チャンドラX線観測衛星が捉えた、かに星雲のX線を利用したタイタンの影

【2004年4月8日 Chandra Photo Album

NASAのチャンドラX線観測衛星によって、土星最大の衛星タイタンが、まぶしくX線を放つかに星雲を横切るというめずらしい現象が捉えられた。この観測からタイタンの大気に関する情報も得られたが、その結果次第では、今年7月に土星に到着を予定している土星探査機カッシーニの経路を変更する可能性もあり得るという。

((左下)タイタンの影の画像、(右)かに星雲中心部のリング構造とパルサーの画像。黄色い横線がタイタンの通過経路)

(左下)タイタンの影、(右)かに星雲中心部のリング構造。黄色い横線がタイタンの通過経路。クリックで拡大(提供:NASA/CXC/Penn State/K. Mori et al.)

(チャンドラX線衛星による観測の概念図)

観測のようすの説明。かに星雲からのX線を観測し、タイタンの部分が影となって捉えられた(提供:CXC/M.Weiss)

かに星雲は、おうし座にある超新星残骸で、1054年に超新星爆発を起こした名残だ。土星や衛星タイタンとかに星雲は30年に一度の割合で接近するが、直接横切るのはひじょうにめずらしい現象で、おそらくかに星雲の誕生以来初めてのことだろうと考えられている。2003年1月5日に観測されたこの現象が次に起こるのは、2267年だ。

このめずらしい現象を利用して、チャンドラX線観測衛星がタイタンの大気をX線で観測した。いわば、かに星雲の放つX線によるタイタンのレントゲン撮影といったところだ。星雲の放つX線を遮ってできたタイタンの影の大きさは、タイタンの地表の大きさよりも880kmほど大きかった。つまり、この部分がタイタンの大気の厚みに相当することになる。

今回の観測では、1980年の惑星探査機ボイジャー1号による大気の観測に比べ、大気が10%から15%程度広がっていることがわかった。原因の1つは、1980年から2003年の間で土星が太陽に5%ほど接近したことに伴ってタイタンの大気が加熱された影響だと考えられている。実際に大気が以前に比べ広がっている場合、今年7月に土星に到着を予定している土星探査機カッシーニの経路の変更もあり得るということだ。