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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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144(2017年2〜4月)

2017年8月5日発売「星ナビ」2017年9月号に掲載

PANSTARRS彗星(2016 VZ18)の増光

2016年11月6日、ハワイ州ハレアカラにある1.8m望遠鏡を使用して行われているPan-STARRS1サーベイで、エリダヌス座とろ座の境界近くを撮影した捜索画像上に21等級の微光の小惑星状天体が発見され、この天体には小惑星の仮符号2016 VZ18が与えられます。小惑星には、10月8日に同所で撮影されていた捜索画像上に発見前の観測(23等級)も見つかりました。さらに、11月〜12月にかけて、セロトロロ、キットピーク、マウナケアなど各地の観測所でほぼ連続して追跡されます。東京の佐藤英貴氏も、確認段階であった2016年11月21日にサイディング・スプリングにある51cm f/6.8望遠鏡でこの天体を捉え、その光度を21.2等と観測しました。このとき、氏は、天体には視直径6″の強く集光したコマが見られることを報告しています。

佐藤氏は、さらに12月26日になって、同じ望遠鏡を使用してこの小惑星を観測したとき、恒星状の核から西南西に10″の尾があるように見えたと報告しています。氏の観測では、小惑星の光度は20.1等でした。さらに、カナリー諸島テネリファにある1.0m望遠鏡で2017年1月27日に行われた観測でも、小惑星は拡散しており、西に広がった約15″の尾が見られること、その光度は19.5等級であることが報告され、この天体は彗星であることが判明しました。そして、1月29日12時24分到着のCBET 4351でその発見が公表されました。彗星の近日点通過は2017年3月7日、近日点距離が0.91au、周期がおよそ2800年の長円軌道(軌道長半径196.7au)を動き、太陽近傍に近づいてきた彗星でした。

彗星の公表から約1か月が経過した2月24日00時12分に佐藤氏から、この彗星の観測が届きます。2月17日12時頃に米国メイヒル近郊にある51cm望遠鏡で行われた氏の4個の観測の光度は15.7等となっていました。続けて氏からは、その1分後の00時13分に2月23日12時頃に行われた4個の観測も届きます。そのとき、彗星の光度は13.9等と増光していました。そして佐藤氏からは、00時24分に「20等級の微光の天体であったこの彗星が急速に明るくなり、すでに眼視観測可能な明るさになっています。この1週間で姿が大きく変わりました。NEOWISE彗星(2016 U1)とその様子が非常に似ています。この彗星は、夕空で観測しやすい状態が続きます。このまま、さらに活発になってくれればよいのですが……」という報告が届きます。

ところが、これらの観測が先に届いていることに気づかず、氏には00時28分に『概略で良いですが、今、何等ぐらいなのでしょう。ちょうど、この彗星の記事を書いていますので、その中に入れたいと思います』というメイルを送ってしまいました。『アホですねぇ……』。すると、氏からは00時33分に「2月23日に全光度13.9等、集光の強いコマ直径100″、位置角280°〜340°の方向に扇形状の6′の尾が見えます。2月17日には全光度15.7等(恒星状の核は17.8等)、星雲状の視直径50″のコマがあります」という報告が届きます。このことは、00時36分と01時02分にスペインのゴンザレスに伝え、眼視観測を依頼しました。同時に中央局のダン(グリーン)にも報告しておきました。そのあと、OAA/CSのEMESを発行し、この彗星の観測を仲間に依頼しました。そこには、以上の状況と『この彗星の標準等級はH10=18.0等(以下)と極めて微小の彗星でした。たとえば、佐藤氏の12月26日の光度からは、H10=18.4等となります。それが2月17日にはH10=16.6等、2月23日にはH10=15.1等と明るくなりました。彗星は、3月末に地球に0.53auまで接近し、空を大きく移動します。下にある予報光度は、佐藤氏の観測から求めた標準等級H10をさらに1等級明るくしてあります。3月には12等級まで明るくなるでしょう』と追記しました。

01時52分には、ゴンザレスから「天候が許せば、できるだけ早く観測を行うつもりだ」という連絡が入ります。EMESを見た山口の吉本勝己氏からは、03時32分に「増光の情報ありがとうございます。さすが佐藤さんですね。私も昨年から気になっていました。ただ、自前のCCDが故障修理中なので、リモートサイトにある望遠鏡を使って何度か撮っていたのですが、2月21日には初めてコマのある彗星として写りました。撮りっぱなしにしていた画像を、先ほど測ってみたところ、光度は16.3等、北西に0.6′ほどのコマが広がっていました」という報告が届きます。そこで、氏には、06時48分に『いつも観測を送っていただきありがとうございます。いろいろと助かっています。小惑星状天体で発見された彗星は、増光することが多いような気がします。ただ、この彗星でも、ようやく眼視発見できる領域まで入ってきたわけですので、本当は、ここからは(この増光のあとからが)、過去何十年か前まで考えられていた通常の彗星の光度変化となるのかもしれませんね』とお礼を送っておきました。なお、このあと、先月号で紹介した掛川の西村栄男氏が2月2日に発見した「さそり座新星2017」の発見が公表されたCBET 4364が届いたことになります。

