第二の巨大ブラックホールの確証つかむ
【2001年8月9日 国立天文台・天文ニュース (465)】
中井直正(国立天文台・教授)ら(※)は、野辺山45m電波望遠鏡によって渦巻銀河IC2560の中心に太陽の280万倍の質量の巨大ブラックホールの確実な証拠を得たことを発表しました。あわせて、銀河中心核が明るく輝いているのは、ブラックホールの周囲に大量のガスが存在するためであることも観測によって初めて明らかにしました。
1996年に米国のグループがドイツのボン近郊にある直径100メートルの電波望遠鏡を用いて渦巻銀河IC2560の中心に強い水メーザーを発見していました。中井らはこの発見の直後から5年間、長野県野辺山にある国立天文台45m電波望遠鏡によってこの水メーザーの速度の観測を続けていたところ、年間毎秒2.62kmの割合で増加していることがわかりました。また45m鏡による高感度観測から、新たに中心成分よりも毎秒213kmから418kmも高速度の水メーザー電波を発見しました。
この回転速度と加速度の組合わせから、この銀河の中心に半径0.22から0.85光年(銀河全体の約10万分の1の大きさ)、回転速度が毎秒213から418 km(時速約77万〜150万km)の極めてコンパクトな高速回転円盤が存在することがわかりました。回転円盤の半径と回転速度から、中心には太陽の280万倍の質量が存在することがわかり、もしこれが星の集団だとすれば数千万年で衝突等により崩壊してしまうため、星の集団と無いと考えられ、99%以上の確率でブラックホールである確証をつかみました。これは1995年の銀河M106に次ぐ第二番目の巨大ブラックホールの証拠であり、今後さらに確証の例を増やしていくことによって巨大ブラックホールがいつ、どのように、なぜできたかなど現代天文学の謎の解明につながるものと期待される。
銀河IC2560やM106などの銀河の中心部は数百万度から数千万度の高温ガスから出るX線で非常に明るく輝いています。これはブラックホールの質量には無関係に、周囲にあるガスの量に比例してブラックホールの近くまで落ち込んできたガスが高温に熱せられて輝いているためということも観測的に初めて明らかとなりました。
ポンプ座にある我々の銀河系と似た大きさの渦巻銀河で8500万光年の距離にあり、宇宙膨張によって我々から毎秒2876kmで遠ざかっています。
- メーザー:
光の波長域で発振するレーザーと同じ原理のマイクロ波の強い発振電波。宇宙空間ではガスが低密度なため、ある種の分子ガスは天然にメーザー増幅現象を起こしており、特に水分子(H2O)の22ギガヘルツ電波は強いメーザー増幅を起こすことが知られています。
宇宙には(少なくとも)2種類のブラックホールが存在すると考えられています。1つは太陽の30倍から40倍以上の大質量星が超新星爆発を起こして大部分が飛散した後に残る太陽の10倍程度の質量のブラックホールです。もうひとつは、電波銀河やクェーサーなどの活動的な銀河の中心核にあってジェットなどの活動性のエネルギー源となっていると考えられているブラックホールがあります。後者の質量は太陽の数百万倍から数億倍と推定されていて、ハッブル宇宙望遠鏡などにより、巨大ブラックホール候補天体は20個程度知られています。ただ、明確な証拠(以下のM106が唯一の証拠)は最近まで見つかっていませんでした。銀河中心の巨大ブラックホールがいつ、どのようにしてできたかは現代天文学の最大の謎のひとつです。
1995年に国立天文台の三好、中井、井上は、野辺山の45m電波望遠鏡により、今回と同じ水メーザーの観測と米国のグループと共同のVLBI観測で、2300万光年の距離にある渦巻銀河M106(別名NGC4258)の中心に太陽の3900万倍の質量の巨大ブラックホールを発見した。これが銀河中心核の巨大ブラックホールの存在の最初の確証であった。今回のIC2560の中心に見つかったブラックホールの質量はこれの10分の1程度であるが、いろいろな質量のブラックホールを見つけ、銀河の構造等と比較することが巨大ブラックホールの誕生と進化を解明する上で重要である。
銀河中心にある巨大ブラックホールに向かって周囲のガスが回転しながら落下してブラックホール周囲で高密度となりガス同士の摩擦で数百万度から数千万度の高温高圧ガスとなって、強い輻射やジェットのような活動性を起こすと考えられている。その落下してくるガスの量がブラックホールの質量の大きさによるのか周囲のガスの量によるのかはわかっていなかったが、今回の研究で後者であることが判明した。
(※) | 中井直正(国立天文台・教授)、伊予本直子(宇宙科学研究所・研究員)、牧島一夫(東大理・教授)、石原裕子(元:東大理・大学院生) |
<参照>
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