ハッブル宇宙望遠鏡より鮮明!
シャッターチャンスだけを集めてシャープな画像

【2007年9月13日 Lucky Home Page Press Releases

地上の大型望遠鏡にとって避けられない、大気のゆらぎによる解像度の低下を補正する新たな手法が、実用化に近づいている。その名も"Lucky Imaging"。高速で連写して、たまたま大気が安定していたときの画像だけを拾い出すという簡単な原理だが、ハッブル宇宙望遠鏡よりもシャープな画像を得ることができた。


キャッツアイ星雲の比較画像

ヘール望遠鏡で撮影した惑星状星雲NGC 7543、別名キャッツアイ星雲。左が直接撮影した場合、右が Lucky Imaging を適用した場合。撮影範囲が広い関係でHSTほどシャープではないが、かなりの威力を発揮している。クリックで拡大(提供:The Lucky Team)

M13の比較画像

球状星団M13の中心部拡大画像。左が Lucky Imaging を使ったヘール望遠鏡、右がHSTHSTの方がはるかに撮影時間が長いため、星が明るく写っているが、ヘール望遠鏡がシャープさで勝っていることがわかる(提供:The Lucky Team)

近年の観測装置の発展には、望遠鏡の大型化とともに、大気のゆらぎの克服という流れがある。

NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)は、大気の外に出ることで性能をフルに発揮している。しかし、宇宙望遠鏡は打ち上げや管理に膨大な費用がかかる上、サイズも制限される。HSTの口径は2.5メートルで、地上で活躍する望遠鏡と比べると平凡な大きさだ。

一方、地上の大型望遠鏡で取り入れられているのが「補償光学」だ。これは明るい星を望遠鏡の視野に入れて、その光から波面のゆがみを検出し、数箇所で凹凸を変えられる薄鏡をそれに合わせて制御、望遠鏡からの光を反射させて補正するしくみである。

ただ、基準星から離れた方向では大気のゆらぎ方が異なるため、補償光学で画像がシャープになる範囲は限られる。この範囲は観測する光の波長が長くなるほど広くなるため、補償光学は赤外線観測では積極的に使われているものの、可視光における実用例は少ない。また、シーイングが悪いと、やはりシャープになる範囲は狭くなる。

そこで、米英の研究者が開発したのが"Lucky Imaging"と呼ばれる撮影方法だ。大気は常にゆらいでいるが、ごく短い時間で区切れば、ぴたりと収まっている瞬間があるかもしれない。そのごく短いシャッターチャンスの間「だけ」撮影すれば、望遠鏡の性能をフルに発揮したシャープな画像が得られるだろう。このいわば「運任せの撮影」が Lucky Imaging の原理であり、名前の由来である。

原理自体は、1978年にアマチュア天文家が考案していて、惑星などの明るい天体を撮影するのに使われている。しかし、研究目的で Lucky Imaging を使うには克服しなければならない課題があった。

まず、この方法では暗い天体を写すのが困難なので、一瞬だけ撮影した画像を何枚も重ね合わさなければならない。これは、近年急速に発達したCCD撮影とデジタル画像処理で簡単に実現する。

もう1つの問題は、CCDで撮影するときに露出時間が短いと、ノイズが天体の光に対して目立つようになってしまうことだ。そこで、研究チームは英国の企業が開発した新しいCCDを導入した。このCCDはデータ読み出しの際のノイズが小さく、感度も高い。そのため、1秒間に20回という高速連写を行っても、実用的な画像が得られるという。大量に撮影した画像から、大気の影響が小さいものだけを自動的に判定して合成すれば、シャープな画像の完成だ。

研究チームは米国パロマー天文台のヘール5.08メートル望遠鏡で Lucky Imaging を試した。天体の光を赤外線撮影用に開発された補償光学装置に通し、「おおまかに補正された像」を可視光フィルターに通して高速連写。そして、全画像の10%だけを合成し、最終的な画像を得た。結果、可視光では初めて、望遠鏡の光学的限界に近い分解能が得られた。

ヘール望遠鏡はHSTの2倍の口径を持ちながら、これまでは10分の1の分解能しか得られなかった。しかし、 Lucky Imaging の力で逆にHSTの2倍の分解能を得たのだ。ちなみに、かかった費用はHSTの「5万分の1」だ。

研究チームを率いた英国ケンブリッジ大学のCraig Mackay博士は「宇宙望遠鏡の画像は高画質を誇りますが、それでも望遠鏡のサイズに制限されます。私たちの技術は、HSTよりも大きく、潜在的に高い分解能を持つ望遠鏡に使うことで威力を発揮するはずです」と述べた。将来は口径10メートル級の超大型望遠鏡に導入されるかもしれない。

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