飛翔を止めるな!「はやぶさ-2」の実現に向けて
【2006年12月7日 宇宙科学研究本部 はやぶさ】
小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトチームはこう述べた:「『はやぶさ』ももう過去のもの」。彼らは決して「はやぶさ」の地球帰還をあきらめたわけではない。それ以上に、「はやぶさ」がもたらした各方面における前進を止めたくないのだ。世界に先んじて小惑星サンプルリターンを実現するべく、「はやぶさ-2」の開発が計画されている。
一時は通信が断絶し、電力供給や姿勢制御もできなくなっていたJAXA宇宙科学研究本部(ISAS)の小惑星探査機「はやぶさ」。しかし、惑星間航行用のイオンエンジンを姿勢制御に使うなど、さまざまな工夫の甲斐あって、地球帰還へのめどは立ちつつある。2007年2月に小惑星イトカワを離れ、2010年6月に地球へ帰還する予定だ。
最大の目的、人類初の小惑星からのサンプルリターンは、残念ながら「はやぶさ」によって実現される可能性は低い。それでも達成に向けた国際競争の中で、日本が最先端にいることは確かだ。しかし、「はやぶさ」プロジェクトチームは日本が追い越されることを危惧している。NASAが10月に小惑星サンプルリターン探査機「OSIRIS」の開発へ本格的に着手したからだ。
小惑星からのサンプルリターンを世界に先がけて国産技術で実現することは、単に「国家の威信」のためではない。成功によって技術への信頼は高まるし、科学的な成果も得られる。また、地球近傍小惑星の研究が進むことで、衝突のリスク回避につながり、さらには小惑星を資源として利用する道も開ける。「はやぶさ」ミッションがまだその段階へたどり着いてないとしても、先進していることは確かだ。次の一歩を踏み出すべく、ISASのチームは10月に開かれた国際宇宙会議で「はやぶさ-2」の構想を発表した。
日本がNASAのOSIRISに参加することは、それまで独自に積み上げてきたものを放棄することを意味し、日本の国益を損なうだけでなく惑星探査そのものにおいても大きな損失になる、とチームは考える。逆に「はやぶさ-2」を実施してNASAを参加させ、日本の先進性を維持したいとしている。
OSIRISは2011年に打ち上げられ、2013年に小惑星1999 RQ36へ到着し、サンプルを回収して2017年に地球へ帰還する予定となっている。一方、「はやぶさ-2」は2010年ごろに打ち上げ、2013年ごろに小惑星1999 JU3で探査と採集を行い、2015年ごろに帰還する計画である。競争は待ったなしの状態にあるが、すでに予備開発のために120万ドル(約1.4億円)の予算がつけられたOSIRISに対し、「はやぶさ-2」が来期の予算に盛り込まれる見通しは薄い。OSIRISには最終的に4億2500万ドル(約490億円)が投じられる見通しだ。これはNASAの探査計画としてはもっとも安い部類に入る。しかし、「はやぶさ-2」が要求する予算の4倍だ。
「はやぶさ」は世界中の研究者から注目されると同時に、日本国内でも大きな関心を持たれた。「はやぶさ-2」の実現に際しては、社会へのアウトリーチがより組織的に進められる予定だ。つまり、最先端の技術だけでなく、一般社会へ科学的関心のすそ野を広げることができる。プロジェクトチームは現状に強い危機感を持ち、各方面へ応援を呼びかけている。