別の恒星の超巨大フレア:太陽で起きたら生命の危機

【2006年11月16日 NASA Feature

NASAの天文衛星スウィフトが、強力なX線を感知した。最初、研究者たちに「星が吹き飛んだのか」と思わせたこの現象は、太陽に近い恒星の表面で起きた爆発、フレアだった。そのエネルギーは太陽で起きるフレアの1億倍にも上る。


(太陽観測衛星TRACEがとらえた太陽フレア)

太陽観測衛星TRACEがX線波長で捉えた2005年9月の太陽フレア。クリックで拡大(提供:NASA/LMSAL)

(太陽フレアの様子を再現した動画の一コマ)

太陽フレアの様子を再現した動画(参照元で公開)の一コマ(提供:NASA)

太陽から135光年の距離にある恒星、ペガススII(II Peg)で発生したフレア(解説参照)は、残念ながらわれわれから遠すぎて詳細に撮影することができない。いや、「残念ながら」ではなくて「幸運にも」と言うべきだろう。もしこのフレアが太陽で発生していたら、画像は得られてもそれを見るどころではないはずだ。

太陽でフレアが発生すると、エネルギーの低い電波から高エネルギーのX線に至るまで、さまざまな波長の電磁波が放出される。X線の放出は数分ほど続き、時として通信障害やオーロラなどの形で地上にも影響を与える。幸い、地球は厚い大気に守られていて、フレアによるX線は生命に危害を及ぼすことはない。

一方、II PegのフレアによるX線の放出は数時間続いた。放出されたエネルギーは典型的な太陽フレアの1億倍と見られる。これほどの爆発が太陽で起きようものなら、地球で大規模な気候変動が生じてしまい、生物の大絶滅は避けられない。

超巨大フレアを起こしたII Pegは巨大な恒星なのかといえば、そうではない。質量は太陽の0.8倍と小さな星である。フレアを活性化させているのは、自転の速さだ。一般に恒星は若いほど速く自転する。太陽の年齢は50億歳で、恒星としては「中年」にさしかかっている。現在はおよそ28日周期で自転するが、形成されて間もないうちはもっと速く回転していて、II Pegのようなフレアを起こしていたのかもしれない。ところが、II Pegは若いわけでもなく、むしろ太陽よりも10億年以上年をとっている。

II Pegの「若さの秘けつ」は、パートナーの存在だ。II Pegから半径数個分程度の距離に、質量が太陽の0.4倍の伴星がある。結果、潮汐力が働いて、7日周期という高速で自転するようになったのだ。

II Pegのフレアに伴うX線を検知したのは、ガンマ線バースト観測衛星スウィフトだ。ガンマ線バーストは、極超新星爆発や大質量天体どうしの衝突によって引き起こされ、多量のガンマ線の放出を伴う爆発的現象である。スウィフトの目的は、ガンマ線バーストをいち早く検知し観測を始めることだ。今回のフレアは比較的近い恒星で起きたとはいえ、スウィフトへ届いた高エネルギーのX線は、バーストと勘違いさせるにじゅうぶんだったというわけだ。もちろん、その直後から行われたX線の観測で、別の現象であることはすぐにわかったのだが。

遠くの銀河でいつ大爆発が起きるのかわからないように、いつ恒星表面のフレアが起きるかは予知できない。スウィフトの能力はこの分野でも活躍できそうだ。今回のフレアに関する研究を率いたメリーランド大学/NASAゴダード宇宙センターのRachel Osten氏はこう語る。

「フレアはあまりに強力で、最初のうちは恒星が吹き飛ぶ爆発を観測したのかと思ったほどです。…私たちは太陽で発生するフレアについてはよく知っていますが、結局1つの恒星しか見ていないことになります。II Pegで起きたことは、他の恒星のフレアを太陽のように間近で見たかのように詳しく研究する、初めての機会となりました。」

フレア

太陽の光球面、彩層、コロナの一部が突如輝きを増して数分で極大に達し、以後ややゆっくりと減光して数分〜2時間程度で元に戻る現象を「フレア」という。太陽面爆発ともいう。大黒点の中または近くで発生し、大黒点群の活動初期に現れることが多い。磁力線の突発的なつなぎ替えにより磁場エネルギーが熱エネルギーに転化して爆発的に解放される現象と推定されている。大規模なフレアは、さまざまな電磁波や荷電粒子を惑星間空間に放出し、地球でも、デリンジャー現象や磁気嵐、オーロラなどが引き起こされる。(「最新デジタル宇宙大百科」より)