「すざく」と「チャンドラ」が突き止めた宇宙線の製造工場
【2007年10月5日 宇宙科学研究本部】
日本のX線天文衛星「すざく」とNASAのX線天文衛星チャンドラによる観測で、さそり座にある超新星残骸が、とてつもない速さで宇宙線を生成していることが突き止められた。地球に降り注ぐ宇宙線の源が、超新星爆発の衝撃波であるという長年の仮説を強く支持するものとなった。
宇宙線は、宇宙空間をほぼ光速で飛び交う高エネルギーの荷電粒子だ。地球にもたえず降り注いでおり、毎秒100個程度はわれわれの体を貫いている。この宇宙線が発見されたのは20世紀初頭のことだが、その生成メカニズムは謎とされてきた。
しかし近年のX線観測衛星による観測で、宇宙線の大部分は太陽の8倍以上もの重い星が重力崩壊したときに起こす超新星爆発の衝撃波によって発生することが有力になってきた。
なかでも、さそり座の方向約3000光年の距離にある超新星残骸RX J1713.7-3946は、銀河系の天体の中でも、宇宙線の存在を示すX線や超高エネルギーのガンマ線での明るさが際立っている。そのため、この天体こそ、長いあいだ人類が探し求めてきた「宇宙線の製造工場」ではないかと注目を浴びるようになった。
そこで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部(ISAS)の内山泰伸研究員を中心とする研究チームは、すざくとチャンドラを使い、このRX J1713.7-3946の観測を行った。
その結果、チャンドラが2000年、2005年、2006年にとらえた画像に、時間の経過とともに変化するX線が見つかった。得られた画像は、宇宙線に含まれる高エネルギー電子の分布を示すものであり、宇宙線が1年という短期間でエネルギーを得る(「加速」される)過程が、はじめて直接とらえられた。
また、超高エネルギーガンマ線が宇宙線の主成分である陽子によって作られていることも明らかとなった。
一方、すざくによるX線スペクトル観測では、10キロ電子ボルトあたりのエネルギー以上で急激にX線の強度が弱まることがわかった。
この「カットオフ」と呼ばれる現象が現れるX線のエネルギーは、宇宙線のエネルギー増幅率によって決まる。観測から、エネルギーの増幅率が、宇宙線の加速に関する標準的な理論から考えられるほぼ最大値であることが明らかとなった。
すざくの観測は、宇宙線がこのような短時間に、これほど高いエネルギーにまで加速されていることを初めて示す結果となった。