【速報】太陽を横切る、黒い水星の姿
【2006年11月9日 アストロアーツ, TRACE POD】
9日早朝、国内はおおむね天候に恵まれ、各地で水星の日面通過が観測できたようです。第一報として、アストロアーツ本社屋上で撮影された写真と、太陽観測衛星が撮影した画像を紹介します。国内では今後26年間見ることのできない、貴重な水星の姿です。
アストローアーツ本社屋上からも観測に成功
東京渋谷のアストロアーツ本社上空は、早朝から快晴で絶好の観測日和となりました。2台の望遠鏡を用意し、減光フィルターを通した観測と太陽投影板を使った観測の両方を試みましたが、ここでは太陽投影板に写された水星の姿をお見せします。
投影された太陽の全体像はおよそ15センチメートルになりますが、水星の姿は米粒ほどです。水星だけでなくいくつか黒点がみえていて、中には水星よりも大きいものもありました。注意深く見ると水星はきれいな丸い形をしているため、黒点と区別できます。太陽の黒点は周りより温度が低いだけの場所ですから、完全に光を遮っている水星に比べていくぶん明るいはずなのですが、太陽投影板による観察ではわかりませんでした。
午前9時8分ごろに水星が太陽の縁に到達(第3接触)しました。像がぼけると、太陽の縁と黒い像のすき間が「水のしずく」のようにつながって見えてしまう「ブラックドロップ現象」が起きるとされています。今回はシーイングもよく、丸い水星の姿は特に崩れることなく太陽の縁へ到達し、そのまま通過していきました。
太陽観測衛星からも相次いで画像が届く
世界各地の天文台、さらには宇宙で太陽を観測している科学衛星から撮影された画像も、続々と公開されています。ここでは、NASAの太陽観測衛星TRACEが撮影した画像を紹介しましょう。
TRACE(遷移領域およびコロナ観測衛星)は1998年に打ち上げられた衛星で、可視光から紫外線にかけての複数の波長で太陽を撮影しています。水星の日面通過も、可視光(黄色の疑似カラー)と波長160ナノメートルの紫外線(赤の疑似カラー)でそれぞれ撮影されました。
撮影されたタイミングは、水星が太陽の内側に入りこみ、縁と縁が離れようとする瞬間(第2接触)で、2つの画像の撮影間隔は2秒しかありません。この間、水星はほとんど動いていないはずです。しかし、可視光の画像ではまだ水星の一部が太陽像の外側に出ていて、紫外線の画像では完全に内側に入り込んでいるのがわかります。
可視光で見える太陽の表面(光球)に対して、その外側に広がっている太陽大気はX線や紫外線などで撮影するとはっきりと見えます。このように、異なる波長で見ると太陽の大きさが変わってくる、というのは研究者の間ではよく知られていることですが、水星の日面通過を通じてはっきり実感できるというわけです。
※アストロアーツでは、今後も世界各地で撮影された日面通過の様子をニュースで紹介したり、皆様からお寄せいただいた画像をギャラリーコーナーでご紹介させていただく予定です。