92億光年離れた電波銀河の姿〜すばる望遠鏡9月の画像(3)〜
【1999年9月17日 国立天文台・国立天文台ハワイ観測所】
9月17日すばる望遠鏡の完成記念式典に合わせて、すばる望遠鏡9月の画像が一挙に3枚公開された。3枚目の画像はすばるの赤外線観測が威力を発揮する、宇宙深部の活動銀河核を捉えた画像である。
環状星雲を包む微かなハロー〜すばる望遠鏡・9月の画像(1)〜、 赤外線で見た深宇宙〜すばる望遠鏡・9月の画像(2)〜 も合わせてご覧いただきたい。
「92億光年離れた電波銀河の姿」
天 体 名: 電波銀河 B3 0731+438
使 用 望 遠 鏡: すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、カセグレン焦点使用
観 測 装 置: CISCO (近赤外線カメラ)
フ ィ ル タ ー: N225 (赤)、K' (青)
カ ラ ー 合 成: 青 (K')、緑 (K'+N225) 、赤 (N225)
観 測 日 時: 世界時1999年2月28日
露 出 時 間: 48分(N225)、32分(K')
視 野: 8.4秒角×12.1秒角 (右図)
画 像 の 向 き: 北が上、東が左
位 置: 赤経(J2000.0)=7時35分22秒 赤緯(J2000.0)=+43度44分 (やまねこ座)
電波銀河とは特に強力な電波を発している銀河のことをいい、その中心には活動銀河核と呼ばれる特異な天体があると考えられている。この活動銀河核は太陽より100万倍以上も重い超巨大ブラックホールであり、そこに周囲のガスなどの物質が落ち込むことにより莫大な重力エネルギーを解放して輝いているとされている。しかし周囲を囲むガスや塵の雲のために、活動銀河核を直接見ることはできない。
地球から92億光年離れた電波銀河 B3 0731+438 の活動銀河核は、相対する2方向にジェットと呼ばれるガスなどの物質を毎秒数千キロメートルもの猛スピードで吹き出しており、その方向にだけ周りを覆うガスや塵の雲に穴が開いている。すばる望遠鏡に取り付けた近赤外線カメラ CISCO による今回の観測では、この穴からもれ出る活動銀河核の強力な紫外線により周囲の水素のガスが励起されて輝いている様子を初めて鮮明に捉えることに成功した。その姿は、2本の腕がそれぞれ2方向に伸びたような特異な形をしていていることがわかる。これは電波銀河を取り囲む水素のガス中をジェットが突き抜けた際、ガスが押しやられて円錐形に空洞ができているためと考えられる。
今後、中心にある活動銀河核の性質や電波銀河の生成のメカニズムを明らかにしていく上で、重要な手がかりとなると期待されている。
補足:
このような遠方の天体は、宇宙膨張により地球から高速に遠ざかっている。そのため光のドップラー効果により、本来6563オングストロームの水素輝線は、92億光年遠方のこの天体から地球に届く時には22500オングストローム(2.25μm)の波長までのびた赤外線として観測される。今回の観測では、2.25μmの狭帯域フィルターにより水素輝線で光っているガスを写し、2.13μmの広帯域フィルターにより連続光の像を写した。これらの画像を合成することにより、白い点状に見えている周囲の銀河や星に対し、電波銀河の水素のガスがオレンジ色に浮き上がった。
※μm=マイクロメートル=1000000分の1メートル(m)
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