異常な巨大銀河?…実は近くの矮小銀河でした
【2007年4月4日 ESO Press Release】
系外銀河NGC 5011Cは奇妙な性質を示していた。巨大な銀河なのに星の密度が薄く、となりの銀河に影響を及ぼしている形跡もない。疑問を抱いた天文学者が詳しく調べたところ、理由がわかった。23年もの間、NGC 5011Cまでの距離は約10倍も大きく見積もられていたのだ。
NGC 5011Cは、ケンタウルス座の方向に位置する銀河だ。星の密度も低く、ぼんやりと見える。このような銀河は、通常近傍にある矮小銀河(通常の銀河に比べ恒星数が少なく、光度も暗い)に分類される。しかし、NGC 5011Cに関する限られた文献が間違っていたことから、近傍どころか1億光年以上先にある銀河団に存在すると考えられてきたのだ。
ヨーロッパ南天天文台(ESO)のIvo Saviane氏とオーストラリアのストロムロ天文台のHelmut Jerjen氏は、NGC 5011Cの一風変わった特徴に疑問をもった。それはまず、1億光年先という距離を基準にした場合の大きさだ。矮小銀河のように暗いのに、隣のレンズ状銀河NGC 5011Bよりも大きいことになる。実際、これほど明るさと大きさがバランスを欠いている天体は知られていないのだ。
そして、NGC 5011Cと伴銀河NGC 5011BについてSaviane氏らが最初に行った計算結果からは、新たな疑問が提示された。NGC 5011CとNGC 5011Bの間の距離は、たった4.5万光年ほどだったのだ。これは、天の川銀河の半分に相当する。これほどまでに接近していれば当然互いの重力によって影響を及ぼしあうはずなのだが、そのことを明確に示す観測がなかったのだ。
そこで、疑問を解決すべく、続いて両氏は2つの銀河の後退速度(解説参照)を測るための観測を行った。その結果、NGC 5011Bは、NGC 5011Cよりも5倍速い速度でわれわれから遠ざかっていることが明らかとなったのだ。つまり、2つの銀河は異なる距離に位置しているということだ。われわれから1億光年以上離れた銀河団に属するのはNGC 5011Bだけであり、NGC 5011Cは、それよりずっと近い1300万光年の距離にあるケンタウルス座Aを中心にした銀河群グループに属していたのだ。さらにこの結果から、やはり天の川銀河の質量の1千分の1しかない矮小銀河の一つであることが明らかにされた。
Saviane氏は「われわれの研究結果から、NGC 5011Cが新たにケンタウルス座Aグループに仲間入りしました。長い間隠されていたNGC 5011Cの謎がこれで明らかにされたわけです」と話している。現在、より深くより広い宇宙を目指してさまざまな観測が進められる中にあって、意外にもこのような近傍に位置する銀河によって、新たな発見や驚きがもたらされることもあるのだ。
銀河までの距離はどうやって測る?
救急車のサイレンに代表されるドップラー効果と呼ばれる現象がある。接近中の音は波長が縮み、離れるときは波長が伸びる。実は光でも音と同じ現象が起こる。わたしたちに接近してくる光の波長は縮小し、離れていく星からの光の波長は伸びる。離れていく光は赤い方向へずれるため「赤方偏移」と呼ばれる。遠くの銀河の赤方偏移のデータからは、銀河の後退速度(移動速度)を求めることができる。後退速度と銀河までの距離は正比例の関係にある(ハッブルの法則)。したがって、銀河までの距離は、どのくらい赤方偏移を起こしているかを観測すれば後退速度がわかり、それをハッブルの法則に当てはめて、距離を求めることができる。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q.100 銀河までの距離はどうやって測る? より一部抜粋 [実際の紙面をご覧になれます])