X線天文衛星チャンドラ、わし星雲の「創造の柱」を透視
【2007年2月20日 Chandra Photo Album】
「わし星雲」はハッブル宇宙望遠鏡が撮影した柱型の暗黒星雲で有名だ。この柱は星が誕生する現場として知られており「創造の柱」とも呼ばれるが、全体として見た場合「わし星雲」における星形成は終わりに近いとされている。新たに公開されたNASAのX線天文衛星チャンドラによる画像も、これを裏付けている。
わし星雲はへび座の方向7000光年の距離にある散光星雲で、「創造の柱」はその中にある。星形成といえば、多くの人がここを思い浮かべるほど、1995年にハッブル宇宙望遠鏡(HST)が撮影した画像は有名だ。柱の正体は奥の光をさえぎる濃いちりとガスで、先端には星の胎児を宿したグロビュール(解説参照)が数多く見つかっている。付近の巨大質量星が放つ強烈な光にさらされて周囲の物質をはぎ取られていることから、「蒸発するガス状グロビュール(evaporating gaseous globules, EGGs)」とも呼ばれる。
わし星雲と重なるように散開星団NGC 6611が存在し、両者は合わせて「M(メシエ)16」と呼ばれる。ふつう、M16を眼視観測しても散開星団だけが目立つ。事実M16の中では、星雲が集まって恒星となるプロセスは何百万年も前にピークを過ぎてしまったようだ。「創造の柱」と「EGGs」はベビーブームの面影を伝える最後の存在といえる。
しかし、天文衛星チャンドラの観測によれば、そこでさえも星の産声はほとんど聞こえないらしい。
チャンドラは暗黒星雲に遮られずに通過したX線をとらえられる。言ってみれば、「創造の柱」をレントゲン撮影しているようなものだ。恒星はX線を放つし、星が生まれつつある現場からもX線が観測される。しかし、M16の中でチャンドラが見つけた1000あまりのX線源は、ほとんどが星団に所属する恒星だった。
この事実はHSTの画像と重ね合わせるとわかりやすい。「創造の柱」の中でX線を放っている天体は少ない。とりわけ星形成が活発とされる先端付近でも、X線天体は2つしかない。1つは、図中でも左の柱に認められる青い点で、太陽の4〜5倍の質量を持つ恒星。もう1つは小さめの恒星で、本ニュースで紹介している縮小画像では見えない。
注目されるのは、73個あるEGGsからは一切X線が検出されなかったことだ。大部分は物質が密集しているだけの「無精卵」であることが示唆される。ただし、過去の赤外線による観測では73個中11個に「星の胎児」が見つかっていて、そのうち4個は将来恒星として輝けるだけの質量を持っていることがわかっている。X線が観測されなかったのは、まだ成長の初期段階にあるからかもしれない。
4個の胎児の中には、太陽に近い質量を持つものがある。太陽や地球も、今は無き別の「創造の柱」で生まれたのだろうと考えられている。
グロビュール
暗黒星雲の中で、とくに原始星形成の重力収縮が始まろうとする段階の小型球状の星間雲の塊のことで、低温のダストが集合している。赤外線や電波の観測によってその収縮のようすが知られるようになった。一部には、電波観測で有機分子が観測されているものもある。(「最新デジタル宇宙大百科」より)