解明!月の古いクレーターの起源
〜 小惑星のサイズ分布から探る古いクレーターの歴史 〜
【2005年9月17日 国立天文台 アストロ・トピックス(141)】
米国アリゾナ大学と国立天文台の研究チームは、月や地球型惑星の表面にある約40億年前の古いクレーターを作った落下天体群と現在のメインベルト小惑星のサイズ頻度分布が極めて良く一致していることを明らかにしました。
今から約40億年前という時期には、地球型惑星上に集中的な天体の落下が数千万年から数億年にわたり継続していたとされる時期であり、特に「後期重爆撃期」と呼ばれています。後期重爆撃期を発生させた要因、及びその時期に大量に落下して来た天体が小惑星だったのか彗星だったのかあるいは他の天体だったのか、などについては従来から様々な説が乱れ飛び、明確な結論は得られていませんでした。
今回の研究結果は後期重爆撃期の原因となった天体が彗星ではなく小惑星だったことを強く示すものです。この結果を導くことができた要因としては、すばる望遠鏡の観測成果として微小な小惑星のサイズ分布が明らかにされてきたこと、そしてコンピューターによる小惑星の衝突速度の精密な計算が可能になってきたことが挙げられます。今回の研究結果は更に、後期重爆撃を発生させた力学的な機構、そして地球型惑星と小惑星の衝突史に関して幾つもの重要な示唆を与えてくれるものとなりました。
この研究が進行する過程では、観測と理論(数値計算)の両側面に於いて国立天文台の研究資産が大いに活用されました。まず基礎データの一種であるメインベルト小惑星のサイズ分布、特にその最微小スケール部に関しては、ハワイ観測所研究員吉田二美(よしだふみ)さんが主導した、すばる望遠鏡を用いたサーベイ観測によるデータが用いられました。また、クレーターのサイズ分布を衝突体のサイズ分布に変換するには衝突速度分布が必須ですが、これを求めるには小惑星の精密な軌道積分が必要です。こちらは天文学データ解析計算センター主任研究員の伊藤孝士(いとうたかし)さんが天文学データ解析計算センターの機器を用いて実行しました。
この研究成果は科学雑誌「Science」の2005年9月16日号に掲載されています。
小惑星 :小惑星は、おもに火星と木星との間に軌道を持つ小さな天体で、もっとも大きいセレスでも直径約1000kmと、地球の衛星である月の3分の1以下である。軌道の判明している小惑星は10万個以上もあるが、そのほとんどは直径数kmから数十km程度で、直径250kmを超えるものは十数個ほどである。特異な軌道を持つ「特異小惑星」なども地球接近のたびに話題を集めている。また、隕石の起源と考えられている。(最新デジタル宇宙大百科より抜粋)