日本天文学会2007年春季年会、3月28日から開催

【2007年3月28日 アストロアーツ】

日本天文学会の春季年会が3月28日〜30日に東海大学湘南キャンパスで開催される。それに先立つ27日には記者会見が行われ、代表的な研究成果などが紹介された。また、「林忠四郎賞」を受賞した惑星系理論研究者の井田茂氏が、自らの研究内容について発表した。


(2つの研究内容)

今回発表されたのは、「ブラックホールからのジェット噴出の瞬間をとらえた」「おうし座に巨大惑星を発見」という2つの研究。いずれも、近日中にアストロアーツニュースで紹介する予定だ。(提供:NASA,国立天文台岡山天体物理観測所)

日本天文学会は、日本における天文学の発展や普及を目的とした研究者の組織で、主な活動の1つが毎年春秋に行われる年会である。2007年の春季年会は、東海大学湘南キャンパス(神奈川県平塚市)で3月28日〜30日の3日間にわたって開催される。期間中は太陽系から銀河団、観測機器から天文教育にいたるまで、天文学に関するあらゆる分野の発表が計628件(ポスターによる発表含む)行われる予定。また、中高生が研究発表する「ジュニアセッション」でも40件の講演が行われる。

閉会後の31日には、ニュートリノの研究でノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊・東京大学特別栄誉教授らによる一般向け講演会「ミクロとマクロの宇宙の不思議」が開かれる。渡部潤一・国立天文台助教授による「惑星の定義」に関する緊急報告もあわせて予定されている。こちらは入場無料で、予約は不要だ。

開催を前日に控えた27日には記者会見が開かれ、2006年度日本天文学会各賞の受賞者や代表的な研究などが紹介された。「代表的な研究」として行われた2件の発表については、それぞれ別の記事で紹介するのでそちらをご覧いただきたい。

2006年度日本天文学会各賞

2006年度中に功績を残した観測者や研究者へは日本天文学会から各賞が贈られる。全受賞者と受賞項目は記事末尾に記す。

新天体発見者に贈られる「天体発見賞」、(第一発見ではない)独立発見者に贈られる「天体発見功労賞」はあわせて14件。昨年超新星を10個発見し、1個を独立発見した板垣公一さんが11件を占める。2006年11月にカシオペヤ座で起こったとても明るい重力レンズ現象を検出した多胡昭彦さんらは、天文学の進歩および普及に寄与した観測者に贈られる「天文功労賞」を受賞。年会中には「多胡事象」に関する研究発表もいくつか予定されている。

広い意味での天文学の分野において、独創的でかつ分野に寄与するところの大きい研究業績をあげた個人または研究グループには「林忠四郎賞」が贈られる。今年の受賞者は、惑星系形成理論の研究で知られる井田茂・東京工業大学大学院教授。井田教授は記者会見で主な研究成果について発表したので、以下に紹介しよう。

井田教授が語る惑星系形成理論の最前線

(井田教授が用いたスライド)

理論から予想される惑星の分布と、地球のような惑星の割合。井田教授が説明に用いたスライドより。クリックで拡大

井田教授は、計算機による大規模なシミュレーションを通じて、微粒子の状態から惑星が形成される過程などを明らかにしてきた。画期的な成果の1つが、月の形成に関する「巨大衝突説」の実証である。これは、誕生したばかりの地球に10分の1ほどの質量を持った微惑星が衝突し、破片の中から月が形成されたとする仮説だ。1975年に提唱されたものの、実証的な裏付けは乏しかった。

「実を言うと最初はこの説を反証するつもりでした」と語りながら、井田教授はシミュレーションの過程を説明した。衝突によって散らばる粒子のサイズを大きく近似すれば計算量は少ないが、精度は悪くなる。どこに妥協点を見いだすかが重要だが、あえてできる限り細かい粒子でシミュレーションしたという。結局、1997年に衝突破片から月が誕生することを証明することとなった。現在、「巨大衝突(ジャイアント・インパクト)説」は月の起源を説明する理論として圧倒的に有力である。

