北極星はセファイド
【2000年10月5日 国立天文台・ニュース(383)】
方位の北を知るための指針としてみなさんおなじみの北極星が、脈動変光星の一種のセファイドであることをご存知でしょうか。 ヒッパルコス衛星による観測や、脈動変光星に関する理論の進歩によって、北極星の状態は詳細にわかってきました。 今回は、そうした北極星の性状の一部をお知らせします。
北極星は実視連星であるだけでなく、分光連星でもあります。 そして光度の振幅が非常に小さい脈動変光星です。 まず連星としての状態から述べましょう
北極星が実視連星であることは1872年にハーシェル(Herschel, W.)が発見しています。 伴星Bは主星APの周りを約5万年の周期で公転していると推定されます。 APとBの現在の角距離は18.2秒、実距離で2400天文単位離れています。 APの実視等級は1.98等、Bは8.59等です。 さらにこの主星はAとPの近接連星で、PはAの周りを29.52年の周期で回っていることが分光スペクトルからわかっています。 Aは1.985等、Pは8.5等で、その間隔は18.8天文単位と計算されています。 ヒッパルコス衛星の観測から、北極星の距離は430光年で、A,P,Bの絶対等級は、それぞれマイナス3.62等、2.9等、2.98等となります。 また太陽質量を単位とすると、それぞれの質量は、6、1.54、1.5となります。
これらの星の中でAだけがセファイドです。 しかし変光の振幅は0.12等と非常に小さく、3.97日の周期で変光を繰り返しています。 ここでもっとも特徴的なことは、北極星が通常と異なる第一高調波の脈動をしていることです。 これにはちょっと説明が必要でしょう。 通常考えられている脈動では、星が膨張するときは中心から表面まで全体が膨張し、収縮するときは全体が収縮します。 このような脈動を基本モードといいます。 ところが、第一高調波による脈動では、表面が膨張するときには内部で収縮が起こり、表面が収縮するときは内部で膨張するといった特殊な形なのです。
セファイドでは、その変光周期と平均絶対等級の間に周期光度関係が成り立つことがわかっていて、距離測定の基準として利用されています。 しかし、基本モードの脈動と第一高調波の脈動とでは、成り立つ関係が違い、同じ絶対等級でも第一高調波による脈動の方が短周期になります。 仮に北極星が基本モードで脈動していたとすると、変光の周期は5.64日になっているはずです。 したがって、周期光度関係を適用するときにはその脈動モードを確認する必要があることがわかります。
参照 | Wielen, R. et al., Astron. Astrophys.360,p.399-410(2000). |
Evans, N.R., Science 289, p.1888-1889(2000). |
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