親無き双子の「惑星」たち

【2006年8月10日 ESO Science release

ヨーロッパ南天天文台(ESO)の望遠鏡によって、木星の7倍および14倍の質量を持つ天体が発見された。2つの天体は恒星ではなく互いの周りを回っている。つまり、初めて「惑星質量天体」どうしの連星が見つかったのだ。謎に満ちた、惑星質量天体の誕生について知るための鍵になるかもしれない。


(惑星質量天体連星の想像図)

惑星質量天体連星の想像図。天体間の距離はOph 1622より近く描かれている。クリックで拡大(提供:ESO)

(VLTが撮影したOph 1622)

VLTで撮影したOph 1622の近赤外線画像。クリックで拡大(提供:ESO)

天体の家族構成はさまざまだ。太陽のような恒星は、およそ半分が双子(すなわち連星)として誕生する。また、褐色矮星(解説参照)の場合も、およそ6分の1は双子らしい。一方で、惑星は原始星をとりまく円盤から生まれるので「恒星の子ども」と見なされていたが、最近では惑星サイズでありながら独立に存在する天体も発見されている。そして、こうした親を持たない惑星サイズの天体(「惑星質量天体」と呼ばれる)の中にも、双子がいることが明らかにされた。

初めて惑星質量天体の連星が見つかったのは、へびつかい座の方向に400光年離れた星形成領域の中だ。連星の名前はへびつかい座162225-240515(Oph 162225-240515、略してOph 1622)。カナダ・トロント大学のRay Jayawardhana氏とESOのValentin D. Ivanov氏が、チリにあるESOの3.5メートル新技術望遠鏡を使って発見した。さらに、口径8.2メートルを誇るESOVLTによって2つの天体を分解して直接撮像することにも成功した。

2つのうち明るい方はOph 1622A、暗い方はOph 1622Bと呼ばれるが、VLTの観測から、どちらも表面温度が低すぎて恒星とは言えないこと、地球から両者への距離が等しいので確かに連星であることが明らかにされている。Jayawardhana氏らによれば、Oph 1622Aの質量は木星の14倍でありOph 1622Bは7倍。また、両者の距離は242天文単位(太陽―地球間距離の242倍、太陽―冥王星間距離の6倍程度)としている。

「この天体を『双子の惑星』と呼びたいところですが、太陽系の惑星とは形成過程が違うと思われるので、そうはいきません」とJayawardhana氏は語る。他の恒星などからは完全に独立に、ガスとちりが集まって2つの天体を作り上げたというのである。

これまで一般的だった説は、複数の星が同時に誕生しつつあるガス雲の中から、何らかの拍子ではじき出された「未熟児」が惑星質量天体ではないか、というものである。しかし、はじき出される天体から見れば、この過程は混乱に満ちたものだ。そんな中で双子が手を取り合い続け無事に抜け出せるとは考えにくい。まして、Oph 1622の2つの星は距離が離れていて、ほとんど握る手に力を入れてない状態だ。

Ivanov氏は、「こうした連星がたくさん存在しているのか、Oph 1622が珍しいケースなのか調べていきたいと思います。そうすれば、恒星から独立した惑星質量天体がいかにして誕生したのかについてヒントが得られるはずです」と述べている。

惑星と恒星のあいだ

太陽の質量は木星のおよそ1000倍ですが、もし、木星があと80倍の質量を持つ星に成長していたとしたら、木星内部の温度と圧力は十分高まって水素原子が核融合反応を起こし、太陽のように光り輝く星になっていたかもしれません。木星が現在の10倍の質量を持っていたとすれば普通の水素の核融合反応は起こせませんが、普通の水素原子に中性子が1つくっついた「重水素」の核融合反応は始まります。重水素は数が少ないので、すぐになくなってしまい、燃え尽きてしまいますが、余熱によりしばらくは赤外線を発し続けます。このような天体は「褐色矮星」と呼ばれています。(「太陽系ビジュアルブック」より抜粋)