火星表面の4割、太陽系最大のクレーターか

【2008年6月26日 JPL / Caltech

起伏が激しい南半球に対して、火星の北半球は標高が低くてなだらかなのはなぜか? この二分性を説明しようとして20年前に否定されたアイデアが、再び注目を浴びている。それによれば、北半球は丸ごと一つの衝突クレーターだというのだ。


(火星全面の高度地図)

火星全面の高度地図(左上は南極、右上は北極付近)。青は標高が低く、赤や茶は高いことを表す。南北の違いは一目瞭然だ。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/GSFC)

事実だとすれば、太陽系で圧倒的最大を誇るクレーターの存在が確認された。それは赤道半径約3,400kmの火星に存在し、端から端まで約8,500km。39億年以上前に、冥王星よりも大きいな天体が火星に衝突したことで形成されたという。

このシナリオを検証した3編の論文が、26日発行の科学雑誌「ネイチャー」で発表された。

議論の起源は、探査機が初めて火星に到達した1970年代までさかのぼる。表面の起伏を測定したところ、地球からの観測ではわからなかった火星最大級の特徴が浮かび上がったのだ。北半球には、火星の表面積の約40%を占める太陽系有数のなだらかな領域「ボレアレス平原(Vastitas Borealis)」が存在する一方、南半球は起伏が激しく、地殻が厚くてボレアレス平原に比べると標高が4〜8kmも高い。

北半球と南半球の性質が極端に異なるという火星の「二分性」には、天体衝突説と内部プロセス説が提案されたが、確証されていない。とりわけ1984年に提案された衝突説は3つの反論を受けて否定されてしまった。第一に、クレーターは真円状であるはずなのに、ボレアレス平原は楕円形であること。次に、一般的なクレーターは縁が盛り上がるのに、ボレアレス平原の境界はなだらかな斜面であること。最後に、大規模な衝突があれば、熱で惑星表面全体が溶けてしまい、痕跡が残り得ないことだ。

米・カリフォルニア工科大学の大学院生Margarita Marinova氏らは、500種類の衝突をシミュレーションで再現し、火星全体を溶かすことなく楕円形で縁のないクレーターを形成するような衝突があり得ることを示した。それによれば、直径1,600〜2,700kmの天体が、秒速6〜10kmで、表面に対して30〜60度斜めにぶつかったのだという。

一方、探査機の観測データからクレーターの形状を詳細に分析したのが、米・マサチューセッツ工科大学の研究員Jeffrey Andrews-Hanna氏率いる研究チーム。やっかいなことに、火星では火山活動が活発だった時期があり、ボレアレス平原の一部は溶岩に埋まっている。そのため研究チームは標高だけでなく重力の分布も詳細に調べ、溶岩の影響を除去して本来の形を浮かび上がらせた。平原改め「ボレアレス盆地(Basinの和訳:一般に衝突跡と解釈される巨大な円上地形)」とAndrews-Hanna氏らが呼ぶクレーターは、差し渡し8,500km。これまで太陽系最大とされていたヘラス盆地(2,000km)の優に4倍だ。

巨大天体の衝突はクレーターだけでなく、南北で地殻の厚さや磁場にも差異があることも説明できるようだ。これは、米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校のFrancis Nimmo氏らのシミュレーションで明らかにされた。

太陽系を見渡せば、水星にも「カロリス盆地」と呼ばれる惑星の3分の1を超える直径のクレーターがある。われわれの地球も巨大衝突に見舞われ、飛び散った物質から月が形成されたと言われている。これらの大衝突はすべて40億年以上前に起きたらしい。火星の巨大クレーターは、太陽系の起源と歴史をひもとく上でもインパクトのある発見と言えるだろう。

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