赤外光による暗黒星雲の観測
【2001年2月13日 国立天文台・天文ニュース (414) (2001.02.08)】
新しい観測法によって、暗黒星雲の状態を明らかにする手がかりが得られつつあります。
恒星は濃密な分子雲から誕生します。これは現在の天文学では常識でしょう。分子雲の主要な構成要素は水素分子ですが、水素分子はすぐに観測できるような信号をほとんど出さないので、観測が困難です。そのため、分子雲の観測は、観測はしやすいけれど量のはるかに少ない分子を利用するか、連続スペクトル観測で熱放射を検出するなどの方法によっています。しかし、これだけでは、その物理構造を知るには十分ではありません。つまり、星が生まれる前の状況はよくわかっていないのです。
星間分子雲「バーナード68」
左=可視光+近赤外、右=可視光+近赤外+赤外
可視光・近赤外画像はVLT、赤外画像はNTTによる撮像
ともに視野角は4.9分角 (1分角=60分の1度) 四方。画像上方が北、画像左方が東。
恒星誕生前の分子雲は、含まれるダストによって不透明になり、向こう側の星を覆い隠して、星野の中に星の見えない暗黒の部分を作り出しています。そのため「暗黒星雲」とも呼ばれています。
ヨーロッパ南天天文台のアルベス (Alves,J.F.) たちは、このような暗黒星雲を調べるのに、赤外光を利用しました。ダストが光を遮る性質は波長によって大きく変わり、赤外波長の光はダストの中を比較的よく通過します。したがって、赤外波長で観測すると、可視光では見えなかった暗黒星雲の向こう側の星が見えてきます。しかしこうして見える星はその星本来の色よりも長い波長で (赤化して) 観測されます。この赤化の程度から、通過してきた暗黒星雲の中のダスト量が推定できるのです。
この考えに基づいて、アルベスたちは、バーナード68と呼ばれて「へびつかい座」にある、比較的太陽に近い (距離125パーセク) 暗黒星雲を観測しました。ヨーロッパ南天天文台の新技術望遠鏡 (NTT) の近赤外カメラを使って、Jバンド (1.25マイクロメートル)、Hバンド (1.65マイクロメートル)、Kバンド (2.16マイクロメートル) により、1999年3月の2晩の観測をおこない、さらに補足のため、セロ・パラナル山のVLTで可視光の像を撮影しました。その結果、暗黒雲を通して3708個の恒星を撮影することに成功しました。そのデータを整約して、バーナード68は、12500天文単位の半径をもち、ほとんど等温 (16K) で、太陽の2.1倍の質量をもつ球状の分子雲であることが確認されました。また、かなり不安定に近い構造で、これが重力崩壊を起こすと、星の誕生に結びつく可能性が大きいとも推測されました。これは、比較的孤立した太陽のような低質量星がこのような暗黒雲から生まれることを示唆するような結果です。赤外波長による暗黒星雲の観測は、今後、分子雲の構造について、より新しい情報をもたらしてくれるに違いありません。
<参照>
- Alves,J.F. et al., Nature 409, p.159-161(2001).
<画像>
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ESO Press Release 01/01
Credit: ESO Education & Public Relations Department
<関連ニュース>
- 2001.01.31 - 暗黒星雲の素顔に迫る