ケプラーが見た超新星は未知のタイプ?
【2007年1月15日 Chandra Photo Album / ESA News】
惑星の運動を解明し天文学を大きく発展させたケプラーは、1604年に超新星を観測した。400年の時を経て、残された超新星残骸が現代の天文学者を悩ませている。「ケプラーの新星」は新種の超新星だったかもしれない。
ほかの超新星と同じように、「ケプラーの新星」(解説参照)が爆発したときに吹き飛ばされた物質は周囲のガスなどと衝突してX線や電波などを放っている。「ケプラーの超新星残骸」から放たれた電磁波は、NASAのX線天文衛星チャンドラなどによって観測され詳しく調べられている。しかし、観測結果に基づいて「ケプラーの新星」を分類しようとすると、問題があった。
ケプラーの超新星残骸からは大量の鉄が検出されている。また、中心部には天体が見つかっていない。これは「Ia型超新星」の特徴だ。白色矮星の周りを伴星が回っていて、伴星からガスが白色矮星へ流れ込むと、一定の質量になった段階で白色矮星は不安定になる。太陽のような恒星が核融合を終えた後に残るのが白色矮星だが、不安定になった白色矮星は暴走的な核反応を起こして跡形もなく吹き飛ぶ。これがIa型超新星だ。
一方、超新星からの放出物は、窒素を豊富に含む密度の濃い雲と衝突しているのだが、これは普通のIa型超新星では考えられない状況だ。こうした雲は、太陽よりもはるかに質量の大きな恒星が生涯を終える前に吹き出すことが多い。大質量の恒星は一生の最期に重力崩壊に伴う爆発を起こし、「II型超新星」と呼ばれる。中心には中性子星かブラックホールが残される。
爆発そのものはIa型超新星の特徴を持っているが、爆発前はII型超新星のようなシナリオが進んでいたというわけだ。
その後の詳しい測定で、ケプラーの新星は間違いなく白色矮星が爆発したIa型超新星だったことが確かめられた。爆発前の放出物については、白色矮星になる前の恒星がII型超新星爆発を起こさない程度に大きかったと考えれば説明できる。ところで、太陽のような恒星が白色矮星になるまでは、数十億年もの時間を要する。だが、恒星は質量が大きいほど燃料を使い切るのが速い。ケプラーの新星の場合、恒星が誕生してから白色矮星になるまでの時間は1億年程度だったと考えられる。
ケプラーの新星のように、通常よりも速く爆発へ至る「急行Ia型超新星」は以前にも見つかっている。それは大マゼラン雲に存在する2つの超新星残骸DEM L238とDEM L249で、チャンドラおよびヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線天文衛星XMM-ニュートンの観測からケプラーの超新星残骸のような特徴が明らかにされていた。これ以上遠くの銀河では、超新星周辺のようすを観測できないため、Ia型超新星が起きても「急行」かどうかは判別できない。
Ia型超新星は、絶対的な明るさが一定とされるため、遠くの銀河までの距離を測り宇宙の膨張のようすを知る上で欠かせない存在だ。特殊なIa型超新星を研究することで、Ia型超新星全体についての理解が深まり、ひいては宇宙そのものをより確かに理解できるといえるだろう。しかも、従来のIa型超新星は宇宙が誕生してから数十億年が経過するまで見られないのに対して、「急行Ia型超新星」ならもっと早い段階で起きている可能性がある。より若いころの宇宙について、精度の高い研究ができるかもしれない。
もっとも、「急行Ia型超新星」が時間以外の点で通常と異なっている可能性も否定できない。爆発時の明るさが違っているとすれば、Ia型超新星を「宇宙の物差し」として使うことができなくなってしまうので重要な問題だ。
超新星1604 / ケプラーの新星
1604年にへびつかい座に現れた超新星。ティコ・ブラーエの弟子のケプラーが詳しい観測をしたので「ケプラーの新星」と呼ばれる。極大時の等級はマイナス2.5等に達したという。ケプラーのとった記録をもとに解析された光度変化はI型超新星のものとよく一致する。この超新星の出現位置には現在、超新星残骸があり、「ケプラーの超新星残骸」と呼ばれている。(「ステラナビゲータ Ver.8」天体事典より)