崩れた核のなれの果て:赤外線で見たシュワスマン・ワハマン彗星

【2006年5月12日 NASA Mission News

5月12日に地球に最接近し、分裂・崩壊する核が話題となっているシュワスマン・ワハマン彗星をNASAの赤外線天文衛星スピッツァーが撮影した。赤外線の目は、彗星が放出するチリを見るのに最適だ。近年、彗星の組成について見直す議論が多いが、めったにうかがい知ることのできないその中身を、シュワスマン・ワハマン彗星は自ら分裂しながらわれわれに示してくれていると言える。


シュワスマン・ワハマン彗星の分裂核とダストトレイル

シュワスマン・ワハマン彗星の分裂核とダストトレイル。スピッツァーのMIPSで撮影。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/W. Reach (SSC/Caltech))

シュワスマン・ワハマン彗星の核が最初に分裂したのは、1995年のことだった。それ以来、彗星は崩壊の一途をたどっていて、消滅へと向かっている。では、かつて彗星を構成していた物質はどこへ行ってしまうのだろうか? かつて氷であった水などの成分は蒸発し、太陽風に押し流されてしまう。一方で、それよりも重いチリの粒は、彗星が通った軌道上に残る。こうして、ダストトレイルと呼ばれるチリの帯ができるのだ。

右の画像はスピッツァーが5月4日から6日にかけて撮影したもので、(5月10日現在知られている)58個の核のうち少なくとも36個が写っている。その核が、まるでレールのように乗っかっているのが、1995年以降に残されたダストトレイルだ。この1枚に、崩壊を始めてから現在に至るまでの歴史が濃縮されていると言っても過言ではない。撮影に使われたのは、波長24マイクロメートルの赤外線だ。太陽光に暖められたチリ、特に数ミリメートルサイズのものは赤外線で強く輝くので観測に適しており、他の波長でダストトレイルを見るのは困難である。

画像を見れば、今もシュワスマン・ワハマン彗星の核から物質が吹き出している様子がわかる。科学者が注目するのは、その中に含まれるチリの量だ。元々の彗星の質量と比べることで、彗星を構成する氷とチリの割合が求められる。実は、従来「汚れた雪だるま」という一般にも広く伝わった言葉で表現されていた彗星の正体は、むしろ「凍った泥だんご」に近いのではないか、とする見方がここ数年主流になりつつある。シュワスマン・ワハマン彗星の分裂と崩壊は、それを確かめる絶好の機会なのだ。思えば、昨年話題になった「ディープインパクト計画」も人工物を激突させることで彗星の組成を調べるのが目的だったが、それから1年足らずで彗星が自ら、しかもわれわれのすぐ近くまで来て、似たようなことをやってくれるとは!

「われわれのすぐ近く」としたのは、シュワスマン・ワハマン彗星は、今回地球に迫ったときの距離がこれまでの彗星と比べてもひじょうに近いからだ。と言っても、一番近いときでおよそ1200万キロメートル(地球−月間の約30倍)。もちろん、分裂した核が地球に衝突するなどということは決して起きえない。

ところで、彗星のダストトレイルと言えば「流星群」を引き起こすことでも有名だ。シュワスマン・ワハマン彗星のダストトレイルも、5月下旬にピークを迎える「うしかい座α流星群」をもたらしていると考えられている。これほどまでにチリが残されているなら、2001年のしし座流星群のような流星雨が…と期待したいところだが、残念ながら今年はダストトレイルをかすめるだけで、流星の数はごくわずかとなる見込みだ。しかし、2022年にはこのダストトレイルのすぐ近くを地球が横切るので、楽しみはそれまでとっておくことにしよう。