初期宇宙に予想外の大きさを持つ構造、すばる望遠鏡が発見

【2006年7月27日 すばる望遠鏡 7月31日更新

現在の宇宙の構造は誕生以来137億年かけて形づくられたものであり、そのわずか15%(20億年)しか経過していない初期宇宙は大して発達していないと考えられていた。しかし、日本の研究グループによるすばる望遠鏡を使った観測は、こうしたイメージを一新しそうだ。現在の宇宙でさえ例がないほどの大規模構造が見つかるとともに、その内部のいたるところで銀河が誕生していることが示唆された。


3次元的に見た大規模構造

今回見つかった大規模構造の3次元的形状。クリックで拡大(提供:国立天文台)

巨大ガス天体とアンドロメダ座大銀河の大きさの比較

巨大ガス天体とアンドロメダ銀河の大きさの比較。緑色が巨大ガス天体。図の右上のアンドロメダ座大銀河(東京大学理学部木曽観測所撮影)は、120億光年遠方に持っていった場合の大きさ。赤丸は、今回のすばる望遠鏡での観測ではじめて見つかった泡状構造。クリックで拡大(提供:国立天文台)

東北大学の林野友紀助教授、国立天文台の山田亨助教授、京都大学の松田有一研究員、東北大学の山内良亮大学院生らによる研究グループは、120億光年先にある銀河の密集領域に注目した。120億光年離れているということは、宇宙年齢が137億年という最新の研究結果を考慮すれば、誕生後20億年しか経過していない宇宙の姿を見ていることになる。当時は質量の濃淡に現在ほどの差がなく、銀河の密集領域はせいぜい0.5億光年程度までしか広がっていないだろうと思われていた。

ところが、すばる望遠鏡の観測でこの予想は完全にくつがえされることになった。宇宙平均の3〜4倍という密度で銀河の集まった領域が、当初わかっていた範囲のはるか外側まで広がっていたからである。見つかった構造は差しわたし2億光年で、現在の宇宙で最大の構造(1億光年強)である超銀河団(解説参照)さえ上回っていた。

さらに、すばるの微光天体分光撮像装置(FOCAS)で大規模構造を構成する銀河の距離を調べることで、3次元的な形状も見えてきた。3方に腕が伸びているような構造だ。このような形状が初期宇宙で見つかるのも初めてである。

「今回発見した銀河の大規模構造は、その大きさと銀河密度の高さにおいて宇宙の中でも特に希なものであり、時間とともに成長し、いくつもの巨大な銀河団が集まった大構造へと発展していくと考えられます」と山内良亮さんは語る。

大規模構造を形成するのは銀河だけではない。大きさが10万光年以上、質量が天の川銀河と同じくらいから10倍程度にいたるほど巨大なガス天体も数多く潜んでいた。大規模構造の中心付近に2つの巨大ガス天体があることは当初から知られていたが、すばるの観測によって、3本の腕に沿って計33個の巨大ガス天体が新たに発見されたのである。

巨大ガス天体の正体には諸説あるが、いずれにせよ銀河や星の誕生と密接にかかわっていると見られる。今回見つかった巨大ガス天体中に存在する、泡のような構造もこのことを裏付ける。次々と星が誕生する現場では、質量の大きな星も数多く誕生し、短い生涯の果てに次々と超新星爆発を起こす。この爆発は周りのガスを吹き飛ばす「銀河風」と呼ばれる効果をもたらすが、数値シミュレーションの結果、銀河風により巨大ガス天体の泡構造が再現できたのだ。

天の川銀河のように質量の大きな銀河が宇宙初期にどのように誕生したかは、理論的予測はされていても観測的証拠が乏しい。そのため、大規模構造とともに巨大ガス天体の存在が明らかになったことは重要だ。松田有一さんはこう述べている。「私たちの周りには大きな銀河から小さな銀河までいろいろな大きさの銀河がありますが、巨大ガス天体をさらに詳しく調べることで、大質量銀河が実際にどのように誕生してきたのかについて、大きな手掛りが得られるはずです」

超銀河団

1万個程度の銀河を含む、いくつかの銀河団の集まりを超銀河団と呼ぶ。私たちの銀河系を含む局部銀河群はおとめ座銀河団を中心とする局部超銀河団に属し、さらにかみのけ座超銀河団など十数個の超銀河団が確認されている。その構造スケールは億光年オーダーにおよんで宇宙階層構造の一階層を占め、その最上位の宇宙大規模構造(泡構造)の膜面に相当する集団を形成している。(「最新デジタル宇宙大百科」より)