フランケンシュタイン博士もびっくり? 再生した恒星
【2007年1月24日 Gemini Observatory】
有名な怪奇小説の中で、フランケンシュタイン博士は人間の死体から醜い人造人間を作り出した。一方現実の宇宙には、恒星として一生をまっとうした天体・白色矮星どうしが融合することで誕生したと見られる奇妙な恒星が存在する。
かんむり座Rはひじょうに奇妙な変光星だ(解説参照)。その変光のようすから、炭素のちりを吹き出していると考えられている。ふつうの恒星では質量の9割近くを占める水素がほとんど含まれず、かわりに炭素が豊富に存在する。かんむり座Rのような減光を示す「かんむり座R型変光星(RCB星)」と、変光しない(つまりちりを吹き出さない)だけで成分がほぼ同じ「水素欠乏星(HdC星)」は、天の川銀河の中で合わせて55個しか見つかっていない、とても珍しい恒星だ。
RCB星とHdC星の由来については、「2つの白色矮星が合体してできた」という説が1984年に提唱されていた。白色矮星とは、太陽のようなあまり重くない恒星が核融合の燃料を使い切ってしまった後に残る、とても小さくて高密度な「星の亡きがら」だ。1つ1つの白色矮星はただ冷えていくだけの存在だが、融合することでじゅうぶんな熱を生み出すことができ、核融合が再開するのである。核融合のエネルギーで星の半径は1000倍以上にまで膨らむ。
Geoffrey C. Clayton博士(ルイジアナ州立大学)らの研究チームはシミュレーションでこの仮説を裏付け、今月初めに行われたアメリカ天文学会の会合で発表した。研究チームはRCB星などに含まれる酸素に着目した。
われわれの身の回りに存在する酸素の原子は、大部分が「酸素16」と呼ばれるものだ。だが、「酸素16」よりわずかに重い種類が存在し、その1つが「酸素18」である。地球や太陽をはじめとした宇宙のいたるところでは、酸素18は酸素16に比べて無視できるほど少ない。これに対して、RCB星などでは酸素18が目立つ。ふつうの恒星に比べて、1000倍も多く含まれているのが観測から明らかにされている。
酸素18は窒素の核融合から作られるが、それと同時に酸素16が炭素の核融合で大量に生成されている。Clayton博士は、白色矮星の融合というプロセスは「熱すぎず冷たすぎず」酸素18を多く生成するのにちょうどよいと主張する。
ただし、RCB星などの由来については、「合体説」のほかに「ファイナル・フラッシュ説」が存在する。1つの恒星が燃料をほぼ使い切ってまさに白色矮星になろうとするとき、表面付近で爆発的な核燃焼が起きて外層が大きく膨らんだ状態が、RCB星やHdC星だとする考えだ。この「ファイナル・フラッシュ段階」が観測された例として、「わし座V605」と「櫻井天体」が存在する。物質の存在比、温度、明るさのどれをとってもRCB星に似ていたことから、研究チームの一人Thomas R. Geballe博士(ジェミニ天文台)は「ファイナル・フラッシュ説も捨てがたかった」と述べている。
しかし、ファイナル・フラッシュを起こした2つ天体は、その後数年で超巨星状態を終えてしまった。ここまで寿命が短い天体が銀河の中で同時に輝く数は限りなく少ないはずである。RCB星とHdC星の計55個でさえ多すぎる。
こうしたことから、RCB星やHdC星が恒星の「フランケンシュタインの怪物」である可能性はかなり高い。Geballe博士は次のように語った。
「この星の奇妙なふるまいは、何世代にもわたって天文学者の観測と議論の対象であり続けました。今回の発見で、2つの白色矮星を組み合わせるといかなる変化が起きるのか、つきとめることができるはずです」
かんむり座R
かんむり座R型変光星の代表星。特異な不規則変光星で、ふつうは6等前後であるが数か月から数年ごとに14等以下に突然減光する。炭素成分の多い水素欠乏星で、炭素が星の内部から表面に噴き出して減光するのではないかと考えられている(炭素星)。(「ステラナビゲータ Ver.8」天体事典より)