ニューホライズンズの観測機器、冥王星の名付け親にちなんで改名

【2006年7月20日 New Horizons News

第9惑星を初めて"Pluto"(冥王星)と呼んだのは天文学者ではなく、学校で勉強する11歳の少女だった。彼女の名前、「ヴェネチア(Venetia)」が、冥王星探査機ニューホライズンズの観測機器につけられた。実は、中心となってこの機器を開発したのも、天文学者ではなく、大学で勉強する学生たちだった。


VBSDC

命名当時(11歳)のヴェネチアさん(提供:Venetia Burney Phair (via the BBC))

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ニューホライズンズに搭載される前のSDC(現VBSDC)。クリックで拡大(提供:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)

ニューホライズンズは今年1月19日(米東部標準時)に打ち上げられ、2015年の夏ごろから冥王星、および周辺のエッジワース・カイパーベルト天体を探査するNASAの探査機だ。ピアノほどの大きさの中にさまざまな観測機器が搭載されているが、その中に1つ、ユニークな機器がある。設計、制作、そして運用に至るまで学生が中心となる、その名も「学生微粒子計数器(Student Dust Counter, SDC)」だ。

SDCの主な役割は、惑星間空間にただよう微粒子の性質を調べることである。探査機の外壁に備え付けられた衝突板、および衝突した粒子の質量と速度を求める電子回路からなり、冥王星までの長い旅の間に測定を続ける。とりわけ、天王星よりも外側で同様の観測が行われるのは初めてなので、地球からは決して観測できない小さなちりの分布を知る、よい機会となるだろう。また、冥王星に到着した後も活躍するかもしれない。冥王星と3つの衛星(カロン・ニクス・ヒドラ)に他の小天体が衝突することで、ちりが放出されているかもしれないからだ。

しかしなんといってもSDC最大の特徴は、プロの学者・技師ではなく学ぶ立場の者たちが中心となって取り組むことである。SDCを作り上げたのはコロラド大学の大学生・大学院生であり、この7月から始まる観測で得られたデータを解析するのも学生たちだ。運用のノウハウは今後何年にもわたって新しい学生に伝えられるし、観測結果そのものも、さまざまな年齢の生徒や学生の教材に使われることになる。将来天文学に携わる者たちのための投資といえるだろう。

ところで、小学校で学ぶ立場にして天文学に大きな足跡を残した少女がいるのをご存じだろうか。1930年当時11歳だったイギリス人のヴェネチアさん(Venetia Burney Phair)で、その年に見つかった9つ目の惑星に英語で"Pluto"という名前をつけることを初めて提案した。つまり冥王星の「名付け親」ということになるが、今度は彼女の名前が、冥王星を目指すSDCに冠された。今後この機器は「ヴェネチア・バーニー学生微粒子計数器(Venetia Burney Student Dust Counter, VBSDC)」、略してヴェネチアと呼ばれることになる。

「だいぶ驚きましたよ。でも、機器に私の名前がつくなんて、名誉なことです」と語るのは、87歳になったヴェネチアさんその人。「11歳だったころは、何年も後に人々が冥王星命名の経緯を覚えていること、ましてや冥王星へ探査機を送ることなんて、夢にも思いませんでした。なんてすばらしいことでしょう」

昔学校にいた人、今学んでいる人、将来学ぶ人…ニューホライズンズは、研究者だけでなく、学生や生徒の思いも乗せて、冥王星とエッジワース・カイパーベルトを目指している。