月はまだ生きている?表面でガス噴出の可能性
【2006年11月24日 Brown University】
アポロ計画の探査で得られた月面画像と最新の分光データから、つい100万年前にも月面上でガスの噴出が起きていた可能性を示す結果が得られた。月の地質活動は30億年前に終わったという常識が、根底から覆されるかもしれない。
過去30億年間の間、月面では広域にわたる火山活動がなかったとされている。しかし、米・ブラウン大学と惑星科学研究所の研究者からなるチームによれば、それよりもずっと後、いやごく最近にも、月の表面からガスが噴出していたかもしれない。
このチームが研究対象としたのは、アイナ(INA)と呼ばれる地形。アポロ探査機が撮影した画像から初めて見つかったもので、アルファベットの「D」の形をしている。チームの一人Peter Schulz氏は、アイナ中の構造がひじょうに鋭いことに注目した。明瞭で鋭い構造は、一般に寿命が短い。アイナの特徴的な地形は、本来5000万年もすれば失われてしまうはずなのだ。地球では、水や風による風化活動が表面の凹凸をすぐになだらかにしてしまう。月には空気が存在しないが、その代わり微少な隕石が頻繁に衝突するため、ゆっくりながらも似たような結果となる。
アイナが若い地形であるという予想は、他の地形との比較で裏付けられた。月面上の地形には、アポロ計画で岩石が持ち帰られ、ある程度正確に年齢がわかっているものがある。アイナ全体の面積にクレーターが存在する割合は、200万歳と推定されるクレーターとほぼ同じだった。また、一度内部の物質が露出すると、時間とともにほこりが堆積するため、地形のスペクトルを分光観測することも年齢を判断するのに役立つ。アイナのスペクトルからは、そこに存在する物質が露出したのはかなり最近だと言うことが示唆される。
こうした特徴が地質活動の結果だという根拠は、周辺地形の特徴にある。アイナはちょうど2つの谷が交差する地点に存在するが、地球上で地質的に活発な場所の多くも、まさにそうした地点にあるのだ。ところで、マグマが吹き出す火山噴火が起きると、噴出物が放射状に飛び散る。そうではないことから、アイナで起きたのは急速なガスの噴出であり、それにともなって表面の堆積物がはがれ落ちたのだと考えられる。
アイナが特別な例外というわけではなさそうだ。アイナとよく似た地形は周辺に数多く存在する。他にも、月が予想以上に活発な地質活動を行っているとする証拠は存在するが、確証を得るには再び月からサンプルを回収する必要がある。だが、別の方面から証拠を固める手段がある。月を観測して実際に噴出が起きるようすを目撃することだ。
実際、月面における突発的な発光は、アマチュアの観測者によって幾度も観測されている。Schulz氏は、プロの天文学者とアマチュアの観測者が連携することで、月面をモニターすることが必要だと主張している。ガスの噴出そのものは1秒足らずで終わってしまう。だが巻き上げられたほこりは30秒ほど上空に残る。それだけ時間があれば、現代の発達した伝達網を通じて本格的な望遠鏡を向けるにはじゅうぶんだ。
月の進化
月は約45億年前、塵やガスが集まって誕生しました。急速な集積エネルギーで、表面が溶けてマグマの海ができました。やがて表層が固まります。その後、多数の小天体が衝突し、多くのクレーターができました。38億年前になると天体衝突はほとんどなくなりますが、内部から溶岩の噴出が始まります。溶岩噴出は25億年前ごろまで続き、窪地である巨大クレーターの底に溜まって海をつくりました。以降は、内部活動が不活発になり、現在の姿で安定しています。(「太陽系ビジュアルブック」 より)