超新星残骸RCW 86の正体は、記録上最古の超新星か
【2006年9月25日 ESA News】
X線の目で超新星残骸RCW 86を見た天文学者たちが、この残骸の年齢は従来の推定より若い2000歳であるとの結論を出した。もしそうだとすれば、西暦185年に中国の天文観測者が肉眼で見て記録に残した超新星と、同一の天体かもしれない。
RCW 86はわれわれの天の川銀河に存在する超新星残骸(解説参照)である。西暦185年に中国などで観測された超新星と位置が合うことから、その残骸ではないかと指摘されていたが、爆発後の経過時間は1万年と見積もられていたため、同一天体説はこれまで否定されてきた。
ところが、オランダ・ユトレヒト大学のJacco Vink氏が中心となり日本の理化学研究所の研究者などが参加したチームの観測によって、RCW 86はやはり185年に観測された超新星の残骸である、という強い証拠が得られた。チームは2つのX線観測衛星、ESAのXMM-NewtonとNASAのチャンドラでRCW 86を改めて観測し、その年齢が正しくは2000歳であると結論づけたのである。
超新星残骸は広がりながら周囲の物質と衝突し、衝撃波による加熱と電磁的効果によって強いX線が放射される。このX線の性質から残骸が広がっていく速度を計算し、残骸の大きさとあわせて逆算すれば爆発後の経過時間がわかる。しかし、RCW 86の場合は場所によって速度が違うために、年齢の見積もりに5倍もの差が出てしまった。
超新星爆発に先立ち、元の恒星からは恒星風が吹き出して周囲の物質を押しのける。そのため恒星を中心に、空洞に近い「泡」が形成されるのだが、恒星風は一様には吹かないため、泡の形はいびつである。超新星爆発直後は、残骸は球状に広がる。ところが、先に泡の境界に到達してしまった残骸は、外側の密度の大きい物質に衝突し速度が遅くなってしまう。「1万歳」という見積もりは、ブレーキがかかった残骸を観測したために年齢を長く逆算してしまったのだ。一方、まだ泡の境界に達していない、元の速度を維持した残骸の観測から出た結論が、「2000歳」である。
今をさかのぼることおよそ2000年、西暦185年に、現在RCW 86が存在する方向に「新しくて明るい星」が現れたことを、古代中国の天文観測者が記録している。それによれば、「新しい星」は恒星のようにきらめき、天球に対して動くことはなかった。さらに、およそ8か月かけて暗くなっていったという。これは現代の観測例と矛盾のない、人類が記録した最古の超新星爆発だ。
「私自身この研究を始めるまで、関連性を疑っていました。しかしながら、われわれの研究は、超新星残骸RCW 86の年齢が記録上最古の超新星と一致することを示しています」とVink氏は語る。「天文学者は5年や10年ほど前の記録を参照することに慣れてしまっているので、2000年前の記録を元に研究ができるのは驚くべき事です」
超新星残骸
超新星の爆発で吹き飛んだガスがつくる残骸。球殻状に広がりながら周囲の星間ガスと衝突し、その衝撃波でガスが加熱されるなどしてX線や電波を発している。かに星雲をはじめとして、はくちょう座の網状星雲、ケプラーの超新星残骸、ティコの超新星残骸などが有名である。後者の3つが、内部はもはや空洞になっているのに対して、かに星雲は、中心のパルサーの影響を現在も受けている。(「最新デジタル宇宙大百科より」より抜粋)