翌2月25日の11時26分にゴンザレスから「この彗星を2月25日06時頃に20cm望遠鏡で観測した。眼視全光度は10.7等、非常に淡く拡散した視直径3′のコマが見られた」という報告があります。氏の光度は、発見当時に考えられた予報光度より6等級ほど彗星が増光したことになります。ゴンザレスは、さらに3月15日にも観測し、その光度を10.8等と観測しています。増光時期の彗星のCCD全光度を上尾の門田健一氏が2月11日に16.8等、25日に14.5等、3月4日に14.3等、八束の安部裕史氏が2月28日に14.9等、3月18日に16.5等、吉本氏が2月21日に16.3等、25日に13.9等、3月2日に14.5等、17日に15.6等とゴンザレスの眼視光度より約4等級ほど暗く観測されました。

その後、彗星は、3月24日に15.4等(池村俊彦;新城)、25日に16.1等(佐藤)、27日に15.6等(池村)、4月2日に16.4等(門田)、4月20日に17.7等(佐藤)、29日に17.9等、5月20日に18.4等(池村)と減光しました。なお、佐藤氏の4月20日の観測では、強い集光のある18″のコマと南南東に60″の尾が見られたとのことです。彗星は、4月から5月にも空を大きく移動しました。佐藤氏の4月20日の観測では、光度が17.7等、強い集光のある18″のコマと南南東に60″の尾が見られています。そして、池村氏が5月29日に19.0等と観測したのが最後の観測となりました。

ボリゾフ彗星(2017 E1)

3月1日は、早めに起きて13時10分にオフィスに出向き、郵便局へ出かけました。そして、午後3時に予約してあった医者にも出かけました。診察が終了した後、オフィスに戻るつもりでしたが『早起きして、あ〜ぁ、疲れた……』とイオンとマルナカで買い物をして16時20分に自宅に戻り、再び深夜まで眠りにつきました。この日、明け方には空は綺麗に晴れわたっていましたが、午後には曇り空へと変わっていました。

その夜のことです。3月1日23時02分に東京の佐藤英貴氏より、小惑星センターの彗星確認ページ(PCCP)にある天体gb00099の観測が届きます。そこには「3月1日21時16分頃にメイヒル近郊にある25cm望遠鏡でこの天体を観測した。天体には、強く集光した50″のコマがあり、その光度は13.8等だった」という報告があります。さらに氏からは、23時26分に「今月は彗星の当たり月ですが、本日、クリミアの40cm望遠鏡を使用して、わし座を撮影した捜索画像上に発見された天体gb00099も明るい彗星です。恒星が多い星域を動いているので観測しにくいですが、逆に考えると新星ハンターがサーベイしている画像に偶然写っていてもおかしくないと思います。この彗星のモーションは73Pとよく似ていますが、主核と離れすぎていますし、関連はなさそうでしょうか」という連絡もあります。

3月2日00時11分になって、佐藤氏に『また、発見光度(17等)に比べずいぶん明るいですね。今、自宅にいて詳しくは調べられませんが、73PのC核から赤経で−9°、赤緯で+10.5°離れています。ΔT=+11.7日くらいですが、補正しても赤緯の残差が小さくなりません。なお、予報ではE核が2017年3月24.8日くらいに近日点を通りますが、赤経で−3°、赤緯で+10°離れています。これもうまくいきません。初期軌道が計算できるまで待ってみますか』という返答を送っておきました。同時に00時16分にゴンザレスにこの天体の観測を依頼しておきました。

再び、オフィスに戻って来たのは、3月2日03時30分のことです。天候はさらに悪化し、雨が降っていました。佐藤氏が指摘していた「新星のサーベイ領域」が気になります。その明け方、05時08分と05時18分になって、山形の板垣公一氏、掛川の西村栄男氏、水戸の櫻井幸夫氏らに『新星捜索領域での発見です。佐藤氏によると、彗星は13等級(眼視では11等級くらいか)とのことです。写っていませんか。ごくごく概略の予報位置です』という問い合わせを送りました。

その夜が明けた09時26分に板垣氏より「180mmレンズの捜索画像を調べましたが、2月28日と3月1日には写っていません。近くにいるC/2015 ER61は明るく写っています」という報告があります。その夜になった21時11分には、西村氏よりも「ご依頼の件、2月27日と28日に撮影していました。調べましたが、私の画像には写っていないようです。残念です」という報告がありました。『ちょっと暗かったか……』と思いながら、23時35分に佐藤氏に『軌道は次のとおりでした。新星捜索者3名に聞いてみました。板垣・西村さん。報告ありがとうございました。なお、櫻井さんにはメイルが届きません(サーバの記録によると届いているけど、受け取れない)のでわかりません』と佐藤氏までの観測から決定した初期軌道(近日点通過が2017年4月9日、近日点距離が0.91au)をとりあえず送っておきました。

