに他の方の発見報告がなかったので、ノイズかも…という思いはしていました。今朝確認のための写真を撮ったところ、発見位置には何も写っていませんでした。やはりノイズだったようです。中野さんの賢明なご判断により救われました。ありがとうございました」というメイルが届きます。『何を言っているんだ。動いたんだよ。昨日、これは小惑星だというメイルを送ったではないか』と思いながら、もう一度、その連絡を送りました。しかし、このメイルも氏には届かなかったようです。あとで氏からの連絡では、昨年の秋から私のメイルが一通も届いていないとのことでした。

さて、西村氏の新星ですが、氏から「新星と確認されました」と連絡があってから4日が過ぎても、CBETは発行されません。そのため、2月17日02時31分にダンに『誰も、この新星のスペクトル確認を報告してこないのか』という問い合わせを送りました。するとその3日後の2月20日06時59分に「No……」という返答があります。その夜になって、このことを西村氏に知らせておきました。

この時期、もう一つの新星状天体の発見が徳島の岩本雅之氏から2月20日11時57分に報告されます。氏の報告には「2017年2月19日05時32分にCanon EOS 6Dデジタルカメラと100mm f/4.0レンズでいるか座を撮影した捜索画像上に11.2等の新星状天体を発見し、翌2月20日05時08分にこれを確認しました。この星は、DSS画像上にも認められないので報告致しました。なお、天文台へも同じように連絡をしました」と書かれてありました。この星は、その日中の内に天文台で処理されたようです。岩本氏には、22時29分と23時00分に『2013年の新彗星発見以来、ご無沙汰しております。お元気のことと存じ上げます。今は原稿書きの時期で、昼間は眠っていました。天文台で対応してもらって良かったです。また、がんばって捜索されてください。ご連絡ありがとうございました。ところで、何か星図ソフトか測定ソフトをお持ちではありませんか。それを表示してみると、ご報告いただいた位置の近くに11.6等星があることがわかります。赤緯が35″ほど違いますが……』という返信を送っておきました。すると、岩本氏から「天文台によると発見した星は、その固有運動が大きく、DSS撮影時から南に移動したものだろうということでした。確かにDSS画像の少し左上に同じぐらいの明るさの星があり、私も気にはなっていましたが、まさかそれが動いているとは思わなかったです。測定ソフトは持っていませんが、今はステラナビゲータ7を使っています。今後も彗星捜索を中心にしていこうと思っています。できるだけご迷惑をお掛けしないつもりでおりますが、もし、また何かありましたらよろしくお願いします。ありがとうございました」というメイルが届きます。

さて、2月20日の西村氏へのメイルについて、2月21日17時23分に氏から「さそり座新星のことで、ご心配いただきありがとうございます。グリーンのところに情報が集中しなくなったというようなことは、うわさで聞いていました。アマチュアのためにいろいろ尽力いただいているのに残念なことだと感じています。中野さんには何から何まで本当にありがとうございます。…別件…。すみません、もう少しお待ちください」という返事がありました。

そして、それから2日が過ぎた2月24日09時17分に西村氏の発見が公表されたCBET 4364が届きます。そこには「新星の発見報告直後に国内外で、11等級で観測されている」ことが報告されていました。そして、南米にある4.1m SOAR望遠鏡で2月12日にスペクトル確認が行われ、新星の出現であることが確認されたことが掲載されていました。その日の夜になって、報道各社に新天体発見情報No.236を送り、この発見を伝えておきました。2月25日朝には、西村氏からそれを受け取ったという連絡が届いていました。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。