すばる望遠鏡、AOによる初の分光観測
【2002 年 1 月 24 日 国立天文台・天文ニュース (516)】
国立天文台は、ハワイ大学天文学研究所との共同研究で、波面補償光学装置(Adaptive Optics; AO)と近赤外分光撮像装置(Infrared Camera and Spectrograph; IRCS)を使って、すばる望遠鏡により低質量連星系HD130948BおよびCの分光観測をおこない、両星がともに褐色わい星の近接連星系であることを突き止めました。
天体望遠鏡による天体観測では、大気のゆらぎによる像の乱れが分解能に大きく影響します。すばる望遠鏡の理論的な分解能は可視光で0.02秒に達しますが、現実には大気のゆらぎのため平均0.6秒にしかなりません。AOは大気のゆらぎによって時々刻々に変化する光の波面の乱れを測定し、特殊な鏡で補正してその乱れを打ち消す装置です。したがって、AOを使用することで、非常に高い分解能を得ることができます。
一方、観測した恒星HD130948は「うしかい座」にある5.9等星で、地球から58光年離れたところにある星です。A、B、Cの3個の星から成り、Aがもっとも明るく、BとCは非常に接近した暗い星です。見かけの角度でAから2.6秒離れたところにBとCがあり、BとCはわずかに0.13秒しか離れていません。そのため、通常の観測でBとCを分離することは不可能です。この2星を分離して連星であることを確認するためには、どうしてもAOを使うことが必要になります。
2001年5月、国立天文台、ハワイ天文学研究所は、AOとIRCSによりHD130948、BとCの観測を実施しました。その結果BとCははっきり分離されて連星であることが確認され、さらに分光観測からは水蒸気の吸収が認められました。水が存在することは、その温度は水分子が分解する温度より低いことを意味し、BとCの温度はセ氏1500度から1700度くらいと推定されます。これはどちらの星も、恒星として継続的に光り続けるには質量が不足している「褐色わい星」であることを示します。この例のように接近した褐色わい星の連星はこれまでに数例しか知られていませんし、その分光観測がおこなわれたのは、ケック望遠鏡によるものに続いて今回が2例目です。低質量星の進化を調べその性質を明らかにするためには、このような褐色わい星の近接連星系の分光観測は欠かすことのできないもので、そのためにもAOやIRCSの重要性は計り知れないものがあります。
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