とてもマイペースな中性子星
【2006年7月11日 ESA News】
初めて中性子星が見つかったときは、放出している電磁波の変動周期がひじょうに短いことで驚きをもたらしたのだが、今、逆に変動周期があまりに長いことで驚きをもたらしている中性子星がある。普通なら数秒程度なのに、この天体は6.7時間。ESAのX線観測衛星XMM-Newtonが明らかにした。
謎の中性子星、1E161348-5055(以下1E)は超新星残骸RCW103の中心に存在する。RCW103はじょうぎ座の方向、1万光年先にあり、超新星爆発から約2000年経過していると推定される。その位置を考えれば、1Eは超新星爆発を起こした星のなれの果て、中性子星だ(解説参照)。しかし、爆発後2000年という「誕生したばかりの」中性子星ならば、高速な自転にともなって、数秒刻みで変動する電磁波を発しているはずである。しかし、イタリアなどの研究チームが2005年8月にXMM-Newtonを使って24.5時間に及ぶ観測を行った結果、X線の変光周期は6.67時間という、けた違いの遅さだったのだ。
研究チームの1人・イタリア宇宙物理学国家機関(INAF)のAndrea De Luca氏は1Eについて、「形成されてから2000年弱という若さを考えると、そのふるまいは実に奇妙で、むしろ数百万歳の天体を連想させます」と語る。彼らは、1Eから放出されるX線がこんなにも遅い周期で変化する理由について、いくつかの仮説を提示した。
1Eは極端に強い磁場を持った中性子星、「マグネター」かもしれない。マグネターの場合、自身の磁場がブレーキとして働くため通常の中性子星よりも自転周期が急激に遅くなる。それでも、これまでに知られているマグネターの自転周期は1分間に数回程度だ。2000年で6.67時間にまで自転周期を落とすとなると、非現実的な強さの磁場がなくてはならない。超新星爆発を起こした恒星の残骸が近くに残っていれば、磁場によるブレーキ効果を助けるかもしれないが、そのような事が実際に起きているのは観測されたことがなく、これまでにないタイプの中性子星形成過程を考えなくてはならないようだ。
一方、6.67時間は中性子星の自転周期ではなく、未知の伴星の公転周期かもしれない。ただし、質量の小さな恒星が、超新星爆発に耐えて中性子星のすぐ近くを回り続けていると仮定しなければいけなくなる。確認することはそう難しくなく、伴星の質量が太陽の半分未満でも、理論上は存在する証拠を観測で見つけることができる。
同じように伴星を想定する場合でも、伴星から中性子星へ流れ込んだガスが加熱されてX線で輝いているという可能性もある。ただ、この場合でも伴星の質量はかなり小さいと想定される。小質量の伴星から中性子星やブラックホールにガスが流れ込んでX線を発している連星は他にもいくつか知られているが、それらと比べ、形成後2000年しか経っていない1Eはあまりに若すぎる上、X線の変化する割合があまりに大きい。やはり、今までのX線連星にはないメカニズムを想定する必要がありそうだ。
結局正体が何であったとしても、今まで知られていなかったプロセスが1Eに働いたことになる。逆に言えば、1Eの変動周期が劇的に遅くなった理由がわかったとき、超新星や中性子星に関する研究は確実に加速するだろう。
中性子星ってどんな星?
太陽の質量の8〜30倍の星が超新星爆発を起こしてできるのが中性子星。直径20キロメートルほどの大きさに電気的に中性な中性子がギューッと押し固められている。爆発によって大部分が吹き飛んでしまって太陽の3倍ほどの質量になっていると考えられていて、角砂糖1個分で数億トンという超高密度になっている。(「宇宙のなぞ研究室」より抜粋)