増光するクリムゾンスター
【2008年11月14日 アストロアーツ】
ミラ型変光星のうさぎ座Rが極大を迎えようとしている。その赤さからクリムゾンスター(クリムズンスター)とも呼ばれる珍しい星を、この機会に観察してみよう。
文:滋賀県ダイニックアストロパーク天究館 高橋進さん
うさぎ座R(R Lep)は別名「クリムズンスター(深紅色星)」とも呼ばれる赤い色が特徴的な星です。発見者のハインドが「暗黒に滴り落ちた血の色」と言ったように妖しげな色で、ファンの方も多いかと思います。赤い星といえばケフェウス座の「ガーネットスター」もありますが、こちらは明るい赤で、同じ赤でも対照的な色の星です。
このR Lepが極大に向かって増光中で見ごろになっています(図2参照)。前回の極大(昨年8月ごろ)はおよそ6等で、近年まれに見る明るい極大でした。夏の極大だったためにじゅうぶんな観測ができなかったのが惜しまれます。これに続く今回の極大は観測条件もよく、はたしてどれくらいの明るさになるかたいへん興味深いところです。
最近のR Lepの変光はおよそ11等から7等くらいですが、実はおよそ30年ほどで変光範囲自体が変化しており、明るい時期は6等から10等、暗い時期は9等から12等の間となります(図3参照)。最近はかなり明るい時期に位置しているようです。
せっかくいい時期に極大になるので多くの皆さんに観測していただきたいのですが、赤いだけに目測しづらいのもこの星の特徴です。赤い星と青い星をじっと見ていると、赤い星のほうがだんだん明るく見えてきます。そのため、変光星観測ではあまり長くじっと見ずにすばやく目測するのですが、慣れないとつい時間がかかってしまい、明るめに見積もりがちです。また、低空だったりもやがあったりする場合は、赤い星は明るく見えてきます。光害などで背景が明るい場合も、赤い星は明るく感じられます。
また、変光星と比較星が縦に並んでいると、下の星は明るく、上の星は暗く感じられます。R Lepでは南側にわりと使いやすい比較星がいくつもあり、つい縦に並んだ星を比較することがあるので注意しなければなりません。また人によって色の感じ方というのは異なりますので、個人差も出てきます。そのためR Lepなどでは、光度曲線を描くときに観測者別に描く必要も出てきます。(図4)は2003年の秋から2005年の春にかけてのR Lepの光度曲線ですが、観測者別に色分けがしてあります。この光度曲線では、明るく見積もる人と暗く見積もる人とでおよそ1等級の差があるのがわかります。
このような誤差のせいもあり、極大日の予報にもかなりの誤差が生じます。年鑑によって何か月も極大日がずれることも多く、実際に見てみると予想外に明るく驚かされることもよくあります。またそれだけ観測しがいのある星とも言えます。この機会にぜひ真紅の色に輝くクリムズンスターをお楽しみください。なお観測用の変光星図は日本変光星研究会のホームページの「変光星図」より取り寄せることができます。