チャンドラが観測したM82
【2000年12月1日 国立天文台・天文ニュース (397)】
M82 (NGC3034) は「おおぐま座」に位置し、1200万光年の距離にある不規則型銀河です。X線源としてはじめて検出された銀河がこのM82です。星の形成が非常に高い割合で進行しているスターバースト銀河で、赤外線放射量が非常に強い特徴があります。局部銀河群のすぐ外側にあり、この種の銀河でM82はわれわれにもっとも近いものです。
X線源であることから、M82はこれまで、アインシュタイン、ROSAT、ASCAなどのX線観測衛星で繰り返し綿密な観測がおこなわれてきました。しかし、分解能に限度があるため、これらの観測からは詳しい状況がわかりませんでした。昨年から使用可能になったX線観測衛星チャンドラは画期的なCCD分光撮像装置ACIS (Advanced CCD Imaging Spectrometer) を搭載していますから、これでやっと微細構造の観測が可能になりました。
アメリカ、カーネギー・メロン大学のグリフィス(Griffiths, R.E.)たちは、1999年9月20日にチャンドラの4台のACISを使ってM82の観測を実施し、その中心領域のX線源を詳細に調査しました。得られた主要な結果はつぎの通りです。
エネルギーの高い硬X線(2から10KeV)にしても、エネルギーの低い軟X線(0.5から2KeV)にしても、M82の中心領域から放射されるX線には、いくつもの小さい点状のところから放射されるコンパクトな放射と、拡散した部分からの放射に分かれます。コンパクトな放射からは、観測限界フラックスまでに22個の点状X線源が検出されました。その中でもっとも明るいものはすでに存在が知られていて、太陽の400から500倍の質量をもつブラックホールと推定されます。また、少なくとも6個はX線連星と思われます。ほとんどの点状X線源は超新星残骸という説がありましたが、そうではないようです。
拡散した硬X線成分に関しては、大規模な電波放射から生じた相対論的電子の逆コンプトン散乱によって生ずる非熱的なものであろうという推測がありました。しかし、今回の観測からはかなりの鉄の輝線が観測されました。この事実から、X線放射の少なくとも一部分は熱的であることがわかります。硬X線成分が主として熱的起源をもつとするなら、多少の仮定のもとに、その温度は4000万度と計算されます。つまり、M82の中心部分1キロパーセク程度は、約4000万度の高温プラズマで満たされている可能性が大きいのです。過去に、X線放射による風がM82から数10キロパーセクのところまで伸びている状況が観測されています。高温フラズマがこのX線風の駆動力になり、銀河間への物質の噴き出しに主要な役割を果たしているのかもしれません。
参照 Griffiths, R.E. et al., Science 290,p.1325-1328(2000)
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