進むALMA計画:日本のアンテナが到着、巨大台車が完成
【2007年8月7日 国立天文台 / NRAO / ESO】
南米・チリに巨大な電波観測施設を建設する国際プロジェクト「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)」が、2012年の完成に向けて着実に進行中だ。
ALMA(アルマ)は日米欧を中心とした国際プロジェクトで、南米・チリのアタカマ砂漠に電波の一種である「ミリ波」や「サブミリ波」を観測する80台のアンテナを設置する。各アンテナの観測データを合成する「干渉計」の技術で、超巨大電波望遠鏡に匹敵する性能が得られる。はるか遠くの宇宙や生まれつつある恒星などの観測に期待がかかる、2012年完成予定の次世代観測装置だ。
実際にアンテナを配置するのは標高5,000メートルの山頂施設で、標高2,900メートルの運用支援施設(OSF)も設けられる。現在は両施設の建物が建設中であるほか、参加各国がアンテナなどの機器を製造し、OSFへ運び始めている。
日本の12メートルアンテナ、現地に到着
全80台のアンテナのうち、日本が提供するのは口径12メートルのアンテナ4台と7メートルのアンテナ12台の計16台。このうち、12メートルアンテナ3台がOSFへ運ばれた。
アンテナは国内で製造後、架台と主鏡面に分解されて船でチリへ輸送された。出航は5月27日で、入港は現地時間7月13日。通関手続きを終えたあと、400キロメートル離れたOSFを目指した。主鏡面は分割してコンテナに収められたが、架台部分は丸ごと運搬。大型トレーラーに乗せられ、パトカーに先導されながら進むこと約1週間、7月22日に無事到着した。
現在、OSFでは3台のアンテナの組み立てと調整が行われている。順調にいけば、年末には試験稼働が始まるとのことだ。
アンテナを運ぶ巨大移動台車が完成
OSFに集められて調整を終えたアンテナは、最終的に山頂施設へ運ばれる。組み上がったアンテナは100トン以上の重量があるうえに、道のりは27キロメートル、標高差2キロメートル以上、平均勾配7パーセントという過酷な運搬作業となる。そこで、専用移動台車の出番だ。
台車は幅10メートル×長さ20メートル×高さ6メートル、重量130トンで、28輪のタイヤを備えている。エンジンは2基あり、それぞれがF1に匹敵する700馬力の出力を誇るが、実際の移動速度は時速20キロメートル(アンテナを搭載すると12キロメートル)になる。台車自身とアンテナが重いことに加えて、酸素が薄い標高5,000メートルでは、エンジンの出力が半減してしまうからだ。運転手にとっても危険な環境なので、酸素マスクなどの安全装置も充実させている。
台車は2台用意されるが、そのうち1台が完成し、7月30日に製造地であるドイツでお披露目された。2007年末には現地チリへ届けられ、もう1台も3か月後に続く予定だ。やがてアンテナを山頂施設へ運ぶことになるが、本当の出番は、そのさらにあとで待っている。
ALMAは直径15キロメートルの円上にアンテナを配置することで、口径15キロメートルのアンテナと同じ空間分解能(より細かい構造を見分ける能力)が得られる。一方で、感度を高くしてより暗い天体を観測するために、電波を効率よく集められるようアンテナを直径150メートルの範囲内に集めることも要求される。
この機能はカメラのズームレンズに例えることができるが、それを実現するのが2台の台車だ。もちろん、アンテナの配置にもずれは許されない。そのため、アンテナを運び終えた台車は、指定された位置にミリメートル単位の精度で降ろすことができるという。