宇宙背景放射は予想以上に銀河団の影響を受けているかもしれない

【2004年2月9日 RAS Press Notice

イギリス・ダラム大学研究チームの発表によれば、ビッグバンのなごりである宇宙背景放射が地球に届くまでの約130億光年の間に銀河団などから受ける影響は、従来考えられていたよりもずっと大きいかもしれないということだ。

(全天の温度の揺らぎを示した、COBEとWMAPによる観測結果の図)

全天の温度の揺らぎを示した観測結果(上:COBE、下:WMAP)。青は2.73度より低温の部分、赤は高温の部分を表している(提供:NASA/WMAP Science Team)

(スニヤエフ・ゼルドビッチ効果がWMAPのデータにどのように影響するかのイメージ図)

スニヤエフ・ゼルドビッチ効果の説明。背景放射が銀河団の影響を受け、低温で観測される(提供:RAS/Myers et al.)

NASAのマイクロ波観測衛星WMAPの観測データでは、宇宙背景放射の温度にむらが見られる。これは、温度が平均より低い領域には近傍の銀河団が存在しており、その銀河団とビッグバンで放射された光子との相互作用のために背景放射の情報が複雑化された形でわれわれに届いているためだと考えられている。このような効果は、宇宙背景放射の発見から間もない70年代にロシアの科学者スニヤエフとゼルドビッチによって予測されていたものだ。

スニヤエフ・ゼルドビッチ効果は、これまでにも銀河数の多い銀河団やWMAPのデータのうち銀河団の中心付近に対応する領域では捉えられていた。ダラム大学のチームは、銀河団の中にある熱いガスの影響に注目して研究を進め、銀河団の中心から離れたところでも背景放射がそのようなガスの影響を受けている可能性があることを指摘したのである。つまり、従来考えられていたよりも、背景放射がわれわれに届く間にかなりの変化を起こしてしまうということだ。

数十億光年離れた位置にある銀河団も同様に影響を及ぼすとなれば、現在のWMAPによる宇宙背景放射についての解釈に大きな訂正が必要となる。宇宙の歴史の中で中間地点付近にあたる時期の影響はすでに知られていたが、その影響を宇宙誕生から間もないころにまでさかのぼって考える必要が発生するかもしれないということだ。また、宇宙論の分野にとっても、ダークマターやダークエネルギーについて知る上でも、その影響はかなりのものだ。最悪の場合、ダークマターやダークエネルギーの存在証拠さえも危うくなり、楽観的に見た場合でも、宇宙背景放射の考え方をだいぶ複雑化しなければならなくなる。

WMAPとダラムのチームの研究結果が示すものは、今まで考えられていた以上に、宇宙背景放射が地球に届くまでの間に、さまざまな障害物の影響を受けているということだ。現在われわれは、宇宙に関してかなり正確な情報を手にしていると信じているわけだが、今後の研究結果次第では、その知識の未熟さを思い知らされる日が来るのかもしれない。

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