「惑星の定義」論争、太陽系外を舞台に続行中

【2006年9月12日 Hubble Newsdesk

「惑星の定義とは何か」「この天体は惑星か、惑星でないか」−8月24日、こうした疑問にひとまず答えが出された−太陽系の中では。しかし、太陽以外の星を回る天体が系外惑星と言えるかどうかは、ひじょうに難しい問題だ。ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた天体「CHXR 73 B」の扱いは、科学的には冥王星以上にやっかいかもしれない。


(CHXR 73とCHXR 73 Bの画像)

HSTが撮影した恒星CHXR 73とCHXR 73 B(提供:NASA, ESA and K. Luhman (Penn State University))

右の、ハッブル宇宙望遠鏡HSTが撮影した画像に写っているのは、カメレオン座の方向約500光年の距離にある赤色矮星、CHXR 73である。赤色矮星とは、核融合で輝く天体の中でも特に小さいものである。CHXR 73の質量は太陽の3分の1しかないが、紛れもなく恒星である。

一方、その右下に見えているのは恒星CHXR 73の周りを回る天体、CHXR 73 B。何人かの研究者は、この天体を褐色矮星(解説参照)だと考えている。褐色矮星は恒星ではない。そしてCHXR 73 Bが恒星でないことも間違いない。しかし、CHXR 73 Bが褐色矮星ではないと考える研究者もいる。すなわち、CHXR 73 Bが恒星CHXR 73の惑星である、という見方だ(なお、もし正式に惑星として認められたなら、呼称はCHXR 73 bとなる)。

何をもって惑星と見なすか、という問題は太陽系の中でしか決まっていない。そのため、CHXR 73 Bが惑星であるかどうかを決める明瞭な基準は存在しない。しかし、仮にあったとしてもCHXR 73 Bを巡る問題は解決しないだろう。現在、多くの研究者が認識しているであろう「系外惑星かどうかの基準」に照らし合わせても、CHXR 73 Bは2つの点で判定が難しいのである。

1つは、すでに言及したように「褐色矮星か否か」という点。天体の内部で重水素の核融合が始まるには、木星の10〜13倍の質量が必要だと考えられている。しかし、CHXR 73 Bの質量は木星の12倍程度と、まさに境界線上だ。

もう1つは、CHXR 73 Bがどうやって生まれ、今の軌道を回るようになったのかという問題だ。

われわれの太陽系の場合、太陽が原始星だったころに周りを取り巻いていた原始惑星系円盤が、惑星やその他の小天体を形成した。だから、じゅうぶん大きな天体については、すんなりと「太陽系の惑星」と言えたのだ。だが、CHXR 73 Bが恒星CHXR 73の原始惑星系円盤から生まれたのかというと、どちらともいえない。

恒星CHXR 73からCHXR 73 Bへの距離はおよそ300億キロメートル(太陽−地球間の200倍)もある。かつて恒星CHXR 73を取り囲んでいた原始惑星系円盤は、せいぜい半径80億〜160億キロメートル前後だったと考えられている。木星のような惑星は円盤のじゅうぶん内側でなければ形成されないというのに、その12倍の質量を持つ天体がそんなに外側で生まれるとは考えにくいのだ。

一方で、恒星とは独立に誕生した褐色矮星は大量に見つかっている。CHXR 73 Bも同様に、恒星CHXR 73とは独立して誕生したのだとすれば、たとえ質量が基準に収まっていたとしても「惑星」と言えるかは怪しい。

CHXR 73 Bは、恒星の周りで直接観測された天体としてはもっとも小さなものの1つだ。こうした「系外惑星の基準」ぎりぎりの天体がもっと見つかるようになり、その上で性質をもっと詳しく調べられるようになれば、本当の意味で「惑星の定義」を決めることができる日も来るかもしれない。観測技術の進歩で太陽系の姿が詳しくわかり、「太陽系の惑星の定義」が決められたように。

惑星と恒星のあいだ

太陽の質量は木星のおよそ1000倍ですが、もし、木星があと80倍の質量を持つ星に成長していたとしたら、木星内部の温度と圧力はじゅうぶん高まって水素原子が核融合反応を起こし、太陽のように光り輝く星になっていたかもしれません。木星が現在の10倍の質量を持っていたとすれば普通の水素の核融合反応は起こせませんが、普通の水素原子に中性子が1つくっついた「重水素」の核融合反応は始まります。重水素は数が少ないので、すぐになくなってしまい、燃え尽きてしまいますが、余熱によりしばらくは赤外線を発し続けます。このような天体は「褐色矮星」と呼ばれています。(「太陽系ビジュアルブック」より抜粋)