3月4日04時17分になって、上尾の門田健一氏からこの天体の観測が届きます。氏が25cm望遠鏡で3月3日04時44分に行った観測では、彗星には0.8′のコマが見られ、光度は14.7等でした。さらに門田氏から05時38分に届いた報告では、3月4日04時41分の観測では1.0′のコマがあって、14.0等とのことでした。門田氏の観測を07時22分にゴンザレスに送り『Kadotaの観測によると、天体は14等級とのことだ。従って眼視観測は、ちょっと難しいかもしれない』と伝えておきました。その日の夕方19時55分にゴンザレスから「ここ、カンタブリアン山地は新雪が降っている」という連絡があります。

この天体は、新彗星の発見として、3月5日06時28分到着のCBET 4369に公表されます。3月8日09時13分には、ダンより「HICQ 2017の印刷用原稿が到着した」という連絡があります。実はこの2週間ほどは、このハンドブックの計算と編集に忙しい毎日でした。

3月14日00時59分になって、ゴンザレスから「やっと観測できた。3月9日14時、眼視全光度は11.2等で、2.5′のコマが見られた」という報告が届きます。さらに氏は、3月28日に9.2等、4月1日に8.8等、4日に8.5等、7日に7.9等と観測しました。これらの眼視光度は、当時の予報光度より2等級以上明るいものでした。

このように眼視光度で7等級まで明るくなった彗星ですが、以後は太陽に近づき観測が報告されていません。その後のCCD全光度を門田氏が4月13日に12.0等、佐藤氏が4月29日に11.2等と明るく観測しています。佐藤氏によると、彗星には強く集光した3.2′のコマが見られました。しかし彗星はその後も太陽の近くを動いているため、北半球ではその後の観測がありません。しかし佐藤氏は、5月26日にもこの彗星を捉え、CCD全光度を12.7等と観測しました。このとき、彗星には強く集光した2.4′のコマが見られたとのことです。6月下旬以後は観測条件が良くなり、明け方の空、東の低空に観測可能となりました。彗星が明るい光度を保っているか興味がありますが、まだ観測されていません。

なお、下の項目の前にこの間にラブジョイ彗星(2017 E4)などいくつかの取り上げたい項目がありますが、スペースの関係で次号以後に回します。掲載日付が前後することに注意してください。

木星の第VI衛星ヒマリア

4月5日04時48分には、山形の板垣公一氏から「捜索中に見つけた次の移動天体を調べていただけませんか」というメイルが届きます。添付された発見位置は7個で4月5日03時42分から37分間に行われたものでした。『発見後、しばらく追跡したんだ』と思いながら、その位置を見ると、天体は15等級で、おとめ座の中を西に日々運動約7′のゆっくりした速度で移動していました。『こんな明るい天体が発見されていないのか』と思いながら、既知の小惑星が発見位置に来ていないかを調べましたが何もありません。そこで05時05分に『3月のMPC編集時点の軌道からは同一のものはありません。例として示した内容と似たようなヘッダーをつけて、小惑星センターに送ってください』とお願いしました。

すると、その夜が明けた08時17分に板垣氏から「金田さんに調べていただきました。結果は木星の第VI衛星ヒマリアでした。50cmの捜索画像からは木星の存在は全くわかりません。本体からはだいぶ離れているようです。これはびっくりです。良い経験をしました。検出時は動きがないと判断して未確認天体確認ページ(TOCP)に記載するところでした。お騒がせしました」というメイルが届きます。米暦2017を見ると、このときヒマリアは木星から29′ほど離れたところを動いていました。『そうか、近くに木星がいたのか。やっぱり明るい天体は、星図ソフトで大惑星がいないか調べてみないと……』とこの件は一件落着でした。

その夜、4月6日になって、念のために板垣氏の観測の精度を確かめました。ヒマリアには、1894年以来2000個以上の観測が報告されていますが、そのうち2015年以後の観測を使って、軌道を改良してみました。軌道は、近木点通過が2017年1月21日、ω=10.0°、Ω=45.4°、i=29.9°、a=0.0762au、e=0.13、P=0.69年(元期2017年2月16日)となり、板垣氏の観測は残差がほぼ0″となります。そこで、02時03分に『はい。Himaliaですね。試しに2015年以降の観測で軌道改良してみました。板垣さんの観測は、残差0″で良く合っています。久しぶりに衛星の軌道決定のプログラムを動かしました。使い方がよくわかりませんでした。マニュアルを書いておかないと……。なお、この前も櫻井さんが土星の衛星を発見しました』というメイルを返しておきました。その日の朝、札幌の金田宏氏からは「ご無沙汰しております。Jupiter VI(Himalia)の軌道とO-Cを送っていただきまして、ありがとうございました。私は衛星の軌道計算はやったことがないので計算できませんが、残差は本当に良く合っています。櫻井さんも土星の衛星を報告されてきたそうですが、私も以前に小惑星のサーベイをやっていた頃に、木星の衛星を捉まえて発見報告したことがあったように思います。本体からはるかに遠く離れたものも沢山ありますので本当に困ります。MPチェッカーでも、これらの衛星までチェックしてもらえると、本当にありがたいといつも思っています。札幌の積雪もあと11cmとなりました。平年より少し遅いですが、今週中にはなくなりそうです」という久しぶりの連絡が届きます。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。