すばる望遠鏡が捉えた、年老いた星の塵に包まれた安らかな終末
【2004年12月17日 国立天文台 アストロ・トピックス(68)】
アマチュアの天文ファンにも人気のある天体に、惑星状星雲というものがあります。ガスからなる星雲の一種で、天体望遠鏡で眺めると見かけが惑星に似ていたために、このように呼ばれていますが、太陽系の惑星とは何の関係もありません。太陽程度の質量の恒星が、その進化の最後の段階で、周囲に放出したガスや塵が光ってみえるものです。こと座の「環状星雲(M57)」、こぎつね座の「亜鈴(あれい)星雲(M27)」などが有名です。
そんな惑星状星雲のひとつ、はくちょう座にあるBD +30 3639を、すばる望遠鏡のコロナグラフ撮像装置が近赤外線でとらえた画像を公開しました。約5000光年の距離にある惑星状星雲で、中心星の表面温度は4万2000度ほどもあり、太陽の約5万倍の明るさで輝いています。
太陽のように質量の小さな星は、進化の終末期にガスや塵を宇宙空間に放出するようになり、星の周りに「殻(かく)」ができるようになります。BD +30 3639では、星の外層にある太陽質量の4分の1ほどの物質が900年前に急激に放出され、今では太陽系の100倍ほどの大きさにまで広がっています。これが中心星に照らされて浮き輪のような形をした惑星状星雲として見えています。可視光では中心星からの光が塵(ちり)によって散乱されたものを見ることになりますが、赤外線で観測すると、この散乱光に加えて、放出された塵からの放射を直接捉えることができます。
すばる望遠鏡に取り付けられたコロナグラフ撮像装置(CIAO; Coronagraphic Imager with Adaptive Optics)は、中心部分の明るい天体の光を隠し、その周囲の微かな天体を浮かび上がらせる装置ですが、その機能は今回は使わず、むしろ地球大気の揺らぎによって乱れる映像を補正する特殊な光学系(補償光学)を利用して、その塵の分布のようすを極めてシャープに捉えることができました。
星の周りに物質を放出する現象は、星の進化に普遍的に見られる重要な現象で、放出されたガスや塵の広がり、形状、質量などが、様々な進化段階にある天体に対して調べられてきました。しかし、どのようなメカニズムによって浮き輪のような形が作り出されるのか、未だに理解されておりません。これらの観測の積み重ねによって、星の進化の最期のようすが次第に詳しくわかってくることでしょう。