「すざく」搭載観測機器、ケンタウルス座の巨大ブラックホールの観測に成功
【2005年8月29日 JAXA 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース】
3つの観測機器のうち、X線微小熱量計の不具合が報じられたX線天文衛星「すざく」は、8月12日から13日にかけてX線CCDカメラによる観測の開始に成功した。そして今回、3つ目の観測機器である硬X線検出器 (HXD:Hard X-ray Detector)を用いて、巨大ブラックホールが潜んでいると考えられている楕円銀河「ケンタウルスA」の観測に成功した。観測機器を一つ失ったものの、この成功によって「すざく」は世界一広い範囲の波長(エネルギー)でX線を観測できる天文衛星となった。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2005年7月10日12時30分(日本標準時)に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げた第23号科学衛星「すざく」(ASTRO-EII)は、X線CCDカメラによる観測開始に引き続き、3つ目の観測機器である硬X線検出器(HXD:Hard X-ray Detector)の立ち上げを無事に行った。8月19日には、地球から1500万光年離れた楕円銀河「ケンタウルスA」(右図上)から信号を検出することに成功した。これによりHXDは、期待通りの性能をもつことが確認された。
ケンタウルスAの中心には、太陽の数千万倍の質量を持つ巨大ブラックホールが潜んでいると考えられ、そこにガスが吸い込まれる際に、光、X線、ガンマ線などが強く放射されると考えられている。右図下は、今回HXDにより検出された放射スペクトルを、先に観測を開始したX線CCDカメラのデータと合わせて示したものだ。HXDが検知したのは、星間ガスを透過して来た、ブラックホールに落ち込むガスの発する硬X線やガンマ線(注)だが、このエネルギー領域としては感度が非常に優れている。また、高いエネルギーの放射ほどブラックホールの近くで発生するので、HXDでの広いエネルギー範囲のデータを用いることで、ガスがブラックホールに吸い込まれてゆく様子が、従来にない精度で明らかになると期待されている。
HXDは、JAXA、東京大学、広島大学、埼玉大学、金沢大学、理化学研究所、青山学院大学、大阪大学、スタンフォード大学などが、15年の歳月を費やして作り上げた、独創的な国産の観測装置であり、硬X線からガンマ線にかけての広いエネルギー域において、日本で初めて、衛星を用いた本格的な観測を可能にするものだ。
今回の観測成功により「すざく」は、低エネルギー域を受け持つX線CCDカメラと、高エネルギー域を受け持つHXDという2組の装置を擁し、非常に広いエネルギー範囲で観測を行える世界で唯一の高エネルギー天文衛星として姿を整えた。今後は全世界の研究者から観測提案を受けつけ、ブラックホールへの物質流入、超新星爆発における元素合成、宇宙線の起源など、多くの謎を探るための観測を進めて行く。
(注) X線のうち、10ないし100キロ電子ボルト程度の高いエネルギーをもつものを、硬X線とよぶ。さらに高いエネルギーを持つ光の仲間は、ガンマ線と呼ばれ、物質に対しX線よりさらに大きな透過力をもつ。宇宙からの硬X線やガンマ線は、ブラックホール近傍など超高温の場所、巨大な天然の加速器で加速された電子、超新星爆発で作られた不安定な原子核などから発生する。