土星探査機カッシーニ最新情報:優美な衛星、競走する衛星、そしてタイタンの天気予報
【2005年10月29日 NASA Cassini Features(1) / NASA Cassini Features(2)】 / JPL News Features(3)
すまし顔でポーズをとっているようなディオネ。土星のリングの中で「競走」するプロメテウスとパンドラ。タイタンでは、独特の気象メカニズムが明らかになってきた。今回カッシーニから送られてきた衛星の姿も、多種多様だ。
1)優美な姿を見せる氷衛星・ディオネ
金色の土星を背景にすると、青白い衛星ディオネの姿は際だって見える。まるでカメラマンを意識してポーズをとっているかのようだ。すぐ近くから見てもディオネの表面は変化に富んでいて美しい。「カメラマン」は言うまでもなくカッシーニで、ディオネにおよそ500キロメートルまで接近した。その際に撮影した動画もリリース元で公開されている。
時間が止まったかのように感じられるほど美しいディオネの姿だが、そこから得られる情報も多い。
他の土星の衛星同様、ディオネの表面にはクレーターが多い。その一方で、ディオネの片方の面には、南北方向に走る割れ目のような地形がある。この地形が作られたのは比較的新しく、地殻変動によるものだと見られる。ところで、こうした特徴は同じく土星の衛星であるエンケラドスにも見られる。両者を比較すると、大きさも一回り大きいディオネの方がひび割れができたのは古いようだ。さしずめディオネはエンケラドスの「お兄さん」と言ったところか。
ところで、エンケラドスといえば今でも表面で活動が起きていて、大気が存在していることが明らかになっている。土星のEリングの物質供給源として有力であるともいわれている。ディオネに大気が存在する証拠は見つかっておらず、Eリングとの関係もまだよくわかっていないが、この美しい衛星の今までの物語を解明するためにさらなる観測が待たれる。
2)直径100キロメートルの岩石のデッドヒート、トラックは土星のリング!
次は大きな岩石のかたまりが繰り広げるレースの模様だ。「トラック」は土星のリングで、先行しているのは外側のレーンを走る直径84キロメートルのパンドラ(右)、それを追うのが内側レーンの直径102キロメートルのプロメテウス(左)。もちろん、二つとも土星の衛星で、軌道はリングの中にある。
勝負の結果は重力の法則を考えれば予想できてしまう。9つの惑星は太陽に近いほど公転が速いのと同じように(解説参照)、内側の衛星ほど土星の周りを速く回るのである。
この画像は、土星から1800万キロメートルの距離でカッシーニが撮影した。リングの面から、わずか3分の1度下から撮影しているため、リングは細い線のように見えている。
3)地球に似ている?似ていない?タイタンのお天気
「南緯40度付近では液体天然ガスの雨が降るでしょう。南極方面へお出かけの方はメタンの雨を降らせる大嵐にご注意ください。それ以外の地方では、ほとんど雲はでません」
アリゾナ大学の研究者によれば、タイタンの天気予報はこのようになるらしい。しかも、この予報は毎日変わることがない。従ってタイタンで明日の天気がどうなるかはあまり悩む必要がないが、どうしてこんな気候になるのかは科学者の悩みの種だ。地球でいえば、極地方を除くと、ニュージーランドやアルゼンチンといった(普通は気候の穏やかな)地方にしか雲がない状態だ。とりわけ、経度0度と90度、地球で言えば南アフリカの南西と南東に雲が集中する傾向があるようだ。近赤外線で撮影された画像にも、その様子が写っている。
アリゾナ大学の研究者は、南緯40度付近で雲が発生する要因として、地球と同じような対流によって大気が持ち上げられるメカニズムを提唱している。一方、特定の経度に雲が集中する理由はまだわかってない。
この説をとれば、ある意味ではタイタンの天気は地球に似ている。しかし、この衛星で気象予報士が伝える予想気温はマイナス170度なので、やはり同じ世界とはとても言いがたい。
土星の衛星: 土星の衛星は現在47個以上見つかっています。探査機の観測が進むと、この数はもっと増えることでしょう。土星の衛星は姿がさまざまです。また、木星ではガリレオ衛星以外はどれも小惑星サイズなのにくらべ、土星の衛星は大きさも多様です。
内側の惑星ほど公転の周期が速い理由:太陽と惑星の間には、重力と遠心力がはたらいていて、惑星が太陽に引っぱられる重力と、公転による遠心力がつり合っています。このとき、内側の惑星ほど太陽から受ける重力がつよくなります。重力と遠心力がつり合うためには、より速く回転して強い遠心力をそれで内側の惑星ほど公転周期が速くなっているのです。
(以上二項目は「太陽系ビジュアルブック」より抜粋)