幅6.5mの鏡、髪の毛数本分のシャッター
次世代宇宙望遠鏡の開発着々

【2007年2月8日 NASA News Releases

ハッブル宇宙望遠鏡の後継機とされる「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」の開発が進んでいる。今までにない装置や技術の数々から、とくに巨大なものと微少なものに注目してみよう。


ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とは

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図。クリックで拡大(提供:NASA)

1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡(HST)は現在も天文学の最前線で活躍を続けているが、後継機の構想は10年近く前から描かれていた。その後「次世代宇宙望遠鏡(NGST)」という名前で開発が始まっていたが、2002年9月、アポロ有人月面探査を率いたNASAのJames E. Webb元長官にちなんで「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」と正式に命名された。

開発はNASAが中心となり、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)とカナダ宇宙庁(CSA)、およびいくつかの民間企業が協力している。

HSTが可視光を中心に観測していたのに対し、JWSTが見るのは主に赤外線だ。ビッグバン後初めて生まれた「第1世代」の恒星や銀河を探すこと、惑星形成のメカニズムを研究することが主な目標である。

打ち上げは2013年6月の予定で、熱を避けるため、地球から太陽の反対方向へ150万kmの距離(月の4倍)にあるラグランジュ点(重力がつり合って安定する位置)に投入される。

鏡の面積はHSTの7倍、重さは半分

分割鏡の1枚を持ち上げる開発者たち

分割鏡の1枚。このサイズで、重さはわずか20kg。クリックで拡大(提供:Axsys Technologies)

HSTとJWST、主鏡の大きさ比べ

HSTの主鏡(左)とJWSTの主鏡(右)(提供:NASA)

JWSTのもっとも顕著な特徴は、やはり光を集める鏡の大きさだろう。HSTの主鏡が口径2.4mであるのに対し、JWSTは6.5mもある。

HSTと違って、JWSTは折りたたまなければロケットに搭載できない。また、地球から150万kmも離れていては宇宙飛行士によるメンテナンスも不可能なので、打ち上げ当初のHSTのような主鏡のゆがみはあってはならない。そのため、18枚の6角形をつなぎ合わせる「合わせ鏡」方式が採用されている。もちろん同じ大きさの一枚鏡に比べて性能は落ちるが、それでもNASAの開発関係者によれば「光を集める効率はHSTの9倍」だ。

JWSTの主鏡はただ大きいだけではなく、HSTが開発された当時からの技術の進歩も確実に反映されている。それは口径(直径)がHSTの2.5倍、面積が7倍もあるのに、重さが半分ほどしかないところに表れている。

鏡の形には1μm(1mmの1000分の1)たりともゆがみがあってはならない。そのためHSTの主鏡は1000kgもの頑丈なガラスでできていた。一方、JWSTは鏡の強度を上げなくても18枚の鏡をそれぞれ動かすことで調整が効く。さらに、鏡の材質には軽くて丈夫な金属「ベリリウム」が使われている。

18枚の6角形はすでに完成していて、現在は鏡へと磨き上げる作業が始まっている。

髪の毛数本分のすきまで星や銀河の光を選り分ける

チップの全体像と顕微鏡の先端、そして比較用の髪の毛

顕微鏡で観察しながらシャッターの開閉実験を行っているところ。比較のために髪の毛が置かれている。クリックで拡大(提供:NASA/Chris Gunn)

マイクロシャッター拡大写真

マイクロシャッターアレイ。切手1枚分の面積に62,415個のシャッターが並ぶ。クリックで拡大(提供:NASA/Chris Gunn)

ほかの望遠鏡同様、JWSTは天体の姿を撮像するだけでなく分光観測も行う。すなわち、天体からの光をスペクトルに分解することで性質を詳しく調べる。そのためには、周りの光を遮って1つの星、1つの銀河からの光「だけ」を取り出さなければならない。

原理的には、分光器の前に目標天体の光だけを通す小さな穴が空いた壁があれば良いことになる。しかし、数多くの天体を視野に入れながらそのうち1つしか分光観測できないのは効率が悪い。複数天体の同時分光観測を実現する方法はいくつか考案されているが、その中でJWSTで初めて実用化される予定なのが「マイクロシャッターアレイ」だ。自在に開閉できる微少なシャッター(マイクロシャッター)の配列(アレイ)を用意して、目標天体からの光が通るシャッターだけを開けるという仕組みである。

1つのシャッターは0.1mm×0.2mmの長方形。人間の髪の毛を数本並べた程度の幅だ。このようなシャッターが切手1枚分の面積に62,145個(171×365)も並んでいて、磁気をコントロールすることで1つ1つ自在に開閉することが可能。最大100個の天体を同時に分光観測できる。

JWSTにはマイクロシャッターアレイを搭載したチップが4個搭載される。アレイを開発したNASAのチームは、シャッターを20万回以上開け閉めして耐久性にも問題が無いことを実証した。

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