惑星といえば、最近は太陽系以外の惑星・系外惑星が盛んに発見されている。系外惑星の中には奇妙な軌道を通るものが多く、太陽系の起源に関する従来のモデルでは説明できない。井田教授は従来のモデルを発展することで、あらゆる条件下での惑星形成を説明できる標準モデルを作り上げた。ちなみに、太陽系の起源を研究し、拡張前のモデルを提案した中心人物こそ、賞を創設した林忠四郎・京都大学名誉教授だ。

さらに、井田教授は系外惑星で生命が見つかる可能性についても言及した。現在の技術では、木星のような巨大ガス惑星しか発見できない。しかし、汎用的な惑星形成モデルからは、地球のような(恒星からの距離と質量が地球とほぼ同じで、水が液体として存在できる)惑星を持つ恒星が、全体の10%以上にのぼるという結果が出たという。近い将来(教授によれば10年かそれ以内)、地球型惑星を観測できるようになれば、大気中の酸素を検出することで生命が見つかるかもしれないとのことだ。

天体発見賞(3氏12件)

鈴木 章司(すずき しょうじ)氏
超新星 2006X の発見
西村 栄男(にしむら ひでお)氏
新星 はくちょう座V2362 の発見
板垣 公一(いたがき こういち)氏
超新星 2006bp の発見、超新星 2006ch の発見、超新星 2006dy の発見、 超新星 2006et の発見、超新星 2006gi の発見、超新星 2006gs の発見、超新星 2006jc の発見、超新星 2006my の発見、超新星 2006ov の発見、超新星 2006qp の発見

天体発見功労賞(2氏2件)

山本 稔(やまもと みのる)氏
新星 いて座V5117 の独立発見
板垣 公一(いたがき こういち)氏
超新星 2006ep の独立発見

天文功労賞(5氏3件)

長期的な業績
藤井 貢(ふじい みつぐ)氏
自作低分散分光器による幅広い多数の突発天体の分光フォローアップ観測
短期的な業績
成見 博秋(なるみ ひろあき)氏
反復新星へびつかい座RS の増光の検出
金井 清高(かない きよたか)氏
同上
多胡 昭彦(たご あきひこ)氏
カシオペヤ座の重力レンズ現象、いわゆる多胡事象(Tago's event)の検出
櫻井 幸夫(さくらい ゆきお)氏
同上

研究奨励賞(3氏3件)

青木 和光(あおき わこう)氏:国立天文台・理論研究部・主任研究員
研究テーマ:「宇宙の元素合成に関する観測的研究」
秋山 正幸(あきやま まさゆき)氏:国立天文台・ハワイ観測所・RCUH職員
研究テーマ:「活動銀河核の構造と銀河進化との関係の研究」
戸谷 友則(とたに とものり)氏:京都大学大学院・理学研究科・助教授
研究テーマ:「ガンマ線バーストによる初期宇宙の探究」

林忠四郎賞(1氏1件)

井田 茂(いだ しげる):東京工業大学大学院・教授
研究の表題:「惑星系形成過程の理論的研究」

欧文研究報告論文賞(2編)

論文:Subaru Prime Focus Camera - Suprime-Cam PASJ vol.54(2002) pp.833-853
著者:Satoshi MIYAZAKI, Yutaka KOMIYAMA, Maki SEKIGUCHI, Sadanori OKAMURA, Mamoru DOI, Hisanori FURUSAWA, Masaru HAMABE, Katsumi IMI, Masahiko KIMURA, Fumiaki NAKATA, Norio OKADA, Masami OUCHI, Kazuhiro SHIMASAKU, Masafumi YAGI, and Naoki Yasuda
論文:X-Ray Probing of the Central Regions of Clusters of Galaxies PASJ vol.53(2001) pp.401-420
著者:Kazuo MAKISHIMA, Hajime EZAWA, Yasushi FUKAZAWA, Hirohiko HONDA, Yasushi IKEBE, Tuneyoshi KAMAE, Ken'ich KIKUCHI, Kyoko MATSUSHITA, Kazuhiro NAKAZAWA, Takaya OHASHI, Tadayuki TAKAHASHI, Takayuki TAMURA, and Haiguang XU

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