死にゆく恒星が惑星を生もうとしている
【2007年1月25日 W. M. Keck Observatory】
ふつう、惑星の誕生は恒星の誕生に伴うものだ。だが、逆に恒星が死へ向かうことで惑星の誕生を促している証拠が初めて見つかった。この逆転現象が起きているのは、くじら座の有名な変光星ミラだ。
46億年前に太陽が誕生する際、集まった物質の中から地球も生まれた。ところが、今から50億年後に恒星としての老年期にさしかかり、水素による核融合を続けられなくなると、太陽は大きく膨張して地球を飲み込んでしまうと考えられている。地球の生死はまさに太陽と共にあるのだ。
ところが、くじら座の恒星ミラ(解説参照)では逆のことが起きているらしい。ミラは約11か月周期で2等から10等の間を行き来する有名な変光星で、その正体は水素以外の元素による核融合を始めた老年の星だ。まさに、太陽の将来の姿である。だが米豪の天文学者からなる研究チームが今月初めにアメリカ天文学会の総会で発表したところによれば、死へ向かうミラの振る舞いが惑星の種を作り出したという。
正確に言えば、惑星はミラそのものの周りで形成されているのではない。ミラは連星系で、われわれが「ミラ」と呼んでいる赤色巨星は厳密には「ミラA」だ。もう1つ、伴星のミラBが存在する。ミラAの不安定な外層からは7年で地球1個分の質量が放出されているが、そのうち1パーセントがミラBへと流れ込んでいるらしい。今回、ちりが回転エネルギーを持ちながら降り積もり、ミラBをとりまく円盤となっていることが観測された。この円盤の中から惑星が生まれつつある、というのが研究チームの結論だ。
研究チームは、ハワイのケック天文台10メートル望遠鏡とチリのジェミニ南8メートル望遠鏡を使ってミラを赤外線で撮影した。すると、ミラBだけでなく、ミラBから離れた位置からも赤外線が発せられていることがわかった。それは太陽系で言えば土星の軌道に相当する位置なのだが、赤外線が放出されていることは、そこに一定のちりが集まっていることを意味する。ミラAの強力な輝きで加熱され、赤外線を放射しているのだ。
詳しく分析することで、ちりの集まりは偶然にできたかたまりなどではなく、ミラBをとりまく円盤の端であると確かめられた。また、ミラBが太陽の半分の質量を持ったふつうの恒星であることも明らかにされた(ほとんどの場合ミラBは白色矮星と見なされている)。
100万年ほどで、ミラAはすべての核融合反応を終えて小さな白色矮星となる。ミラBを取り巻く円盤の成長は止まるが、円盤の中では惑星の形成が始まる可能性があるということだ。
ミラ
ラテン語のステラ・ミラ(「不思議な星」の意味)から来た名前。約332日の周期で約2等から約10等の変光を繰り返す。最大直径が太陽の500倍にも達する赤色巨星で、大気層が半径の20パーセント程度も膨張、収縮を繰り返し、これに伴って脈動変光する。太陽からの距離は、およそ400光年。1596年、ドイツの天文学者ファブリチウスが発見した。(「ステラナビゲータ Ver.8」天体事典より抜粋)