M87銀河核のエネルギー源は何か

【2001年11月29日 国立天文台天文ニュース (499)

銀河M87はその銀河核に巨大なブラックホールがあり、そこからガスやダストのジェットが数1000光年もの長さで噴出しています。しかし、そこにエネルギーを供給するべきダストの円盤がM87には存在していないことが観測されました。それでは、M87の銀河核は、どこからエネルギーを得ているのでしょうか。

(M87 と中心部のジェットの写真)

M87 とその中心部に見られるジェット。クリックで拡大(写真提供:国立天文台 天文情報公開センター・広報普及室)

M87は「おとめ座」にある大きな楕円銀河で、地球からおよそ5000万光年の距離にあります。比較的近距離にある銀河ですから、見かけの大きさは角度で7分くらいあり、かなり詳しく観測、研究がおこなわれています。

M87の中心にあるブラックホールは太陽系程度の大きさと推定され、そこに太陽の30億倍もの質量が詰まって、明るく輝いています。光さえ出ることができないブラックホールが明るく輝いているというのは矛盾のようですが、ブラックホール自体が輝くのではなく、周囲のガスやダストなどがブラックホールに落ち込んでいくときに、光などの大きなエネルギーを放出しているのです。銀河中心にあってこのように高いエネルギーを活発に出しているブラックホールなどを、一般に活動銀河核といいます。そして、活動銀河核の周辺には、そこにエネルギーを供給するガスやダストの円盤が存在するというのが、これまでの標準的な考え方でした。

メリーランド大学のパールマン(Perlman,E)たちは、2001年5月7日および10日に、ハワイの口径8メートル、ジェミニ北望遠鏡にフロリダ大学の高性能赤外スペクトルカメラOSCIR(Observatory Spectrometer and Camera for Infrared)を装着して、合計7時間にわたりM87の観測をおこないました。そして、波長10.8マイクロメートルで、地上望遠鏡としてはこれまでにない分解能で、M87の像を得ることに成功しました。しかし、そこにブラックホールを取り巻くダストの円盤は見えませんでした。ここから考えると、円盤が存在するにしても非常にかすかなものに違いありません。「ケンタウルスA」や「はくちょうA」などの活動銀河核に比べて、1000分の1程度にすぎないとパールマンは述べています。

M87のようにダストの円盤が存在しない銀河の中心核では、どのようにエネルギーを作り出しているのでしょうか、これまでの活動銀河核のモデルには再考の余地があるように思われます。

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