環状星雲を包む微かなハロー〜すばる望遠鏡9月の画像(1)〜
【1999年9月17日 国立天文台・国立天文台ハワイ観測所】
9月17日すばる望遠鏡の完成記念式典に合わせて、すばる望遠鏡9月の画像が一挙に3枚公開された。最初の画像はおなじみの環状星雲M57の画像であるが、その周囲にこんな微細構造が隠されていることに驚かされる一枚である。
赤外線で見た深宇宙〜すばる望遠鏡・9月の画像(2)〜、 92億光年離れた電波銀河の姿〜すばる望遠鏡・9月の画像(3)〜も合わせてご覧いただきたい。
環状星雲を包む微かなハロー〔環状星雲(M57; NGC 6720)〕
天 体 名: 環状星雲(M57; NGC 6720)
使 用 望 遠 鏡: すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、カセグレン焦点使用
観 測 装 置: Suprime-Cam (可視光広視野カメラ)
フ ィ ル タ ー: Hαバンド(0.65μm)、Bバンド(0.45μm)、Vバンド(0.55μm)
カ ラ ー 合 成: 青 (Bバンド)、緑 (Vバンド)、赤 (Hαバンド)
観 測 日 時: 世界時1999年 5月14日、23日、6月15日
露 出 時 間: 25分(Hαバンド)、6分(Vバンド)、40分(Bバンド)
視 野: 3分角×4分角(左図)
画 像 の 向 き: 北が上、東が左
位 置: 赤経(J2000.0)=18時53分36秒、赤緯(J2000.0)=+33度02分00秒 (こと座)
こと座にある惑星状星雲 M57(NGC 6720)は、地球から約 1600 光年の距離にあり、その形から環状星雲(リングネビュラ)と呼ばれている。惑星状星雲とは、望遠鏡で見るとコンパクトながら大きさや模様を持ち、一見惑星のように見えることからそのように呼ばれている星雲である。しかし実際は、星が死ぬ間際の姿である。
この環状星雲は、中心星の周りにドーナツのようなリング(環)を持つ惑星状星雲である。今までの観測から、くっきりとしたリングの周りには微かな光を放射するハローと呼ばれる構造があることがわかっていた。しかしハローは極めて淡く観測が困難であるため、その詳しい構造はわかっていなかった。
すばる望遠鏡に取り付けた可視光広視野カメラ Suprime-Cam による観測では、高い分解能と大きな集光力により、環状星雲のリングや、特にハローの微細構造をこれまでになくはっきりと写し出すことに成功した。このようなデータから環状星雲の構造だけでなく、赤色巨星からの周期的なガス放出の様子が解明されると期待されている。
<惑星状星雲>
星はその質量により、進化の最終段階における振る舞いが決まる。太陽の質量の約 0.8倍から8倍くらいの星は、中心の水素を燃やしつくすと外層が膨張し、巨大な赤色巨星へと進化する。そして膨らんだ外層のガスの多くの部分は、周囲に流出し拡がってゆく。外層がごくわずかになると星本体は収縮を始め、高密度の白色わい星へと進化していく。さらに収縮により表面温度が数万度以上になると、星はエネルギーの高い紫外線を放射し始める。惑星状星雲は、この中心星の紫外線により、赤色巨星の時代に放出され周りへ拡がってゆくガスの雲が熱せられ、電離して光っている状態である。その形は、いろいろな段階で中心星から放出されたガスの分布、中心の白色わい星からの紫外線強度、星雲を見る方向など様々な要因により決まる。惑星状星雲が一つ一つが極めて多様で美しい形を示すのは、そのためである。
【左図】
この図はHα(水素原子が放出する赤い光、中心波長は6563 オングストローム)の輝線を観測した画像に、疑似カラー処理を行ったものである。
この図から中央に明るく輝くリングは一様ではなく、複雑かつ微細な構造を持つことがわかる。 リングの大きさ(長径)は約0.7光年であり、中に見える2つの星のうち、中心に位置する星が環状星雲を光らせている白色わい星(中心星)である。 リングの外側にあるハローは、今回初めて明瞭にとらえられた。バラの花びらのような多数のループ構造を持つ内側ハローと、その外側に広がる淡い外側ハローからなることがわかる。リングと内側ハローはやや細長い楕円だが、外側のハローはほぼ円形である。ハローの大きさは内側ハローの長径が約1.2 光年、外側ハローの直径が約1.8光年である。内側ハローの中には、さらに小さいループや太く濃いフィラメントと呼ばれる構造がはっきりと見える。またガスが冷えて凝縮して行く過程と考えられている多数の小さな固まり(ノット)が、内側・外側ハローの中に存在しているのがわかる。このような2つのハローを構成するガスが放出された時期は、まだはっきりとわかっていない。
従来、環状星雲は球殻から成ると考えられていた。しかしこのような多重のハローの存在から、より複雑な構造を持つことが示された。
【右図】
この図では、3つのフィルターで観測した画像を実際に見える色に近い配色に合成した。ハローは淡くなっているが、リングの微細な構造がよりはっきりと見えるように処理をしてある(最大エントロピー法)。左図では見えなかった細かいフィラメントやシミのような構造があることがわかる。
※μm(マイクロメートル)、1μm=1,000,000(百万)分の1メートル(m) 1オングストローム=10,000,000,000(百億)分の1メートル(m)
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