天の川銀河のダークマターが「見える」可能性
【2008年8月8日 UC Santa Cruz News】
光でとらえることはできないが、銀河や銀河団を包んでいるとされるダークマター。精密なシミュレーションで、その分布が均質ではなく、銀河よりも小さなスケールの塊や流れが存在するという結果が出た。われわれの天の川銀河の中にも、ダークマターの濃い塊があるとすれば、直接的な手段で検出できるかもしれない。
ダークマター(暗黒物質)は宇宙に存在する物質の約82パーセントを占めるとされている。目に見える物質へ重力によって影響を及ぼし、宇宙の構造形成にかかわってきたダークマターだが、直接観測することはできず、恒星や銀河の動きなどから間接的に検出するしかない。
われわれの天の川銀河もダークマターの塊に包み込まれているとされてきたが、それはのっぺりとした塊なのだろうか、それとも内部にはさらに細かい構造があるのだろうか? これを確かめるべく、米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究員Jürg Diemand氏らは、スーパーコンピューターで10億個以上の仮想粒子を銀河スケールの空間内で相互作用させ、のべ110万時間の計算で宇宙137億年の歴史を再現した。
このシミュレーションは、「冷たいダークマター理論」にもとづいている。理論によれば、宇宙初期のわずかな密度ゆらぎからダークマターの小さな塊が生まれ、時間とともに合体した。それに伴い、銀河などの目に見える構造も大きく成長していった。
「ビッグバン直後から現在、すなわち宇宙の全歴史にわたってダークマターの分布を再現し、天の川銀河のような銀河をとりまく塊の細部に注目しました」とDiemand氏は語る。「(塊の中に)さらに小さな構造がたくさん見つかっています。太陽系が存在するような、ごく内側の領域にもです」
どうやら、天の川銀河をとりまくダークマターにはむらがあり、いたるところに塊や流れができているようだ。その規模も大小さまざまで、比較的大きなものは天の川銀河のまわりを回る矮小銀河の種となっている可能性もあるという。さらに、再現された塊の中にはかなり高密度なものがあり、重大な可能性を秘めている。
ダークマターの候補に、WIMPと呼ばれる仮想粒子がある。WIMPは電磁波とは一切反応しないが、ある理論によれば、WIMPどうしが衝突すると、電磁波の一種、ガンマ線を発する反応が起きるという。ダークマターの存在が直接検出できるのだ。
ダークマターの濃い塊があれば、そこからは常にガンマ線が放たれているかもしれない。宇宙にはガンマ線を発する天体はほかにもあるが、その多くが突発的なものだ。また、ダークマターが放つガンマ線の波長は理論上一定なので、区別できるはずだ。
今年6月に打ち上げられたNASAのガンマ線広域宇宙望遠鏡衛星「GLAST」はこの観測にぴったりだ。実際、ダークマターの検出はGLASTの目標として最初から掲げられている。Diemand氏によれば、2年ほど観測を続ければ典型的なWIMPからのガンマ線は最大で数十回は検出できるという。「そうなれば、一大発見と言えますよ」